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聖女の償いは神の前で
しおりを挟む聞くのも疲れてしまうほど長い罪状は、ほんとうに些細なものまで勘定されていて寧ろ罪の重さを実感できない。
「セリエ・ジェスランよ申し開きはあるか?」
「私は……っ王妃様の言われた通りに全て行動してきました!なのに何故罪に問われないといけないのでしょう……?」
セリエは聖女らしく落ち着いた様子で、努めてしおらしく応答したが頼みの綱である王妃はもうセリエの力が解除されており、セリエの想像していた返答とは大きく異なっていた。
「皆は、聖女を誤解しているようですね」
(そうよ、王妃は私の絶対的な味方)
「王太子の選んだ者として大切にして来ましたが……どうやら過ちを侵したようですね……聖女はルシアンが居ながらもできるだけ多くの子息に色目を使い、より良い条件の者に嫁ぐことだけが目的だったのです」
「……!?」
「私が聖女に何かを強要したり命じた事は一度もありませんわ。寧ろ王太子妃となる者だと信じて懸命に教育してきました。それなのに……こんなに沢山の罪を犯していた犯罪者だったなんて……ッ!」
「なッ!?王妃様!?なぜそのような嘘を!!」
「嘘ではありません……私は悲しい限りですセリエ」
そう言って涙を拭った王妃の手首を見て、驚愕するセリエ。
そんなセリエに王妃は視線だけで嘲笑った。
(王妃……私を陥れるつもりね!なぜ、紋様が無いの……!)
あからさまに何かに反応したセリエに国王は問う。
「聖女、酷く動揺しているが何か問題があったのか?」
「い、いえ……」
「手首の紋様ならバロウズ令嬢とシュテルン侯爵が消したが」
「えっ……そんな筈は……あっ!」
「そんな筈は?」
「い、いえ。何でもありません!」
「セリエ……私は貴女に裏切られたようですね」
「王妃様……」
セリエは王妃を睨みつけるように見るが、もう王妃の瞳には光が宿り冷ややかにセリエを見下ろしていた。
「貴女は私に「戒めの力」を使いましたね?」
「……っ」
「聖女、お前には王族である王妃に危害を加えた罪も科される」
「そんなのは言い掛かりです!!」
「この間、バロウズ令嬢が王妃の手首を取った際に私自身が確認したが、まさかそれでも嘘をつき通すつもりか?」
「ーっ!私は…….ただルシアンを愛してるだけなの…っ」
「だから罪が無くなるとでもいうのか?」
「陛下っ!私は聖女です!それに王太子殿下であるルシアンの子を宿している可能性があります……っ」
「セリエ、私はもう王太子ではない」
「ルシアン……っあ!……せ、セオドアっ!」
「……」
「ティアード!!」
「レイノルドっ!!」
誰もセリエに応える者は居ない。
人が良い所為か複雑な表情をするティアードとは違って飄々とした様子のセオドアは堂々とした様子で王太子として椅子に座っている。
レイノルドもまた、侯爵子息らしく表情を変えなかった。
「ルシアンっ!私、貴方の為にしたのよ!貴方を王にしたかった!」
「セリエ……私は間違っていたんだ。本当に私を大切にしてくれていた人達を裏切って、君なんかの手を取ってしまった」
「ぇ……ルシアン」
「君に誘惑された男は沢山居るそうだ。友人だと言いながら男を漁るような浅ましい人が聖女だとは笑ってしまうよ。それに……」
「ルシアン!誤解しないでっ!陛下、これは全て嘘です!!」
「母上を聖女の力で操っていただなんて、何て恐ろしい女だ」
会場がどよめく。
「何だって……聖女様が、王妃殿下を操ってルシアン殿下を誑かしたのか!?」
「やっぱり……聖女様はの子息方を惑わせていたのよ!」
「私の婚約者も聖女様の思わせぶりに夢中になって……」
「おい、ルシアン様はもう王太子じゃないんだぞ」
「まさか、イブリア様に虐められていたのも嘘なの……!?」
わ
「脅迫状は自作自演だったらしい」
(もう……もう終わりよ……)
セリエは憎しみを込めた瞳でイブリアを見つめる。
目が合ったイブリアの瞳はどこか悲しげで、そんな彼女の瞳を長い指が覆った。
「醜いものを、貴女は見ないで下さい」
「ディート……」
「貴女に責任はありません。ただ巻き込まれただけだ」
「ーっ」
「僕が居ます。一緒に見届けます」
(何よ……っ!何でイブリアばかり!)
「セオドアっ、友達よね……?お願い助けて」
「……あぁ!そう言えば俺も襲われかけたな」
「セオドア!!」
「セリエ……今の君は何の面白味も魅力もないよ。まぁ元々紛い物の魅力だったのだろうけど……俺は、自分を恥じるよ」
脱力したように大人しくなり、夢中な筈だった彼らからのセリエへの視線は軽蔑の視線だった。
そして、国王の声が静かに響く。
「セリエ・ジェスランを終身刑とする。本来ならば斬首刑だったが聖女は神の使い……殺す事は禁忌とされている、よって生涯をヒガン監獄の最下層で過ごす事になる」
「ヒガン監獄……!?」
「い、嫌よ……私は聖女なのよ……!」
「連れて行け」
ヒガン監獄、それは国一番過酷な収容所だった。
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