婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

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1.地味だからサヨナラ

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伯爵令嬢エリス・クロフォードは、最愛の婚約者である侯爵子息トリスタン・ルーシュフルに突然の婚約破棄を突きつけられている。



目の前の肩らへんまでのふわりと巻かれた髪と、クリクリのお目々にばっちりと化粧を施した甘ったるい香りのする令嬢は流行りの型のドレスを更にラブリーにしたようなものを着て「可愛い」を形容したような女性だ。


そして、たった今から別れるであろう婚約者の意中の人らしい。



(おかしいわね。大人しくて、控えめな子がタイプだと言っていたのに……)


何故か怒っているかのような剣幕のトリスタンに、思わず押し黙るエリスは眼鏡の奥でゆっくりと瞬きをした。



「お前のような地味で大人しい女よりも、この愛らしいミナーシュ嬢と結婚したい。よってこの婚約を破棄する」


自分より目立たず、大人しくて、控えめで穏やかなエリスでいて欲しいといい続けていた彼の為に努力してきた。

派手な顔を隠す眼鏡も、手入れした髪が隠れるにも関わらず、毎日態々ぴっちりと真面目に纏めた髪も。


身体のラインが分かり辛い大人しめなドレスを着ていたけれど、ちゃんと流行から逸れないセンスの良いものを選んだし、


令嬢達のやっかみや嫉妬での嫌がらせにも怒る事なく笑顔で耐え抜いてきた。女の争いなどはもっての外、完璧な淑女を演じてきた筈だ。


なのに目の前にいるのはで、地味だから私より彼女を選んだと言うのだ。


(馬鹿らしくなって来たわ……)


見るからに敵意丸出しで睨んでくる令嬢は、私がトリスタンに「分かりました」と言うや否や勝ち誇った顔でニヤリと笑った。



確かにいつも王宮の仕事では他の者たちに雑務を押し付けられたり、ブティックでは予約の順番を奪われて待っている事もあるが、あくまで女の争いは下品だと言うトリスタンに合わせて、泣く泣く譲っているだけで気が弱い訳ではない。


(なんかもう腹も立たないわ、願い下げよね)


自分が愛してやまなかった婚約者はこんなに馬鹿だったのか、こんなに馬鹿な女で満足できる癖に何故私には変な理想を頑なに譲らなかったのかと、

ただ悲しいというより、今までの時間を返してくれと切に願った。


「えらくあっさりだな」

「貴方の心が離れたのだから仕方ありませんもの」

「物分かりがいい所だけは、褒めてやるよ」

(何言ってんだろう、この馬鹿)


こんな馬鹿だと早く気付けて良かった、別れてくれてありがとうと涙ながらに言ってやりたかったが、一応相手は侯爵家の子息で自分は伯爵令嬢なのでやめておいた。

トリスタンは権利を振りかざすタイプだから。


「でもぉ、私……エリス様に嫌がらせされたらどぉしよう?」

「大丈夫だよミナーシュ!エリスは気が弱いんだ」

「あっ、そっかぁ!!地味で根暗だってよく言ってたもんねぇ~」

「……いや、それはっ、あぁそうだな。地味で根暗な女だ」


「もう、御用が無ければ失礼しても?」

「泣いて縋るかと思ったぁ~トリスタンに捨てられたら貰い手無さそうだからぁ~」

「ほんと、最後まで可愛げのない女だよエリスは。ミナーシュとは大違いだなぁ」


デレデレとするトリスタンに鳥肌が立った所で、さっさとその場を去ろうと踵を返したエリスをクスクスと笑う馬鹿っぽい声。


「あ、トリスタン……」

「なんだ、エリス」

「もうエリスと呼ばないで下さい、これからは他人ですので」

「はっ、そんな事か?」

「ええ。さようなら」



(結婚する前に気付けて良かった……!)



「さ、仕事しようっと」


やっと自由だ。かと言ってもう何年もこの格好だと言うのに態々新しいドレスを揃える時間も無いし、髪や眼鏡も突然無くなれば職場の人は「誰だ?」と混乱するだろう。

まだあどけなかったエリスの素顔などもう皆忘れているだろう。

当分はこのままでいいか、と職場である王宮に足を進めた。




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