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38.ちょっとしたキッカケ
しおりを挟む触ったが最後とは正に、ジョルジオに当てはまることだが元々は意図的に根回しをしていたのではなく偶然知ってしまっただけなのだ。
トリスタンがミナーシュを合法的にゴルジエに売りつける火種を探しているいる事を。
けれどもそうする事によってトリスタンは婚約者を売りつけた最低の男として名誉を地まで落とすことになる。
それを分かっているのかいないのか、意気揚々と「必ず、君にやる」と大金を手にする約束までしているトリスタンの姿をあるパーティー会場から離れた中庭で見かけたのはいつだったか。
ミナーシュがまだ侯爵家で妻のような扱いを受け、侯爵家の金庫を空にせんばかりに散財しているらしい所を見るとその策は上手くいっていないのだろう。
ミナーシュの散財で傾きかけたルーシュフル侯爵家を修正して、ヒステリックな婚約者を追い出す為にはきっとこのゴルジエからの提案をどうしても受けて迅速に進めたい筈だ。
それほど迄にルーシュフル侯爵家の財と名誉はミナーシュの日々の愚行によって追い詰められているということだ。
慎重すぎて身動きが取れずにいる彼の父とは違い性格上トリスタンが忍耐強いとは思えないので今頃きっと上手くいかなくてヤキモキしているだろう。
(まぁルーシュフルを排除するのは簡単な話。今の所エリスに関わってくる様子もないし……とりあえず危険分子だけを取り除こう)
そう決めたもののジョルジオが進めたのはミナーシュがこの間の暴漢事件の犯人だと裏付ける証拠集めと、整理だけだった。
ケールは不思議に感じていたもののその意味は夜会で明らかになった。
公務ではないにも関わらず、エリスを側に置くセイランと嬉しそうに話すエリス。いつもは嫉妬してレイヴンに鼻で笑われるのがオチだが今日に限っては自分が席を立つ以上この二人の元が一番安全と言えるだろう。
「ちょっと待ってて、用事を済ましてくるよ」
「ええ、わかりました。いってらっしゃい」
(可愛い)
「すぐに戻るから二人と居てくれる?」
「ですが、お邪魔じゃ……」
「私としては嬉しい限りよ!ね、レイヴン?」
「ああ、俺は構わんが」
(ジョルジオが何を始める気か知らんが此処が安全だろう)
「ありがとう、二人とも。だからエリス少し此処にいて?」
「分かりました」
愛おしそうにエリスに微笑みかけて手を挙げて去るジョルジオが今から、エリスを脅かす芽を摘みに行くのだとは思わないだろう。
会場を出ると見せかけて、歩きながら敬遠されているのか一人で居るトリスタンを確認する。相手が引いているにも関わらず子息達を漁るミナーシュもついでに確認するとトリスタンにあえて近づく。
目も合わせずにすれ違いざまに囁くと、トリスタンはハッとジョルジオを見てから少し時間を空けて後に続き会場を出た。
「ちょっと待って下さい!」
「ん?なにかな?」
「さっきの……」
「ああ。証拠は揃っている……ミナーシュ嬢にはそれ相応の対処をするつもりだ。ルーシュフルとて無関係では済まないだろう」
「そんな!私は何も知らなかったんだ!ミナーシュとは別れたいと思っています!!」
「君はともかくれっきとした貴族である侯爵には同情すべきだろう。さっさと切り離していれば飛び火を免れたのにと……」
「だが!もうすぐ……っ!」
(だめだ、言えない。人を、妻を売買するなど私も罪人同様だ)
「もうすぐ?」
「いや、何でもありません」
「俺なら罪を追求して追い出すだろうが、君は案外彼女には優しいようだね」
「!」
(そうだ、罪を追求して追い出す様に見せかけてゴルジエに売れば……)
「何か?」
「なんでもありません!彼女と無関係であれば我が家は助かるのですね」
「さあ?俺では分からないな」
(きっとそうだ!!)
「で?俺は忙しいんだが?」
「す、すみません!では……っ失礼します!」
会場に戻るトリスタンに溜息をついたジョルジオは今日は参加していないゴルジエの不正の資料を思い出してもう一度息を吐いた。
(全て終われば、正式に結婚を申し込もう)
きっとこれからは自分達とは会うことも出来なくなるだろう者達がエリスに危害を加えぬようちゃんと……
「守るよ」
(キミがセイランを、レイヴンを守ってくれたように)
聡明で頭脳明晰なエリスがセイランの為に、時にはレイヴンの為に暗躍している事は聞いた。
その度に身を潜めるように日陰にいたエリスを思って心が痛んだ。
それでもこれからは公爵夫人となるだろう彼女の心配事がないように、夫としてきっとやり遂げて見せると内心で意気込んだ。
務めを全うするだろうエリスはきっと社交会の華となるだろうと想像して笑みが出た。
「まだ気が早いか……」
「団長、独り言が増えましたね」
「ケール……気配を消すのが上手くなったね」
「気付いていらっしゃったでしょうに」
「さあケール、上手くいくだろうか」
「ええきっと」
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