婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

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24.エリスの本音と誤解

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「貴方、勘違いしているようだけど……」



訝しげに眉を顰めるエリスの表情は、トリスタンだけじゃなく殆どの者達が初めて見るものでジョルジオの内心は初めて見るその表情にすら高揚していた。



「貴方に容姿を比べられる筋合いは無いわ。そもそも貴方の事を好きだったのなんて幼い頃のほんの一瞬だけよ。婚約者だったから仕方なくって納得してただけで。別れたのだって貴方がこんなにも馬鹿だって結婚してしまう前に知れて良かったと思ってるの」



「え……エリス……?」


「そもそも、初めてちゃんとした恋をして気付いたのだけど貴方にはドキドキしたり胸が苦しくなったりした事もないわ」
 

「い、一度も?」


「ええ、一度もよときめいた事なんてない」


「嘘だ!」


「私に地味な装いや顔を隠す事を強要したり、何かあるとすぐさま騒ぎ立てていう事を聞かせるだけの人にどうやってときめくのかしら」


「それは……!忘れてたいたんだ!そんなにも美人だったなら言ってくれたら良かっただろう……」


「美人かは分からないけど、容姿を気に入れば貴方は浮気をしなかったというの?傲慢な振る舞いを直したかしら?」


「うっ……」


この分厚い眼鏡もそうだ。

まだ子供だったトリスタンが些細な嫉妬から騒ぎ立てて彼の父親に泣きついたのが原因だった。それからはずっと眼鏡に慣れていたのだ。

 
トリスタン達も素顔を忘れるくらい長い間……


まだ少女だったエリスの顔は眼鏡の下で美しい女性となっていたのだ。



全く悪気の感じられない無表情で今まで言えずにいた事を発散でもするかのようにつらつらと話すエリスにもうトリスタンは目と口を大きく開いたまま硬直している。



これには兄であるケールでさえも普段とあまりにも違うエリスの口数の多さに驚愕していた。



「ほらね!!!化けの皮が剥がれたわ!!!」

「エリスったらそう言う所あるのよね、昔から~!!」


復活したミナーシュとロベリアが途端に鬼の首を獲ったかのような勢いで大きな声でエリスを陥れようとするが、場違いな甘い声がそれを遮る。





「初めてのちゃんとした恋は、俺のこと?」


「「はっ!?」」

「え"…!?」

「団長……」


鬼の形相で出た声が被るミナーシュとロベリアと、余りにも美しくなった元婚約者に思い切り痛いところを突かれたばかりのトリスタンの濁った声が響き、呆れたようなケールの声がそれを追った。

けれど当の本人は人前であるだとか、場の空気なんて気にもしていないようでどこかスッキリした表情のエリスを満面の笑みで見ている。



「ジョルジオ様……です、今もドキドキしています」


(こ、これでは俺の方が目を見られないな)


(珍しく団長照れてるな……)



胸元に手を添えて、恥ずかしそうだけど優しく微笑んだエリスにまるで胸を撃ち抜かれたような感覚のジョルジオはどこかふわふわとしたままエリスの頬に手を伸ばして口付け……



「させませんよ団長」

「ケール」



ミナーシュは「そんな顔だけの女どこがいいのよ!!!!」と今もなお悔しそうに顔を歪めるトリスタンと、エリスに釘付けになっている会場の男達を見渡して癇癪を起こしたが、今までは黙っていた筈のエリスにあっさりと一刀両断されてしまう。



「静かに。貴女は少しマナーを身につけた方が良いでしょう」

「んなッ!!」

会場がどっと笑いで沸いた所為で屈辱に俯くミナーシュ。

エリスがそっと割れた眼鏡を拾い上げて「お騒がせ致しました」と皆にお辞儀をすると慌ててジョルジオが寄り添った。


「エリス、団長。一度休憩室へ参りましょう。馬車の準備をしますので」


騒ぎ立てる三人と、ヒソヒソと話す皆を尻目に休憩室に逃げ込んだエリスとジョルジオ、そしてケールはやっとひと息つく。



「エリス、怪我はないか?」

「眼鏡を掠っただけなので、平気です」

「その眼鏡は無くても大丈夫なのか?」

「ええ……ただの雰囲気作りですから。割れてしまっては仕方ありませんね」


「そうか………って、えっ!?エリス?」



「ハズレを引いた」と揶揄われるジョルジオの事はエリスも耳に入っていた。


ただ彼と向かい合う勇気と、今までの自分を捨てる自信が無かったのだ。



(けれど、もうハズレなんて好きな人を笑い物にさせたくない)




セットされた髪を解いて眼鏡をゴミ箱に捨てたエリスはジョルジオの見た事の無いくらいとびきり美しい女性で、ジョルジオは赤面して言葉を失う。



「似ていないのは確かでしょう?妹は美しすぎるのです」

「ケール……知っていたんだな」

「兄妹ですから」




エリスの容姿などもうどんなだって愛していたのに、こんなに美しければかえって一波乱ありそうだなと背中に汗が伝った。







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