婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

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31.遡ること少し前のこと

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オークションも長丁場となる為に設けられた中休みのこと。



エリスと一緒に客席の裏に設けられた小さな休憩室で休もうとしていた時のことだった。ここではこの休憩室のことを控え室と呼ぶのだが控え室は何処だと騒ぎ立てる高圧的な女性の声が聞こえて何となく視線を移すと、エリスも同じことを考えたようで少し顔を顰めたあとに目を逸らした。



(ロベリア嬢か。エリス、顔色が悪いな)



「はぁ!?一段上の席にはあるのに私達は無いですって!?」

「ロベリア、落ち着いてくれないか。あの席は特別な方々だけが……」

「なんで!あの子が座っていて私は……ッ!」

(エリスの席のほうが待遇が良いなんて……恥よ!)



目が合う前にロベリアの視界に入らないようエリスをエスコートして控え室へと入るとエリスは困ったような笑顔で「すみません」と笑った。


「大丈夫?気分が悪いなら退場して貰おうか?」

「いいえ、彼女達もプライベートでしょうから」



ふと浮かぶ、この後に出品されるであろう美術品の数々。


中には所謂「珍味」のようなもので変わった意味合いを持つ美術品も沢山あって大抵それらは贈り物ではなくコレクション目的で購入される。


(そう言った意味で高値がつくが)


「エリスは優しいね」

「そんな事ありません。気にするのも億劫なだけです」

「ははっ!そうだね優しい上に賢いとはな」

「ジョルジオ様、何を言っても褒めて下さるじゃないですか」

「それほど君が愛おしいってこと」




きっと次に出品される類の物は変わった意味合いの美術品だろう。

エリスとの幸せな時間を噛み締めながら、この幸せを守る為にやるべきことを頭の中で整理する。


とにかくこれでは納得しないだろうトリスタンとミナーシュからも、ロベリアからもエリスを守ることと、二度と手を出せないほど完璧に勝つことを心の中で誓った。


(何よりもエリスを尊重したい。不安なく心から安らげるように)



周囲へのアピールではなく、ただ心に有り余るほど湧き出てくる愛おしさを伝えたくてあらゆる「愛」を意味する美術品を落としてエリスへ贈る。


自分の中にあるありとあらゆる種類の愛情は全てエリスのものだという意味合いを込めて贈る芸術品をその趣旨をきちんと理解する聡いエリスは拒否することなく、驚きながらも照れたような顔で「ありがとうございます」と受け取っていた。



後半のオークションが始まるとトリスタン達も、ロベリアも負けまいとすごい剣幕で競い合ってきた。


「エリス様より良いものを買って!」というミナーシュの甲高い声も、

「何でもしてあげるから!」と悲痛に叫ぶロベリアの声ももう世間体など気にしていないのか聞きたくなくても聞こえてくる。




(何でも……か)

目の前で繰り広げられる競り、「愛隷の契り」は美しいルビーが散らばる派手なチョーカーでその意味を知る者はまさかパートナーに贈ったりしない。



それに札をあげたのはほんの思いつきで一種の賭けでもあった。


ジョルジオが札を挙げれば張り合うように挙がる二つの札。


まずトリスタンが値を上げてその後にロベリアのパートナーが値を上げた。


てっきりまだこの値段であればジョルジオが札を挙げるのかと思っていた二者は驚く。


ジョルジオが降参とでもいうように態とらしく首を振ると「愛隷の契り」はロベリアのパートナーの元へと渡った。



「や、やったわ!!貴方やるじゃないの!」

「こ……これを受け取ってくれるかい?」

「勿論よ~!ありがとう!!」

(美術品なんて分からないけど、豪華だしアクセサリーなら歓迎よね)

「このチョーカー、きっと似合うよ」

「当たり前でしょ、ふん」


ニタニタと笑う中年貴族に乱雑に言葉を返すロベリアがチョーカーを首に着けた瞬間、会場は一瞬騒めくが視線はすぐ次の商品に移ったようだった。



けれど、きっと美術品にも歴史にも興味のないロベリアは知らないだろう。


「愛隷の契り」はかつて好きな女性を手に入れる為に、その女性から全てを奪い自らの奴隷として手を差し伸べ手に入れた男の作った「首輪」なのだ。

選択肢を奪われたその女性は一生、彼に愛でられる為だけの奴隷として城から出られなかったらしい。


なので「愛隷の契り」を対等なパートナーに贈る男は居ない。

そしてそれを受け取ると言うことは「貴方の愛の奴隷になります」と契りを交わすも同然の行為だ。

一部のマニアックな者達が好んで主従を築く為に使われたりする方法だが、きっとロベリアは知らずに公の場で恥をかいたのだ。


形式上はプロポーズと同じとされているが含まれる意味が違う。


この先彼女がどんな目に遭うかは中年貴族次第だが、少し憐れにも思う。



(まぁだがこれで懲りるだろう、少なくともエリスの視界からは消える)




「ロベリア嬢は本当に親友だったの?」

「そう思った事はありません……一度も」

「そう……なら安心したよ」

「ロベリアは意味を知らないのでしょうね……」

「あぁアレは展示するもので贈り物ではないね」


親友ではないと言いながらも少しだけ心配そうに揺れたエリスの瞳を見てどうか俺の心の黒い部分に気付かないで欲しいと思った。




(わざと陥れたんだとは言えないな)











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