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20.少しの勇気をくれたから
しおりを挟む二人がくれた勇気と、休憩時間を無駄には出来ない。
唐突だと焦る反面なぜか弾む胸は気のせいだろうか?
トリスタンとは政略的な婚約だった所為か、このような気持ちは初めてで戸惑う。
なんて伝えよう?こう言う時は「好き」だと伝えるのか貴方の恋人になりたいと伝えるべきなのか、ジョルジオはどんな顔をするだろうか。
自然と早足になる、いつも聞こえる噂話も聞こえない。
ふと浮かぶこの間兄に貰ったドレス。
(着て来たら良かった……)
「!」
着飾ったり、良く見られたいと考える事は久しぶりだった。
目立ってはいけない、淑やかになるべく地味にしている内にも特に人目を気にする事もなかった。
けれど今はジョルジオに少しでも良く見られたいと考えている自分が居る。
頬が火照るのが自分でも分かる。
けれどもう足を止めることはしない。
考えている内に着いたもう何度も来たジョルジオの執務室の扉。
レイヴンの計らいと、普段から執務で通っていることが相まって止められる事なくここまで来られた。
扉から少し離れた所に居る護衛にジョルジオに用がある旨を伝えると案外すんなりと通された執務室をノックすると「どうぞ」と聞こえてきた声。
「失礼します」
「エリス……!」
「突然申し訳ありません」
「いや、俺こそすまない!今は散らかっているけど座って」
そう言って立ち上がったジョルジオに近づいて彼の袖を摘んだ。
言葉が出てこなくて、自分が今どんな表情をしているかも分からない。
眼鏡が今だけは有り難く感じた。
「ーっどうした?何かあった?」
「ジョルジオ様、あの……っ」
「ん?話してみて」
「恋か分からないと言ったのを覚えていますか?」
「うん、焦らないから」
「近頃ずっとロベリア嬢と話す貴方を見て嫉妬……しました」
何故、こんな言葉しか出てこないのだろう。
顔が熱くて視界が霞む。
驚いた表情をしているだろうジョルジオの目が見え辛い。
「!」
「良く見られたくて地味なドレスを後悔したり、初めてなんです」
「エリスは今でも充分美しいよ!」
「ジョルジオ様が好きです。だから……」
ジョルジオがエリスの言葉を遮って、エリスをギュッと抱きしめる。
「……ジョルジオ様っ?」
「俺に言わせて」
「……はい」
「俺はエリスが好き。だから俺の婚約者になって欲しい」
「……っ婚約者ですか!?恋人じゃなくて?」
恋人になりたいと伝えるつもりだったエリスの想像よりも遥かに彼に近い婚約者と言う言葉に驚く。
「あ、」と溢して視線を彷徨わせた後に心配そうに首を傾げるジョルジオが少し愛らしいなと思った。
「嫌だろうか?」
「私で良いんですか……?」
「エリスが良い。エリスだから婚約したい」
「嬉しい、です」
「もっと長期戦のつもりだったから、どうしよう嬉しすぎて顔が緩むな」
「私も、顔が熱いです」
「可愛い」
少し落ちこうとお茶を淹れて、ジョルジオの山程ある書類を整理した。
「ケールは怒るだろうな」
「お兄様が?喜んでくれると思いますよ?」
「そうだろうか……」
暫くして王太子妃宮に戻ると仲睦まじくお茶をするセイランとレイヴンが居て邪魔だったかと席を外そうとすると「待ってたのよ!」とにやけ顔のセイランに引き止められる事となる。
「で、結果は聞かずともわかるけど」
「はい、おかげさまでちゃんと伝えられました」
「ジョルジオの緩んだ顔が想像できるな」
(すごい、なんで分かるのかしら)
「おめでとう、エリス」
「そうだな。おめでとう」
「ありがとうございます。レイヴン殿下、セイラン様」
そんな三人のやり取りをまだ知らないジョルジオがその日の晩、祝いのウイスキーを持ってレイヴンの部屋を訪ねることをまだ彼らは知らない。
「帰れ何時だと思ってる」
「付き合えよ。今日は寝室別の日だろ」
「明日も早いんだ」
「まぁまぁ、祝ってくれよ」
「もう知ってる」
「なら話は早い」
(本当に帰ってくれ……)
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