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17.痛むのは気のせい

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今日エリスは不本意ながらルーシュフル侯爵家の立食パーティーに参加している。


どういう神経で招待状を贈ってきたのか分からないが、嫡子トリスタンの新しい婚約者を紹介するミナーシュの為のパーティーだ。


こんなのに参加せずとも良いと憤る家族を宥めて兄と参加したのは、セイラン様が珍しく参加されると言う事と、何か意図があったとすれば一応トリスタンは小公爵であってエリスの家門は伯爵家であるので後でいいがかりをつけられても困るからだった。


「気合いを入れないと!」と眉を釣り上げる母や使用人達のお陰で、久しぶりに着たシンプルだが幾分か華やかなデザインの、淡い桃色の肩の出たドレスは落ち着かない。

元々、こちらが平常なのだがなんせもうずっと地味で控えめなトリスタンの婚約者を装ってきたのだから仕方ないだろうと考えるエリスは表面上とても優雅で隙がない。



ドレス似合う髪飾りでふわりと飾られたまとめ髪は愛らしく、覗く白いうなじや、程よく濡れた唇から漂う色香とがさらにエリスを美しく見せる。


が、相変わらず分厚い眼鏡は健在でトリスタンの次の婚約者であるミナーシュは人知れず鼻で笑った。


(少し……綺麗になったなエリス……)

「トリスタン様?エリス様ったら眼鏡をまたかけていらっしゃるわ」

「あ、あぁ……」

「……今日のドレスは可愛いですか?」


一瞬エリスに見惚れていたとは言えないトリスタンは咄嗟に曖昧な返事をしてからミナーシュのドレスを見たが、相変わらずゴチャゴチャとリボンやフリルを足して、ミナーシュへと贈った一流の赤いドレスを台無しにしている。

「……あぁ可愛いよ」

「ふふっ、折角贈って下さったので最高な着こなしにしたくって!」

そう言って笑うミナーシュの頭を撫でてやるついでにふとエリスの方を見るとその視線の先にはジョルジオが居て胸の底から這い上がる複雑な感情。

けれど丁度ジョルジオにとある令嬢が声をかけた所で、あの相変わらず腹立たしい程顔の良いジョルジオはその顔で優しく微笑んでいた。


(ほらな、痛い目をみるだけだ!)

「まぬけね」と小さく聞こえたような気がしてミナーシュを見たが、素知らぬ顔で今きっとエリスの方を向いてそう言った気がしたのにと首を捻った。


実際は令嬢の誘いを角が立たぬようにやんわりと断っているだけなのだが、


一方、遠目に見ていたエリスは仲睦まじく見えて胸がチクリと鳴ったような気がしていた。



(きっと気のせいよ)



そう言い聞かせているところでジョルジオと目があって、気まずさから思わず不自然に逸らしてしまう。



「すまないね」

「えっ」


(えっこっちに来るの!?)


さりげなく立ち去ろうとするエリスを追うジョルジオは誤解なぞされてたまるものかと必死であった。



そんな二人の様子に気づいたセイランは二階の特別席からレイヴンに「見て」と楽しげに声をかけていた。


「またやってるのか」
 
「そうみたいね、ふふ」

「近頃はエリスを追いかけてばかりで彼女が迷惑していないといいが」

「大丈夫よ、きっと上手くいくわ」

「そうか?だったら俺も嬉しいが」



エリスは後方から掴まれた腕の優しさでジョルジオだと気付いたし、今追って来ているのは彼しかいない。


「ジョルジオ様……」

「エリス、誤解だよ。ちゃんとお断りしていた所なんだ」

「私に弁明する必要はありませんよ」


困ったような、期待していないような笑顔にジョルジオは胸が苦しくなる。

けれどエリスはそんなジョルジオの気持ちを読み取れないでいるとふいにジョルジオの反対側の手首が取られた。


追いかけて来た令嬢が嫉妬を含む目で「ジョルジオ様」と彼の腕を掴む様子にやはり胸が痛む。


(もうこれは誤魔化せない、けれどちゃんとコントロールするわ)


とうとう彼を気になっているのだと自覚してしまったが、勘違いしたり嫉妬に振り回されるのは嫌で、ジョルジオ本人や、セイラン達に万が一迷惑をかけてしまうのが嫌だ。


(だから気持ちが大きくなる前に忘れるのよ)

けれど、そんなエリスにそんなことは許さないとでも言うようにジョルジオがエリスの腰をグッと引き寄せて甘える様な縋るような瞳で見つめると、

「ーー」


「ジョルジオ様ぁ!エリス様!」

「まて、ミナーシュっ」




その声を遮るように現れ乗せたのはミナーシュとトリスタンだった。


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