婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

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10.急な外出なんて碌な事が無いもの

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久々の休日、けれど昨日「お詫び」だと昼食に誘われ断りきれなかった自分にエリスはため息をついた。

「ジョルジオ様は何を考えているのかしら……」


(誤解させたくなければ、余計な事をしなければいいのに)

とは思いながらも先日のパーティーや、執務室でロベリアと対峙したときの出来事が思い浮かんでいつもの冴えないドレスを戻した。



今のエリスは質の良いシルクのシュミーズにサラサラの真っ直ぐなブロンドの髪、大きくて美しい琥珀色の瞳は長いブロンドのまつ毛に縁取られて勝ち気に輝いている。


「お嬢様、今日はいつものお嬢様で行かれるのですね!」


メイドのアンが嬉しそうに言うが、勿論そのつもりはない。


突然、眼鏡を外して華やかな格好をすればまるでジョルジオの気持ちを勘違いした痛い女だと思われるかもしれない。

「そんなつもりはなかったんだ……」と気まずそうに視線を彷徨わせる彼を想像すると不憫で仕方がない。


「ふふ、違うわ。少しだけ相手に恥をかかせない程度にするの」

どうやら別にダサいわけではない筈のドレスもかっちりと纏めた髪も周りからの評判が悪く野暮ったいと言われている始末。

元はトリスタンに強要されて始めたことだが、今更このタイミングで元通りにして歩くのも少し違和感がある。



髪はハーフアップにして、清楚な紺色のドレスを選んだ。


腰元の引き締まったドレスはエリスの腰の細さを強調して、同色系の刺繍柄の入ったシースルの袖が肩から肘までを隠しているものの白い肌が透けて見えてそれだけで煽情的だ。

統一感のある色使いで小物を揃えて、いつもの眼鏡をかけるとガッカリしたようなアンの「今日もそれを掛けられるのですね」と呟くような声が聞こえて曖昧に笑った。


(確かに、これじゃあせっかくのメイクが隠れているものね)


くすりと笑ってまだ膨れっ面のアンに見送られて迎えの馬車に乗った。


「ご機嫌よう、ジョルジオ様。此方まで来て下さってありがとうございます」

「……」

「あの、やはり失礼でしたか?」


「あ、いや!そうじゃないんだ。此方こそ急な誘いなのに来てくれて嬉しいよ」


小さな顔の殆どのを隠す眼鏡で顔が分からないものの、いつもより少しだけ彩りの明るい唇に、レース越しとはいえ初めて見る白い肩に、細く引き締まった腰に、美しく整えられた艶やかなブロンドヘアに思わず釘付けになった。


(綺麗だ……いや、顔は知らないが。エリスの美しさは内面から……)


「って俺は何を考え……!」

「どうしたのですか?」

「すまない、なんでもないよ。ところで今日は一段と綺麗だね」


「!」

「あ、いや……他意はないよ」

「ふふ、分かっていますよ。嬉しいです」


そう言って控えめに笑い、白くて細い指で扇子を開いて口元を覆う仕草はどの社交会の華と呼ばれる令嬢よりも艶やかでありながら、清廉で完璧な所作で見惚れてしまいそうになる。



地味で初心な令嬢である筈のエリスに、何故かまるで初めて女性とデートする青年のように緊張しながら丁寧にエスコートして新しくできたガーデンカフェに入ると、「お待ちしておりました」と店主が迎えてくれる。


温室のようになっている所謂個室の席まで店主に案内されていると、聞き覚えのある声が「あれ?エリスじゃない」と投げ掛けられた。


「……ロベリア」

「エリス……と、ジョルジオ様!?」


キッと睨みつけるように語尾を強めて尋ねるロベリアに「事情があるのよ」と穏やかに言ったエリスの手首を掴んだのはトリスタンだった。


「エリス!」

「貴方もいたのね、ルーシュフル卿」


エリスが反抗した事に驚いたのか目を見開いて手首を掴む力を強めたトリスタンを見かねてジョルジオが助け舟を出す。




「彼女は今日は俺のパートナーでね、手を離してくれる?トリスタン」


けれどその声は思ったよりも怒気を帯びていて、ジョルジオは自分でもギョッとしてしまった。


「ジョルジオ様……なぜ、エリスと」


「ジョルジオ様は義理を果たす為に、お誘い下さっただけで他に理由はありません」


「なんだぁ~やっぱりそうよね?いくらいつもより少しマシでもこんな冴えないエリスを大切にするのは私くらいでしょう」


「そうかもしれないわね、じゃあお先に失礼しますわ」


「エリスーーー」

ロベリアがエリスの耳元で何かを伝えるとエリスは軽く目を見開いた後、ふっと笑ってトリスタンの元へと足を運んで、彼の頬を叩いた。



「!?」
(何を言われたんだ?)



「ふふっ」

(そうよ、みっともなく取り乱しなさいエリス)



「い、いきなり何するんだ!!」

「そうだと思ってた、けどこれでスッキリしました」

「何がだ!」

「三股はやり過ぎよ、馬鹿にしないで。まぁ今はもう関係ないしこれで忘れてあげる」

「エリス、待ってくれ!!結婚するなら……っ」

「トリスタン~!?」

「いや、違うんだロベリア……」



ほんのりと赤くなったエリスの手を大切そうに取って、ハンカチで拭った。


「こんな事に痛める必要はないエリス。手も、心も……」

「ジョルジオ様、すみません。お見苦しい所を……」

「いい、それよりも君が心配だよ。行こう」



「ちょっ!エリス!?違う、誤解ですジョルジオ様!!」

「待ってくれ、エリス!」



二人をひと睨みして個室までエリスの手を引いて歩いた。


(何故かとても腹が立つな)

















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