婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

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5.お気遣い無用なので

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「妃殿下の申し付けで参りました。エリス・クロフォードです」


令嬢にしてはやけに落ち着いた、良く通るけれど決して大きくはない綺麗な声でエリスが来たことを告げる。


扉を開けてまず目に入るのは分厚い眼鏡で、がっくりするが挨拶をするその所作はやはり美しい。

次に目に入ったのが小さな唇で、潤いのある血色のいい唇は几帳面そうな見た目に沿わず誘惑するようにそこに実っている果実のようだった。


(どこを見て居るんだ俺は、ただ助っ人として厚意で来てくれたんだそ)


邪心を振り払うように頭を振って、仕事内容を説明する。

特に媚びてきたり騒ぎ立てる事もなくきちんと話を聴いて、静かに頷くエリスに好感を待った。


女の子は可愛い、けれど仕事に関してはきちんとしたい。公爵としての責任を果たしたいし何より国の為、国民の為に王家の血を引く者として尽くすのは当たり前で、仕事も好きだった。

(こればかりは、まじめに聞いてくれて助かるよ)


仕事の際に女性の部下を側に置かないのもそれが理由だった。

あわよくば、ばかりを考えて集中しないもの。

装いばかり完璧で仕事が出来ない者、仕事中に言い寄ってくる者。

仕事とそうじゃない時のメリハリをつけていても、その空気をぶち壊して我先とアピール合戦が始まるのは可愛いが本意じゃない。


けれど、必要な返事以外は全く何も話さず淡々と仕事をこなすエリスにはこちらが寂しく思うくらいで、思わず彼女の背中に投げかけた。


「真面目で、有能だね。なぜそんなに頑張るの?」


クロフォード伯爵家は名家だし、家族仲も良く、兄のケールは歳も近いし彼も彼の父も剣豪として名を馳せている為この国で知らぬ者は居ないだろう。


別に働かなくとも、充分贅沢に暮らせるしこれ程有能なら結婚せずとも家門でお荷物となる事もないだろう。


「仕事は好きです。今は……妃殿下にお仕えする事が幸せだからです」


「セイラン様をお守りしたいのです」と少し微笑んだように見えたエリスの忠誠心とセイランを大切に思っているという事が伝わった。

それに、クロフォード家は代々王家に仕えて来た家門。

(らしいと言えばらしいな)

確か彼女の兄も陛下に仕える第一騎士団だが、引退した父の代わりに若くして副団長に任命され真面目に勤めている。


そして、父代わりをしてくれた陛下をお守りする為に騎士団長になったのは何を隠そう公爵であるこの俺だ。


(なのでケールとも仲が良いし、無礼はちゃんと詫びておかないと)



「大切に思う人を守りたいと思う気持ち凄く分かるよ」

「……そう、ですか」


何となく嬉しそうな表情をしているなぁって思うと何故か落ち着かなくて、その素顔を、今どんな表情なのかを知りたくなった。


(に、しても……本当に有能だな)


次々と処理されていくものを確認しながら感心する。

あの、泣きながら公務をしていたセイランが落ち着いたのもこのおかげかと納得して騎士団長と公爵としての公務でマメに女性に構う暇がないので寂しい思いをさせるし、妻なんかは諦めて来たがこんな子なら……


「って!俺は何考えてんの!?」

「ヴィルヘルム閣下?」

「あ!いや……ジョルジオでいい」

「いえ、失礼に当たりますので」

「ジョルジュでも良いよ」

そう言って距離をつめると、令嬢とは思えない身のこなしで華麗に俺の腕から逃げて「ではジョルジオ様で」と言った後すぐに書類に向き合った。


少しだけ耳の先が赤くなっていて「可愛いな」と思った。

(いや、俺は美人が好きだろ。何考えてんだ)


それでも、エリスが気になって集中出来なくなってしまった為ちょうど時計の時間を見て「昼食にしよう」と声をかけた。



「王宮の近くに小さな店があっていい隠れ家なんだ」

「いってらっしゃいませ」

「……」


そこは、「私も是非行ってみたいですわ」って返事をするのが大抵の令嬢のテンプレート的回答だと言うのに、「いってらっしゃいませ」って……



「えぇ!」

「どうされましたか?」

「誘ったつもりだったんだけど」

「そうでしたか、お気持だけ」

「行こう、エリス。礼をしないと」



余程早く終わらせて俺から逃れたいのか「まだあんなに残っているのに」と言いながら渋々と付いてくるのがちょっと子生意気で可愛いなと思った。



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