婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

文字の大きさ
上 下
4 / 77

4.夜会はお付き合いです2

しおりを挟む

「あの……離して下さい」


無意識に手を伸ばして引き寄せたのは当初、目当てだったロベリアではなくエリスだった。

(ま、間違えた)

かと言って今更突き放すような事をすれば大勢の前で、レイヴンの妻の腹心に恥をかかせてしまうことになる。



「一緒に、お茶でもどうかな?」

「……無理をなさらないで下さい」

(顔に間違えたと書いてあるわ)



「いや、そんなつもりじゃ……」

「ジョルジオ様?その子は人見知りなんです~私でしたら」

「あ、あぁ……」


何故かどきりとした。

眼鏡の奥の瞳と目が合ったような気がして心を見透かされた気分だった。


また、空気を読むように「閣下は緊張で間違えてしまわれたみたい」とロベリアに囁いてさらりと身体を離すとまた、美しい所作で礼をしてその場を去ってしまった。



「ジョルジオ様ったらお可愛らしい所があるのね」


そう言って胸元の空いたドレスで見せつけるように身を寄せたロベリアにいつもなら「ラッキー」と思うところだか、なぜか気持ちは沈んでいた。


(彼女を、傷つけてしまってはいないだろうか……)



レイヴン達からの痛いほどの鋭い視線を感じながら困ったように、ロベリア嬢の誘いを、女の子の誘いを初めて断った。


「ごめんね、殿下が呼んでいるみたいだ。また今度」

「あら、物凄く睨んでいらっしゃるわ、ではまた……」

「ああ」


(レイヴン名を借りたぞ)

何故か気分が乗らなかった。
自分でも分かるくらい、落ちた気持ちのままレイヴンの元に戻る。



セイランの怒りの混じった視線を辿って振り返ると何やら、トリスタンに引き止められているエリスが目に入る。


「?」

「あれは、元婚約者だ」

「ほんとに許せないわ、何の用なのかしら」

「やめておけ、セイラン返って迷惑をかける」

「でも……」

そんなやりとりを聞いて二人がエリスを大切に思って居る事が伝わってなんとなく心配になっね彼女とトリスタンの会話に耳をすませた。



所々聞こえ辛いものの、「どう言う事だ」と声を荒げたトリスタンのおかげで周りが少し静かになって聞こえやすくなった。


「どう言う事とは?」

「浮気していたのか!?」

「それは其方でしょう」

「じゃあ、さっきのは何だよ」

「間違えたそうです」

「信じられるか、そんな話を!」



(俺の所為だ、助け船を出すべきか……)


「そもそも貴方には関係ないでしょう?ルーシュフル侯爵。私達はきちんとお別れしたはずです。それも、貴方の心変わりによって」



辺りが「えっ別れたの!?」「浮気かしら」「あんなに色気がなきゃあそりゃあなぁ」「地味すぎるもんなぁ」と無遠慮に騒めき始めて、何も言えなくなったトリスタンに「あ」と声を溢すと指輪を引き抜いて、


「これをお返しするのを忘れてました」

とトリスタンの飲み物のグラスにポトンと落とし、彼を通り過ぎた。


その仕草もまた洗練されていて思わず、地味な見た目だということを忘れて彼女に魅入ってしまうほどだった。


「おぉ、やるなエリス」

「ふんっ!当たり前よすっきりしたわ!」

「助けは要らなかっただろう?」

「そうね、さすが私のエリスだわ」


なんて楽しげに言う二人を尻目に何故か高鳴る胸の音に気付かないふりをしながら「凄いな」と努めて他人事のように笑った。



(あり得ない、俺は美しい女性がタイプだ)

例え彼女がいい子だとしても、性格も良くてそれなりに美人な子なんて腐るほど居る。あえて彼女を選ぶ理由が無いと言い聞かせた。




「そういえば、ジョルジオ公務が山積みだったな」

「エリスってばとても優秀なのよ」

「……けしかけるな」


と、言っても仕事が溜まるのは嫌なので結局二人の厚意を受け取る事にしたジョルジオは単純に仕事が出来ると言う彼女に興味があった。


(うーん、ちょっと楽しみかもしれない)


「ジョルジオ、楽しそうね」

「あぁ素顔を見れば驚くだろうな」

「きっと見せてあげないわよ」

「シスコンのケールが心配要素だな」


口元を緩めて何やら考えているジョルジオをニヤニヤと眺める王太子夫妻という三人の様子を国王夫妻は微笑ましく眺めていた。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!

桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。 令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。 婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。 なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。 はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの? たたき潰してさしあげますわ! そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます! ※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;) ご注意ください。m(_ _)m

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))  書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...