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23.分厚いレンズの奥の瞳
しおりを挟む「う、そ」
ミナーシュのその呟きがエリスには届かないほど会場は響めく。
打たれたエリスを心配して引き寄せたまま、エリスを覗き込んだそのままの形で硬直するジョルジオと、皆の声をかき消してしまうほどの大声で「こんなのは詐欺だ!!!」と叫ぶトリスタン。
こんな事ならば眼鏡をかけていてくれた方がよかったと、顔を青くするミナーシュからはもう先ほどまでエリスを見下していた時の溢れるほどの自信は感じられない。
それは、ミナーシュ達より少し距離をとって様子を見ていたロベリアも同じだった。
大きな目を縁取るブロンドの睫毛、潤んだ琥珀色の瞳はどこまでも澄んでいて、すっと通る鼻筋によく見ると形の良い唇……
分厚い眼鏡の下がこんなにも美しいと誰が想像しただろう?
いくらロベリアが社交会の中美しいと言われいても、これではエリスが居ないからロベリアが目立っているだけ。
エリスをロベリアの引き立て役にする為に親友にしたのに、これではまるで逆ではないかと彼女は湧き上がる不安と羞恥に怒りが込み上げてきたようだ。
「エリス!親友だと思ってたのに!ずっと内心では見下していたのね!!」
「ロベリア……居たのね」
「勘違いしないでエリス!今更ひけらかしたってトリスタンは私とずっと寝てたし、ミナーシュにだってエリスにだって劣っている訳がないの!!」
「ロベリア!やめろ!!」
「何よ!トリスタン、あなただって悪いのよ!!」
「トリスタン様……まだ会っていたのですか?」
わなわなと震えるミナーシュ、慌てふためくトリスタン、プライドを傷つけられて酷く取り乱しているロベリア。
それほどにエリスの容姿は想像していよりも遥かに美しく会場を混乱させた。
どれ程彼女の元婚約者を奪っても、新しい婚約者にエリスに幻滅させようとしたって絶対に敵わないと思うほどに。
会場の反応を見てもそれは一目瞭然だった。
ばっと周囲からエリスを隠すように向かい合い、両頬に手を添えて凝視するジョルジオの顔は赤くなっていて思わずエリスも赤面する。
「エリス?」
「はい……貴方からの目だけは気になります」
「ーっ、どんな君でも好きだよ」
ジョルジオの真摯な瞳にほっとしたように瞳を緩めたエリスが尺に触ったのかミナーシュが叫ぶ。
「そんな訳ないでしょう!!顔を見てそう言ったのよ!貴女みたいな根暗な女ジョルジオ様が本気で好きになる訳ないでしょう?」
便乗するようにロベリアが「物珍しいだけよ!見慣れれば大した事ないわ!!」と叫ぶように捲し立てた。
「ふっ」
まるで堪えきれないと言ったようなタイミングで吹き出したのはケールで、少し自分でも驚いた様子で「すみません」と口元を押さえるとチラリとミナーシュを見る。
「な、何ですか!?」
「君もロベリア嬢も、品もないが目もついていないようだ」
「はぁ!?」
「な、何ですか急に!!」
「団長はエリスの素顔を知らないまま、恋に落ちたんだ。君達のように上っ面だけしか見えない人達と一緒にするな」
「「なッ~~っ!!!」」
ギクリと肩を揺らすもの、掌を返すように「そうだ!」とケールに同調する者など会場の者達の反応は其々だが、そのどれにも気にしていない様子のエリスはただジョルジオとケールにだけ微笑みかけた。
「お兄様、ありがとう。大丈夫」
口を開いたケールとジョルジオを遮ったのはトリスタンで、彼は余裕の無さそうな振る舞いと声色でエリスとジョルジオの前に立つとまるで子供を説得するかのようにエリスに声をかける。
「エリス、冷静になれッ!ジョルジオ様のような方がお前なんかを本気にする筈がない。私なら根暗だろうと地味だろうと全て知った上で受け入れてやれる、戻ってこい!な?」
「ちょっと、トリスタン様!?」
「煩い黙ってろミナーシュ!趣味の悪いドレスには目を瞑っていたが下品に騒ぎ立てるしか能のない女など私には相応しくない!」
「顔に騙されているのよっ!!」
「騙されたのはこっちだ!素行は最悪、愛らしいのは顔だけで品はないし趣味も悪い!アッチの方はつまらないし学もないじゃないか!!」
「私の方が良いって言ったじゃない!!!」
「その顔も今となってはもうエリスに比べれば良くも見えない!」
トリスタンの余りの愚かさに開いた口が塞がらないジョルジオとケール、今にも殴りかかりそうなロベリア。
(な、何だか凄くみっともない奴だ……)
(こんな奴がエリスの元婚約者だとは……)
(わ、私がまるで空気のような扱い….…ッ!!)
一早く口を開いたのは意外にもエリスだった。
「ちょっと、トリスタン」
「エリス!なんだ?」
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