婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

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35.返事だと思ってもいいかな

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「ジョルジオ様、どうしたのですか?」


トリスタン達の騒ぎを眺めていたジョルジオがエリスの腰を支える力を強くした。


ジョルジオすれば、「だからと言ってエリスは渡さないぞ」という気持ちから無意識に入った力だったがエリスは突然添えられた手に力が入って何かあったのかと驚いたのと、力強く抱き寄せられて心臓が煩いのだ。

ジョルジオは頬を染めて落ち着かないそんな様子のエリスに思わず顔が緩む。

この際だから少しだけ積極的になってもいいだろうかと、人目など気にせずに長い睫毛に縁取られた琥珀色の瞳を真近くで覗き込んだ。


「ーっジョルジオ様?」

「ジョルジュって呼んで」

「とりあえず離れて、その……誤解されちゃう」



動揺するエリスの可愛らしい唇に触れるだけのキスをする。

「どんな誤解?キス、してるかもって?」

「も、もうしました……っ」

「ごめんごめん、俺の婚約者があまりに可愛すぎて」

「ジョルジオ様……」

「ジョルジュ」

「……」

「そう呼ばないとキスする」


もっと本気のやつ。とまるで脅迫のように付け足せば少し考えてから顔を真っ赤にしたエリスが冷静を装っていつもより幾分か小さな声で呼ぶ。


「ジョルジュ……」

不安気に見上げられた目はいつもより水気が多いし、照れて上気した頬と腰に回してある手に添えられたエリスの温かい手が頼りなくて好きな女性にこんな風に見上げられると酷く心を乱される事を初めて知った。


「まって、ちょっと見ないで」

おそらく顔は緩み切って頬もエリスに負けない程赤いだろう。
少し離れているケールが鬼の形相だがそれすらも今は気にする余裕が無い。


「……ふふ、そっちも真っ赤ですね」

(我慢できる俺を褒めて欲しいよ)

今すぐに抱き上げて連れて帰ってベッドに放り込まない理性がある自分を内心で褒め称えて何処か嬉しそうに「お揃いですね」とジョルジオの頬を人差し指てそっとつついたエリスにまた卒倒しそうになった。


そんな二人を嫉妬の愛メラメラと睨みつける者が数人。

先程、人前で婚約者に「結婚なんてできるか!」と罵られ恥をかいたばかりのミナーシュと、仕方なくゴルジエにフォークで刺したパーティのお菓子を食べさせてやっているロベリアそして……


(私のだった筈なのに……っ!)


時間が経てば経つほど惜しくなるトリスタンの粘度のある視線だ。
そんなトリスタンに近づいたのはゴルジエで、顔を合わせた途端に八つ当たりから言い争いを始める二人の女達のあまりに醜い姿に目が覚めるトリスタン。


「何故、私はこんな者達の為にエリスを蔑ろに……醜いな」

言い争う二人には聞こえない程度の小さな声だった。

思わず溢れてしまった程度の呟きに返事をしたのは、同じく言い争う二人の女から目線を逸らさないままのゴルジエだった。

そんな醜さが美しいのだと人間らしいと舌なめずりするゴルジエは異様で、あえてロベリアに聞こえるように言った言葉はロベリアの意識をこちらにか戻させた。

「そんな醜い雌を飼ってやるのが甲斐性というものですよ」

「ーっ!」

(殺してやる!この男!)


ロベリアのことももう今となってはどうでも良いがいっ時は身体を交わした女性だ。何となく不愉快で眉間を寄せた。

「ゴルジエ殿……あまりに時代錯誤だな」

「ロベリアが望んだことです」

「トリスタン違う……っ!?」

トリスタンが自分を庇った事が嬉しかった。エリスに手を差し出されるときのような惨めな気持ちは感じなかった。

けれど「違うのだ」と否定しようとトリスタンの胸に飛び込もうと一歩踏み出した途端にトリスタンはあまりに冷たい目をしていた。

「触るな」とでも言いたげな様子と言葉から発された「敬称をつけろ」という小侯爵らしい台詞。

どちらを選んでいても最低な男だったのかもしれないとロベリアの頭の中を過って、言い訳する力もかつての愛人の前で見せようとしていたプライドもさえも削ぎ落とされたような気がした。


けれども先ほど「結婚なんてできるか!」と怒鳴られたミナーシュもまた暗い表情で今にもトリスタンを問い詰めたそうだ。貴族令嬢としての自覚が最低限でもあるのかミナーシュとしてよくモテる自分という幻想を守りたいだけなのか多分後者だろう彼女は先ほどまでの勢いはなく大人しい。

この生意気なミナーシュが未来に怯え、プライドを傷つけられる姿だけが救いで快感だった。


「 」


ゴルジエがそっとトリスタンに耳打ちする。


少し驚いてから考える仕草をしたあと「検討する」とちらりとミナーシュを見たトリスタンの感情の伺えない瞳にゾワリとミナーシュは身を震わせた。



「ジョルジュ、ここじゃ駄目です」

「じゃあ帰ったら抱きしめてもいい?」

「お手柔らかに」

「……結婚、したいな早く」

「……そうですね」

真っ赤な顔で頷くエリスに嬉しそうに声を弾ませるジョルジオの声だけが、やけに響いた。


「それって……!返事だと思っても良いかな?」




(ああ恨めしい)
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