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27.突然の訪問と落胆
しおりを挟むある日突然クロフォード伯爵邸を訪問するトリスタンに騒然とする。
「私はルーシュフル侯爵家の後継者だぞ!」
「申し訳ありませんが、お約束でなければお通しする事はできません」
門を通して貰えないトリスタンは門の前に馬車を付けたまま降りて来て騒ぎ立てている。困ったように門番の者が宥めるも全く聞く耳を持たない様子だった。
聞きつけた執事長が対応に来たものの「エリスに繋げ」と一方的なトリスタンの言い分に会話が成立しないので長引くばかりだ。
それを見かねたエリスが皆が引き止めるのを説得して現れたが、
少しの間今のエリスの姿に見惚れて静かになるも、思い出したように声を上げるトリスタンの稚拙さにうんざりしながらもエリスは冷静に対応した。
「ルーシュフル小侯爵、突然の訪問は困ります」
「エリス、中に通して欲しい!話があるんだ!」
「帰って下さい」
「公文書を送る!もう一度やり直して欲しい!」
と必死なトリスタンの身勝手な言葉に背中に冷汗が伝う。
どうしてそのよつな言葉が出るのか理解に苦しむ上に怖くも感じたからだ。
「もう貴方とやり直すつもりはありません」
「もう一度、チャンスが欲しいんだ」
「無理です。私はジョルジオ様を愛しています」
「いっ時の感情かもしれないだろう!私の方が君と長く一緒に居たんだぞ」
「ありのままでいられた時間は貴方よりジョルジオ様の方が多いわ」
身分の所為で使用人達が強く拒絶できないのをいい事に無理矢理門に近付いて柵の間からエリスの両肩を掴んだトリスタンの目は血走っていて話の通じないのも加わって不気味でもあった。
「離して下さい!!」
「離しなさい!!何をしているんだ!!」
エリスが行った事を聞いて駆けつけてきたのはエリスの父でジョルジオから正式に婚約を申し込まれたことを話し、受け入れたことをトリスタンに話す。
エリスの肩を離しふらりとよろけたトリスタンはそれでも諦めようとはしない。
「そんな……、遊ばれているんだエリス。目を覚ませ!」
そんなトリスタンにため息混じりにエリスの父が見せたのは王太子夫妻の証人証明だった。
「これでは公爵が娘と簡単に別れることはできません。公爵からは誠意が感じられます。どなたかとは違ってね」
「なッ!私だって……」
声を荒げたトリスタンの言葉を遮り彼の背後から肩に手を置いたのは、帰って来たばかりのケールでトリスタンは驚愕する。
「どの辺が誠意でしたか?」
「ケール……!!!」
「ケール帰ったのか」
「ただいま戻りました、父上。……で、どの辺にトリスタン殿の誠意が見られたのか教えて下さい」
「ずっと側にいただろう!」
「浮気をしながら?外見を貶した事も誠意でしたか?後は根暗だっけ?」
「それは……っ」
「そもそも貴方がエリスを隠そうとしたのでは?」
「そんな昔のことは忘れていたんだ!!」
「話になりませんね、帰って下さい」
「……ひっ!!」
妹を溺愛するケールの怒りはその場の者全てに伝わる程で、あまりのケールの迫力に腰が抜けたのか尻餅をついたトリスタンを見てエリス虚しくなる。
(何故この人の言う事を真に受けていたのかしら)
自分が、仕方なくだとしても婚約者として尊重していた人はこんなにも小さな人間だったのかと気付いてしまい投げやりだった自分に酷く後悔をした。
「きっと、あのまま別れていなくても私は貴方を愛せない」
「ーっ、わからないだろう」
「今なら分かるの。貴方がどれほど情けない人か」
「なんだと!?」
「妹の言う事に何か間違いが?」
「ひっ……もういい!!今日は帰る!」
「もう来ないで下さい」
(セイラン様達のおかげだわ……感謝しなくちゃ)
「団長の言う通り、急いで良かったな」
「お兄様、そうね……」
「エリス!震えているじゃないか!」
「大丈夫、お父様も戻りましょう」
情けないトリスタンの姿をふと思い出して、震えがマシになったエリスが笑うと父は涙ぐみながら嬉しそうに笑った。
「久々にエリスの本当の笑顔が見られて嬉しいよ、公爵に感謝しないとな」
ケールによってくしゃりと乱暴に撫でられた頭も、父の笑顔も温かくて安心したエリスは何故かジョルジオに会いたくなった。
(嬉しい事を伝えたい人が居るって幸せなのね)
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