3 / 77
3.夜会はお付き合いです
しおりを挟む親友のロベリアは、いつも隣に並ぶ地味令嬢と比喩される私のおかげもあり、社交会では美しい令嬢だと男達が踊りたがる女性だ。
「あの、ご令嬢方……」
声をかけてくれる令息の大抵はロベリア狙いなので、特に返事を返す必要もない。
「はい、今日は親友のエスコートで来ただけですのよ」
「親友……」
(これが?と言う顔ね)
あまりにも表情に出るから少し傷つくものの、エリスとて今まで仕方なくこの格好をして来たのだ。
(それももう解放されたのだけれど、こっちに慣れちゃった)
「ロベリア嬢とは違って」と見下すような言葉を聞き流しながら、目の前のそれなりの子息をただ他人事で見つめていると見慣れた姿が見えて、構わず通り過ぎてくれることを願った。
「あら、トリスタン様じゃなぁい?」
「ロベリア、いいの……」
「ロベリア嬢!と、エリス」
トリスタンはロベリアの声でこちらに気付いたようで、ロベリアを見ると目を輝かせ、私を見ると気まずそうに目を逸らした。
そう言えばトリスタンはロベリアにもよく鼻の下を伸ばしていたなと思い出して内心でため息を吐く。
(そもそも、ロベリアとトリスタンの仲を疑っていたのだけれどまさかの人選だったものね)
身分が足りずに出席していないのだろうあのミナーシュが居ない事だけが唯一もの救いだと胸を撫で下ろした。
この場で元婚約者、浮気相手候補、現婚約者が揃ってしまうなど一番考えたくない展開だからだ。
何事も無く、熱い視線を絡ませながら離れてくれたトリスタンとロベリアに安堵と寒気を同時に感じた。
「あ、エリスが来ているわ殿下」
「おお、あの友人とはまだ付き合っているようだな」
「ロベリア嬢はあまり好まないわ」
「そうだな」
「あれは……?」
「ああ、エリスの事か……」
「いや隣の華やかな令嬢だよ」
近くで話していた王太子の従兄弟のジョルジオが王太子に尋ねたのはエリスではなくロベリアで思わず二人は顔を顰めた。
ジョルジオは若くして病で亡くした王弟の忘れ形見である。
元々身体が弱かった彼の母は去年亡くなったばかりでとうとう一人になってしまったジョルジオを心配して「早く伴侶を見つけろ」「結婚しろ」と国王は顔を見るなり言っている。
ジョルジオはなんと言っても、国王や王妃、王太子、見目麗しい両親の元で育った為なのかかなりの面食いである。
公爵として問題は無いものの、些か女遊びが過ぎる。
交際する訳でも無く、かと言って身体の関係を持つ訳でもないのだが可愛い子を口説いてはお茶に誘い期待を持たせてしまう。
綺麗な人を見ると「二人で話しませんか?」なんて彼の素晴らしい顔で言われてしまえば頷いてしまう令嬢が殆どで、すぐに好きになってしまう。
だから日頃から、「ジョルジオ様の恋人は私よ!」と令嬢達の揉め事が絶えないのだ。
それを含めて、早く落ち着いて欲しいと思っている。
「ちょっと、行ってくるよ」
そう言って微笑んだジョルジオを複雑な顔で見送った二人は面白そうなのでことの成り行きを見守ることにした。
「こんにちは、ご令嬢方」
「まぁっ!ジョルジオ様っ!」
嬉しそうに顔を輝かせ、頬を染める女の子は可愛い。
そんなロベリアと呼ばれた令嬢とは打って変わって特に表情を変えずに、私には関係ありませんというように綺麗な所作で礼だけをした地味な令嬢エリス。
「あまりに綺麗だから、声をかけずには居られなかったよ」
「光栄ですわぁ!けれどジョルジオ様は皆にそう仰られるでしょう?」
「そんなことないよ、今日の君は特別綺麗だ」
「きゃっ、嬉しい……っ!」
(歯の浮く台詞ね、そして私はまるで空気……)
本来ならばどんな令嬢も頬を染めて熱っぽい瞳で見つめてくる筈なのだがこのエリスは表情一つ変えないし分厚いメガネで表情が見えない。
先程から、特に色めき立つ事もないし俺の無礼に機嫌が悪くなる訳でもない。
ただ黙って居ると言うよりは……
(気を遣わせない雰囲気で、空気を読んでいる?)
ピンと伸びた背筋、几帳面そうに纏められた髪、身体のラインが分からない聖職者のようなラインのドレス……だがダサい、野暮ったいと言う事もなくただただ地味なこの令嬢をジョルジオは知っている。
従兄弟であるレイヴンの最愛の妻セイランの一番の腹心と言っても良いだろう。彼女の秘書官であり王太子であるレイヴンの容姿や肩書きにも一ミリの興味を示さず、忠実に淡々とセイランの為だけに仕事をする優秀な秘書官だと聞いていて、その有能さは国王夫妻のお墨付きなのだ。
一歩引いて見守るような謙虚な姿勢、先程から妙に目を惹く見た目に沿わない華やかで美しい、一国の姫であるかのような完璧な所作。
思わず手を伸ばしていた。
「え……」
「あ、」
「はぁ!?」
控えめな戸惑いの声と、ロベリアの別人のような声。
「やってしまった」と自覚するのには充分で、チラリと視界に入ったレイヴンとセイランのニヤケた顔に無性に腹が立った。
35
お気に入りに追加
1,523
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!
桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。
令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。
婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。
なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。
はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの?
たたき潰してさしあげますわ!
そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます!
※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;)
ご注意ください。m(_ _)m
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~
ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。
そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。
自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。
マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――
※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。
※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))
書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m
※小説家になろう様にも投稿しています。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる