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22.もう男が出来たのか!
しおりを挟む「エリス、なのか?」
「そうですが、何でしょうか」
センスは悪くないが地味だとばかり思っていたエリスの装いは、派手すぎず華やかでありながら優しげな美しさを感じる。
これほどなら、その分厚い眼鏡をしていても隣に並ぶ兄のケールと比較してきっと彼女も兄のように整った顔をしているのだろうと想像してしまうだろう。
何故、自分と婚約しているときはそれを隠していたのか。
引き締まった腰と、陶器のような肌の肩元にはらりと落ちる綺麗なブロンドの髪にどきりとさせられると共に苛立ちが募る。
「何だその格好は!私といる時はいつも地味だっただろう!」
「「……は?」」
「だから!何故急に変わった?男か?」
「目立たぬように、淑やかに控えめで居ろと地味なドレスを強要してきたのは貴方だったでしょう」
「立ち振る舞いに関しても、トリスタン殿はかなり厳しく指導したと聞いているが?」
「あ……っ」
ずっと忘れていた事だった。
兄妹の呆れたような視線に耐えきれず、けれど何故か今のエリスが婚約者であればと口惜しくなる。
それに、自分の教育が良かったのかミナーシュやロベリアのようにみっともなく騒ぎ立てたり、問題を起こしたりしないし品がある。
そう考えれば何故こんなにもいい女と婚約破棄をしたのだろうと途端に後悔の念が押し寄せてきてどうしようもなく叫びたくなった。
「妹は自由になっただけだ、もう構わないでやってくれ」
「ルーシュフル侯爵、もう過去の話です。他人として適切な対応をしてください」
「~~っ!もう!男ができたのか!?私は用済みか!?」
「話になりませんね」
「行こう、エリス」
「待て!!!」
「トリスタン様……もうやめましょう?」
「ミナーシュは黙っていてくれ」
と、その時取り乱すトリスタンの方をエリスが振り向く。
厳密に言うとその背後から来たジョルジオの香りに反応したのだがそうとは知らぬトリスタンは期待を抱き思わずぐっと押し黙る。
「エリス、今日は更に綺麗だね。美しいよ」
「ジョルジオ様」
「俺の婚約者に何か用かな?トリスタン?」
「「はぁ!?!?」」
「厳密に言うと、まだ婚約者の予定なんだけどね」
声をあげたトリスタンとミナーシュだけではなく会場中の貴族たちがエリス達に驚きや困惑、疑いの視線を向け、ヒソヒソと「あの地味なエリス嬢が?」とまるで揶揄うような言葉まで聞こえる。
「えっと」
「団長」
「ごめん、待ちきれなくて」
遠くでクロフォード伯爵は娘の新恋人の登場に魂が抜け落ちたような表情で硬直している。
すると今まで黙っていたミナーシュが小さく震えだして、今まで聞いた事のない低い声で唸るように言う。
「んで……の…よ」
「?」
「何で貴女ばっかりなの!トリスタン様も貴女の事ばかりだし!加えてそんないい男を捕まえるなんて!地味でどうせ不細工な癖に!!」
小柄で愛らしい雰囲気の彼女から出る初めて聞く低い大声と、あまりにも不躾な言葉にエリスを含めたその場の者達が驚いている内にミナーシュは捲し立てるように言葉を続ける。
「可愛くなる努力だってしない癖に、トリスタン様を返してよ!不細工の癖に私より良い男捕まえないでよ!!!」
「……はっ?」
初めに我に返ったのはジョルジオだったが、出た言葉は思いの外短いものであまりの言い分の理不尽さに驚いて口が塞がらないといったようだった。
ミナーシュは少し無礼で自信家な所はあるがこんなにも醜かっただろうか?
ドレスの趣味は幼稚だが、女性として美しくなる事に貪欲でそこに好感が持てたのになんだ?この醜く叫び散らかす小娘は。
そう考えると、眼鏡で隠れていない部分の表情を崩さぬまま真っ直ぐ優雅に立つてエリスの「何を言っているのかしら」という呟きはかなり可愛い反応だった。
「ミナーシュ!やめろ、醜いぞ!」
「なんでエリス様を庇うの?浮気したのはトリスタン様よっ」
「浮気?エリスを巻き込まないでくれるかな?」
「団長の言う通り、あなた方が一方的に絡んでいるのでしょう」
「ジョルジオ様、お兄様……申し訳ありません、一度出ましょう」
エリスが二人の腕にそっと触れて、首を左右に緩く振った。
頷いた二人が何か騒ぎ立てるトリスタンとミナーシュ、そして皆の視線を無視してエリスの方を振り返った時、
二人を追い越して、エリスの頬を音が鳴るほど思い切り打ったのはミナーシュだった。
「「エリス!!!」」
「ーっ、大丈夫です」
「……えっ」
「「え"」」
「??」
「エリス、眼鏡が落ちて割れたようだ」
「……お兄様、えっ?」
「……エリス、なんだよな?」
「ジョルジオ様、あまり見ないで下さい」
(~~~~っ!!!!)
私だけではないだろう、眼鏡が飛んで片頬の赤くなったエリスの素顔が晒されたのを目撃した会場の皆が驚愕した。
「う、そ……」
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