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4.夜会はお付き合いです2
しおりを挟む「あの……離して下さい」
無意識に手を伸ばして引き寄せたのは当初、目当てだったロベリアではなくエリスだった。
(ま、間違えた)
かと言って今更突き放すような事をすれば大勢の前で、レイヴンの妻の腹心に恥をかかせてしまうことになる。
「一緒に、お茶でもどうかな?」
「……無理をなさらないで下さい」
(顔に間違えたと書いてあるわ)
「いや、そんなつもりじゃ……」
「ジョルジオ様?その子は人見知りなんです~私でしたら」
「あ、あぁ……」
何故かどきりとした。
眼鏡の奥の瞳と目が合ったような気がして心を見透かされた気分だった。
また、空気を読むように「閣下は緊張で間違えてしまわれたみたい」とロベリアに囁いてさらりと身体を離すとまた、美しい所作で礼をしてその場を去ってしまった。
「ジョルジオ様ったらお可愛らしい所があるのね」
そう言って胸元の空いたドレスで見せつけるように身を寄せたロベリアにいつもなら「ラッキー」と思うところだか、なぜか気持ちは沈んでいた。
(彼女を、傷つけてしまってはいないだろうか……)
レイヴン達からの痛いほどの鋭い視線を感じながら困ったように、ロベリア嬢の誘いを、女の子の誘いを初めて断った。
「ごめんね、殿下が呼んでいるみたいだ。また今度」
「あら、物凄く睨んでいらっしゃるわ、ではまた……」
「ああ」
(レイヴン名を借りたぞ)
何故か気分が乗らなかった。
自分でも分かるくらい、落ちた気持ちのままレイヴンの元に戻る。
セイランの怒りの混じった視線を辿って振り返ると何やら、トリスタンに引き止められているエリスが目に入る。
「?」
「あれは、元婚約者だ」
「ほんとに許せないわ、何の用なのかしら」
「やめておけ、セイラン返って迷惑をかける」
「でも……」
そんなやりとりを聞いて二人がエリスを大切に思って居る事が伝わってなんとなく心配になっね彼女とトリスタンの会話に耳をすませた。
所々聞こえ辛いものの、「どう言う事だ」と声を荒げたトリスタンのおかげで周りが少し静かになって聞こえやすくなった。
「どう言う事とは?」
「浮気していたのか!?」
「それは其方でしょう」
「じゃあ、さっきのは何だよ」
「間違えたそうです」
「信じられるか、そんな話を!」
(俺の所為だ、助け船を出すべきか……)
「そもそも貴方には関係ないでしょう?ルーシュフル侯爵。私達はきちんとお別れしたはずです。それも、貴方の心変わりによって」
辺りが「えっ別れたの!?」「浮気かしら」「あんなに色気がなきゃあそりゃあなぁ」「地味すぎるもんなぁ」と無遠慮に騒めき始めて、何も言えなくなったトリスタンに「あ」と声を溢すと指輪を引き抜いて、
「これをお返しするのを忘れてました」
とトリスタンの飲み物のグラスにポトンと落とし、彼を通り過ぎた。
その仕草もまた洗練されていて思わず、地味な見た目だということを忘れて彼女に魅入ってしまうほどだった。
「おぉ、やるなエリス」
「ふんっ!当たり前よすっきりしたわ!」
「助けは要らなかっただろう?」
「そうね、さすが私のエリスだわ」
なんて楽しげに言う二人を尻目に何故か高鳴る胸の音に気付かないふりをしながら「凄いな」と努めて他人事のように笑った。
(あり得ない、俺は美しい女性がタイプだ)
例え彼女がいい子だとしても、性格も良くてそれなりに美人な子なんて腐るほど居る。あえて彼女を選ぶ理由が無いと言い聞かせた。
「そういえば、ジョルジオ公務が山積みだったな」
「エリスってばとても優秀なのよ」
「……けしかけるな」
と、言っても仕事が溜まるのは嫌なので結局二人の厚意を受け取る事にしたジョルジオは単純に仕事が出来ると言う彼女に興味があった。
(うーん、ちょっと楽しみかもしれない)
「ジョルジオ、楽しそうね」
「あぁ素顔を見れば驚くだろうな」
「きっと見せてあげないわよ」
「シスコンのケールが心配要素だな」
口元を緩めて何やら考えているジョルジオをニヤニヤと眺める王太子夫妻という三人の様子を国王夫妻は微笑ましく眺めていた。
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