婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

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26.勘違いか思い込み

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「トリスタンですか……?」


「手紙が届いていると聞いた、力になるよ」


「あ……実は私は内容を知らなくて。ただ毎日届くのです」


エリス曰くトリスタンから毎日届く手紙に目を通す事もしていないらしく、父が念の為に確認していたのだろうと言う事だったがその父君から聞いた話によるとこのままではミナーシュとの結婚が正式に進められてしまいそうなトリスタンは彼を甘やかす両親に泣きついたらしい。


「エリスを取り戻せるなら、エリスとの再婚約の公文を送ると」


「ですが私はもう……」


「あぁ、強引な気がしてエリスともっと仲を深めてからと考えていたが……俺から先手を打つことにしたい」


「!!」


「ほう、では正式に家門に婚約を申し込むと?」

「やっとね!」



「エリスさえ良ければ……」

「私は……、ジョルジオ様がいいです」




嬉しそうに目を緩めたジョルジオの頭にゆるく手刀を入れたレイヴン。

声を弾ませるセイランが提案する。




「なら、私達が証人になるわ!ね、レイヴン?」

「ああ婚約に証人とは些か大袈裟だがこれなら誰も茶々を入れまい」



「セイラン様、レイヴン様……なんと感謝すればいいか……」

「俺としてもエリスと静かに過ごしたいから助かるよ」




「いい、二人は家族同然だからな」

「そうよ、私たちに任せて」



流石に王太子夫妻の証人がついた上に「至急」の言葉の所為でその日の内に出来上がった証書はそのままエリスの帰宅に合わせてジョルジオが直接渡す事になり、

一足遅れて帰ってくるであろうケールの驚いた顔を想像した。


「クロフォード伯爵、突然の申し出で申し訳ない」


「いえ、相談したのは私ですから。……それは」


「エリスからの了承も頂いています。正式に婚約を申し込みたい」


「私が急かす形になったのでは……」


「いえ、当初からそのつもりでした、エリスに無理をさせないようゆっくりと進めようと考えていたんです」


「お父様……私、幸せなの」


「エリス……分かりました。妻も別件からすぐに戻ります」


クロフォード伯爵は再び証書に視線を戻してから驚く。


王太子夫妻の署名と、証人を証明する書類が一枚入っていたからだ。


「これは……!」

「お二人がお気遣い下さったの、お父様」


「エリスの人徳のおかげです。実は陛下方からも祝福して頂いています」

「「!」」


遅れて帰って来たエリスの母は涙しながら「良かったわ」と喜んだ。

その間もしきなりに一刻も早くエリスに会おうと手紙を書いているトリスタンはそんな事を知る由もない。



「早く会って、エリスを取り戻さないと……!」




「トリスタン様ぁ~~まだお仕事してるのですかぁ?」

「……ああ、少し待っててくれ」

「やだ~、もう待てません。お仕事は終わり~!」


(こんな馬鹿な女と結婚する事になってしまう!)



「トリスタン!来なさい!」

「母上……その者は?」

「うちの庭師見習いよ」

「ミナーシュお嬢様っ私は……」

「ミナーシュ、また手を出したのか!?」

「私そんなつもりなかったのぉ、勝手に勘違いしたのよぉ」


「でも!キ、キスだって……!」

「してないしてない~~!!でも、あんまりお仕事ばかりで構ってくれないとしちゃうかも?」


「ミナーシュ……」

「トリスタン!兎に角この件は預けたわよ!!エリスならこんな事無かったのに!!」


「お義母さまったら怖い顔しないで下さい、ね?」


「この者はクビだ、ミナーシュはちょっと来い!」



(エリスを取り戻すまでの辛抱だ……っ)



「ね?ただ寂しかったから話し相手になって貰っただけなの……だから、トリスタン様がちゃんと構ってよ?」




目の前のリボンやフリル、甘ったるい声に胸焼けがしたがストンと落ちるドレスの音だけは小気味が良かった。



(まだミナーシュとは婚約者だし……抱いたっていいよな)




頭の中でいつか見るつもりのエリスの肌を想像した。


そんな日が来る事もないとも思わずに。


ただ今は、幻想を想い目先の欲を貪った。






(返事がないなら、会いにいけばいい……!)






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