婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

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16.ただ君と居たいだけ

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「本日も宜しくお願い致します」

「エリス!よく来てくれたね。毎度助かっているよ」


ジョルジオがそう言うと彼の秘書はいつも通り、要件だけを伝えてから

「では、行ってまいります」と挨拶を交わして執務室を出る。

どうやら彼もかなり多忙なようで、此処に来るといつも何処かへと走り回っている様子だ。


「あれ……割と片付いていますね」

「ああ、エリスが来てくれるようになってからだよ」


思っていたよりも整理整頓した書類類はそのまま綺麗に使われていて、細々とした所は散らかっているものの初めのように乱雑と書類や資料が積み上げられている執務室とは全然違っている。


わざわざ用意して下さった時は驚いたが、もう慣れてしまった私専用の執務机に座って簡単な事務作業を始めると「ふ」と穏やかな笑い声が聞こえて顔を上げた。


「どうしましたか?」

「いや、幸せだなぁと思って」

「幸せ……ですか?」

「こんなにも心が穏やかなのは君と居る時だけだ」

ジョルジオがまるで愛おしい人でも見つめるように目を細めると、エリスの顔に熱が集まるのを感じて咄嗟に書類に視線を落とした。


「そうですか……」

「うん。ねぇエリス」

「はい」

「もう、辛くない?」


一瞬、何の話だと考えたが多分トリスタンのことだろうと緩く頭を振ると心配そうに「本当に?腹が立ったりもしない?」と眉を下げた。



兄と父以外の男性にこんなにも優しくされたのは初めてで、くすぐったいような何故か泣きたくなるような感じがした。



それをどう感じたのか、バッと立ち上がって慌てて「ごめん」と近づいてきたジョルジオに抱きしめられたのだと気付いて慌てて顔を上げるとあまりの近さにまた顔が熱い。

「あ、違うんです」

「ーっ」

「~~~!!」

「ごめんエリス!つい守ってあげなきゃって」


何故ジョルジオ様がそう思うのだろう?

恥ずかしいのと、ドキドキと早鳴る心臓のせいとで混乱する頭の中はもうぐちゃぐちゃで「だいじょうぶです」と思ったよりも頼りない声が出た。


(うっっわ、かわいい!いや、顔は分からないんだけど何か……)


「ジョルジオ様?」

「ーっ、あ!ごめん」


身体を離して近くの椅子を手繰り寄せて隣に座ると、真剣な表情で向き合うジョルジオにさっきの恥ずかしさもあり目を合わせられないでいると、



「俺の恋人になってくれないか、エリス」


(ん?)


「えっ」


「君の恋人になりたい」


その表情こそ真剣であるが、やけに現実味のない言葉が彼の口から溢れるのを唖然とした表情で見つめ返す私はさぞ間抜け面だろう。


「ふ、ふふふっ」

「え、エリス?」

「ごめんなさい……ジョルジオ様はお優しいのですね」

「優しいとは?」

「同情して下さっているのなら、心配には及びません」

「え、いやっ」

「ジョルジオ様は、面食いでしょう?私は婚約破棄の事を清々していますので」

「そうだよね、信用される訳ないよな」

「??」

「いや、いい。同情じゃない、本気だってことこれからちゃんと伝えて行くから」


驚愕した、まさか本気なのか?

揶揄うことはないだろうが、同情して構っているうちに感情を勘違いして好きかもしれないとなったのかもしれないし、


(やだ、好きだって言われた訳じゃないのに)


軽いジョークなのか?彼は女性の扱いが上手いし、慰めてくれているつもりかもしれない。


「ふふ、ありがとうございます。冗談でもジョルジオ様に口説かれるのは光栄ですね。自信が持てる気がします」



(慰めていると思われているのか?)

(複雑な表情ね、間違えたかしら)


二人とも恥ずかしさや、気まずさでふと視線を逸らす。

ジョルジオが窓の方を見たので、ふと壁の方を見ると時計が目に入ってそろそろ休憩でお茶でも出す時間だと知らせている。



「あ、あの私、お茶を入れて来ます」

「ありがとうっ」


勘違いしちゃ駄目だと心の中で言い聞かせるけれど、大きく鳴る胸の音が彼に聞こえてしまわないように慌てて離れた。


巻き込まれに来ると言ってしまえばそうなのだが、何やかんやと助けてくれるジョルジオに安心感を感じているのは確かで、


レイヴンやセイランからの信頼も厚く、仕事にも真面目で、噂ほど女性の陰がないジョルジオを信頼し始めているし、


たとえ、仕事であってもそれ以外であってもこの人のことをガッカリさせたく無いなんて思うのはセイラン以外に初めてだった。

だからと言って恋愛感情に繋がるわけではないが、そのように尊敬している人にあんな事を言われて平常でいられる人がいるのだろうか?と考えてやめた。

彼に令嬢達が期待してしまう気持ちが分かるわ。とまさか見当違いだとは思わずにそう考えながら、疲れているだろうジョルジオの為に少しだけ蜂蜜で甘くした紅茶を淹れた。




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