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11.我慢する必要なんて無いんだ
しおりを挟む温室のようになっている美しい個室に入ると丁寧に、エリスをまるで恋人にでもするかのようにエスコートしたジョルジオ。
戸惑いながらも優しい彼なりの気遣いなのだとエリスは自身を納得させた。
「突然手を繋いで申し訳なかった……」
「いえ、おかげで早く逃げられました」
そういって申し訳なさそうにするエリスにジョルジオは胸が痛む。
そんなエリスに「君が気負うことじゃない」と慰めエリス以上に怒りを露わにする。
「元々、トリスタンはああなのか?」
「性格のことですか?それとも……」
「両方だ」
「そうですね、日が経つにつれて……でしょうか」
「そう。些細な事でもすぐに言って。力になるから」
「……ありがとうございます」
ジョルジオが何故こんなにも親切にしてくれるのか、理由を探しては見つからず少し不安になったものの害意の感じられない彼の瞳と、当人であるエリスよりも感じる強い怒りに、きっと正義感の強い優しい人なのだろうと考える他無かった。
本当はジョルジオが特別に正義感の強い性格という訳ではなかったが、何故かエリスに対する侮辱ともとれる行為にジョルジオは抑えきれない程の怒りを感じて自分自身でも戸惑うほどだった。
エリスが小さく笑って「これじゃ勘違いしてしまいそう」と笑ったのを見て、心の中では"勘違いでいいから意識してくれ"と願っている自分に気付いてもう認めざるを得なかった。
(俺はきっとエリスが気になっているんだ……)
「ジョルジオ様?顔が赤いようですが体調不慮でしょうか……」
「あ、いや……平気だよ。何ともない」
「そうですか?」
誤魔化すようにベルをならして給仕を呼んだジョルジオを何処となく心配そうに見つめるエリスに何故かドッドッドッと大きく音を立てる胸が煩い。
「うん、今日は特別なメニューを用意してあるんだ」
「へ」
(今日の為にわざわざ……?)
「あ、いや、好きなものがあれば注文してくれて構わないが」
「いいえ……とても、嬉しいです」
そう言って綺麗に上がった口角と、いつもより何処となく艶やかな唇、眼鏡が反射して相変わらず目元は殆ど見えないがほんのり桃色に染まった頬とふわりと花が舞うような雰囲気にぶわぁっと顔が熱を持つのが自分でも分かった。
エリスがとても嬉しそうに少し俯く仕草さえも美しくみえて、顔すらちゃんと知らない筈の目の前のこの令嬢が欲しくて堪らない。
生まれて初めて感じる感情にジョルジオは戸惑う。
彼にとって恋とはされることはあっても、する事のない未知のものでもあった、今までは考えたことも無かったものだった。
「好きかもしれない」とそう意識した瞬間からどうすれば良いのか分からなくてまるで急かすような大きな心臓の音に加えて首を傾げるエリスから目が離せない自分。
「よかっ、た。好きなものが分からなくて勝手に想像したんだけど」
「こんなにも気遣って頂いたのは初めてで、どうお返しすれば……」
照れたようにも困ったようにも見えるエリスの言葉に目を見開いた。
婚約者のいる大抵の令嬢ならば経験したことがありそうな些細な事、
店で一番の席を取って、彼女をイメージした特別なメニューでお茶をしながら「今日も素敵だよ」って囁かれ大切にされるよくある一日。
たかだかそんな事もした事がないというのか?
トリスタンへの苛立ちが更に積もるのと同時に湧き出る不謹慎な感情。
(ひとつでも多くエリスの初めてが欲しくて喜んでしまう)
「これからは、我慢しなくてもいい」
「?」
「エリスがしたい事や、話したい事、欲する全てを俺が君にあげるから……」
「あの」
「ん?」
「他人のジョルジオ様にそこまでして頂くのは少し……」
(気持ちが先行して、つい恋人面してしまった!)
「あ、はは!そうだね、まぁ心配だから溜め込まずに自由なエリスで居てって事だよ。協力は惜しまないから」
ジョルジオの情熱を秘めた瞳と目がエリスの厚い眼鏡を見つめて、少し眉を下げたまま微笑んだ。
エリスは何故かそのジョルジオの微笑んでいる筈なのに真摯な熱い瞳に吸い込まれそうで、彼の声があまりに優しくて胸がきゅっと締め付けられたが、気付かないフリをした。
(皆に優しい人よ、みっともない真似だけはしないわ)
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