16 / 77
16.ただ君と居たいだけ
しおりを挟む「本日も宜しくお願い致します」
「エリス!よく来てくれたね。毎度助かっているよ」
ジョルジオがそう言うと彼の秘書はいつも通り、要件だけを伝えてから
「では、行ってまいります」と挨拶を交わして執務室を出る。
どうやら彼もかなり多忙なようで、此処に来るといつも何処かへと走り回っている様子だ。
「あれ……割と片付いていますね」
「ああ、エリスが来てくれるようになってからだよ」
思っていたよりも整理整頓した書類類はそのまま綺麗に使われていて、細々とした所は散らかっているものの初めのように乱雑と書類や資料が積み上げられている執務室とは全然違っている。
わざわざ用意して下さった時は驚いたが、もう慣れてしまった私専用の執務机に座って簡単な事務作業を始めると「ふ」と穏やかな笑い声が聞こえて顔を上げた。
「どうしましたか?」
「いや、幸せだなぁと思って」
「幸せ……ですか?」
「こんなにも心が穏やかなのは君と居る時だけだ」
ジョルジオがまるで愛おしい人でも見つめるように目を細めると、エリスの顔に熱が集まるのを感じて咄嗟に書類に視線を落とした。
「そうですか……」
「うん。ねぇエリス」
「はい」
「もう、辛くない?」
一瞬、何の話だと考えたが多分トリスタンのことだろうと緩く頭を振ると心配そうに「本当に?腹が立ったりもしない?」と眉を下げた。
兄と父以外の男性にこんなにも優しくされたのは初めてで、くすぐったいような何故か泣きたくなるような感じがした。
それをどう感じたのか、バッと立ち上がって慌てて「ごめん」と近づいてきたジョルジオに抱きしめられたのだと気付いて慌てて顔を上げるとあまりの近さにまた顔が熱い。
「あ、違うんです」
「ーっ」
「~~~!!」
「ごめんエリス!つい守ってあげなきゃって」
何故ジョルジオ様がそう思うのだろう?
恥ずかしいのと、ドキドキと早鳴る心臓のせいとで混乱する頭の中はもうぐちゃぐちゃで「だいじょうぶです」と思ったよりも頼りない声が出た。
(うっっわ、かわいい!いや、顔は分からないんだけど何か……)
「ジョルジオ様?」
「ーっ、あ!ごめん」
身体を離して近くの椅子を手繰り寄せて隣に座ると、真剣な表情で向き合うジョルジオにさっきの恥ずかしさもあり目を合わせられないでいると、
「俺の恋人になってくれないか、エリス」
(ん?)
「えっ」
「君の恋人になりたい」
その表情こそ真剣であるが、やけに現実味のない言葉が彼の口から溢れるのを唖然とした表情で見つめ返す私はさぞ間抜け面だろう。
「ふ、ふふふっ」
「え、エリス?」
「ごめんなさい……ジョルジオ様はお優しいのですね」
「優しいとは?」
「同情して下さっているのなら、心配には及びません」
「え、いやっ」
「ジョルジオ様は、面食いでしょう?私は婚約破棄の事を清々していますので」
「そうだよね、信用される訳ないよな」
「??」
「いや、いい。同情じゃない、本気だってことこれからちゃんと伝えて行くから」
驚愕した、まさか本気なのか?
揶揄うことはないだろうが、同情して構っているうちに感情を勘違いして好きかもしれないとなったのかもしれないし、
(やだ、好きだって言われた訳じゃないのに)
軽いジョークなのか?彼は女性の扱いが上手いし、慰めてくれているつもりかもしれない。
「ふふ、ありがとうございます。冗談でもジョルジオ様に口説かれるのは光栄ですね。自信が持てる気がします」
(慰めていると思われているのか?)
(複雑な表情ね、間違えたかしら)
二人とも恥ずかしさや、気まずさでふと視線を逸らす。
ジョルジオが窓の方を見たので、ふと壁の方を見ると時計が目に入ってそろそろ休憩でお茶でも出す時間だと知らせている。
「あ、あの私、お茶を入れて来ます」
「ありがとうっ」
勘違いしちゃ駄目だと心の中で言い聞かせるけれど、大きく鳴る胸の音が彼に聞こえてしまわないように慌てて離れた。
巻き込まれに来ると言ってしまえばそうなのだが、何やかんやと助けてくれるジョルジオに安心感を感じているのは確かで、
レイヴンやセイランからの信頼も厚く、仕事にも真面目で、噂ほど女性の陰がないジョルジオを信頼し始めているし、
たとえ、仕事であってもそれ以外であってもこの人のことをガッカリさせたく無いなんて思うのはセイラン以外に初めてだった。
だからと言って恋愛感情に繋がるわけではないが、そのように尊敬している人にあんな事を言われて平常でいられる人がいるのだろうか?と考えてやめた。
彼に令嬢達が期待してしまう気持ちが分かるわ。とまさか見当違いだとは思わずにそう考えながら、疲れているだろうジョルジオの為に少しだけ蜂蜜で甘くした紅茶を淹れた。
32
お気に入りに追加
1,523
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!
桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。
令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。
婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。
なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。
はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの?
たたき潰してさしあげますわ!
そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます!
※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;)
ご注意ください。m(_ _)m
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~
ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。
そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。
自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。
マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――
※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。
※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))
書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m
※小説家になろう様にも投稿しています。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる