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努力と横着は異なる
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ルシアンは国王の予想とは違って大人しく新人騎士として勤めていた。
側から見れば誠実にルシアンに献身する婚約者に見えるセリエは今日も王妃とのお茶会だと王宮へと出掛けて行った。
「いつになったら謹慎の解除ができるの!?ルシアンがいつまでもただの騎士でいいと思ってるの王妃様!?」
「……」
「ほんっと、高貴な王妃さまはルシアンの為なら何だってする人だから貴女に力を使ったのに、これじゃあ無駄遣いじゃないの!」
使用人達を下げさせて、虚にセリエの命令だけを待つ王妃に手を振り上げる。
「失礼します……王妃殿下、陛下がお呼びです」
外に漏れる声に聞き兼ねた侍従が方便で止めに入ると、セリエは怒ったままの表情で王妃に耳打ちする。
「可愛い孫が欲しいでしょう、ルシアンに苦労させたくないなら早く陛下を説得なさい」
逆らえないとは言え意識が全くない訳ではない。
王妃の目からは涙が一筋こぼれ落ちた。
(ルシアン……私が誤った所為で、ごめんなさいね)
けれども、そんな王妃が解放されるのは思ったよりも早かった。
「陛下、これで問題ないでしょう、イブ平気ですか?」
「ええ大丈夫です。私より王妃殿下の気力が心配です」
「大丈夫だろう、気丈な女性だ、……相手に気付かれる事は?」
「確定ではありませんが、問題ないかと……ただ、王妃殿下と聖女を会わせないように謹慎を強化し王宮への出入りを制限して下さい」
「聖女の悪事についての証言を王妃殿下がなされば、全て終わります」
ディートリヒとイブリアが国王とこの後の事を話し合っている内に王妃は目を覚ました。
「陛下……っ」
「王妃殿下……っ!」
「……」
イブリアとディートリヒは王妃の顔色を見て大丈夫そうだと安心する。
「王妃よ、辛い思いをさせたな。だが、自らが招いた事でもある」
「ええ……私は大切な事を見誤っていました。それに……」
王妃はイブリアを見つめると俯いた。
「イブリア……貴女を嫌った訳じゃない。努力できる子だと思った。どこまでも、私よりもっと登り詰める事が出来ると……勝手に期待して幼い貴女に酷い事をした上に、勝手に裏切られたと思って貴女を責めたわ」
「王妃殿下……」
「本当にごめんなさい、イブリア」
「いいんです、それに……王妃殿下のおかげでもあるかも知れません。私は愛を見逃す所でした」
まるで年相応の女の子のように微笑んだイブリアが今本当に幸せそうで、返って王妃は今までどれほど彼女を傷つけていたのだろうと後悔した。
自分自身厳しく育ち、自分でも自分を鞭打って来た。
それをイブリアに強要していたのだから。
そして、ディートリヒがどれ程素晴らしい人間が知っていた。
だからこそ、首都を追い出したのだ。
息子の妨げにならぬように。
(無駄だったわね……)
「素晴らしい愛を手に入れたのね……」
けれど、彼女は強い人だった。
「陛下……私は責任はきちんと取るつもりです。失敗は許されなかった、私は負けたのです……けれど」
「あぁ、分かってる。お前はそう言う女性だったな……」
「陛下、殿下……僕達はこれで失礼します。長居すると目につきますので」
「貴方は、相変わらず空気の読めない男ね」
「……失礼します」
「あ、ディート!……失礼します。陛下、王妃殿下」
ゲートを開いてイブリアを連れ去ったディートリヒの警戒するように王妃を見る目を思い出して国王はまた笑ったが、王妃は複雑な表情のままだった。
(セリエ……努力できる者と、そうでない者には違いが出る。薄々と気付いて来ていた、ただ間違いを信じたくなかった私は愚かだった)
「覚悟なさい、誰を敵に回したのか分からせてあげるわ」
バロウズ家や、王家の集めたセリエの悪事は些細なものを入れると数えきれぬほどであった。
その中には王妃が手を貸したものも沢山あったが、そんな事は王妃にとって些細なことだった。
内容を知らされず、王宮に呼び出されたセリエはきっと王妃が国王を説得したのだろうと嬉々としながら聖女らしからぬ派手な装いで登城した。
そこには国中の貴族達が集められ、まるで何かを待っているようだった。
「セリエ……よく来たわね、ルシアンなら先に来たわよ」
「すみません王妃殿下、少し準備に時間がかかって……」
(何か雰囲気が……気のせいかしら……)
「いいのよ、さぁ壇上に上がって」
壇上にはルシアンと、セリエの椅子が準備されており向かいの少し高い壇上には国王と王妃が並んで座っていた。
周りには貴族達が取り囲むように席を作っており三百六十度びっしりと囲まれている。
突如、壇上を覆うように結界がかけられてルシアンとの間にも見えない壁のようなもので遮られる。
「えっ!?な、何でしょうこれは……ルシアン?」
「セリエ、もう終わりにしよう。真実を教えてくれ……」
「これより、裁判を行う!罪状は宰相によって今から読み上げる!」
セリエは嫌な予感がした。
側から見れば誠実にルシアンに献身する婚約者に見えるセリエは今日も王妃とのお茶会だと王宮へと出掛けて行った。
「いつになったら謹慎の解除ができるの!?ルシアンがいつまでもただの騎士でいいと思ってるの王妃様!?」
「……」
「ほんっと、高貴な王妃さまはルシアンの為なら何だってする人だから貴女に力を使ったのに、これじゃあ無駄遣いじゃないの!」
使用人達を下げさせて、虚にセリエの命令だけを待つ王妃に手を振り上げる。
「失礼します……王妃殿下、陛下がお呼びです」
外に漏れる声に聞き兼ねた侍従が方便で止めに入ると、セリエは怒ったままの表情で王妃に耳打ちする。
「可愛い孫が欲しいでしょう、ルシアンに苦労させたくないなら早く陛下を説得なさい」
逆らえないとは言え意識が全くない訳ではない。
王妃の目からは涙が一筋こぼれ落ちた。
(ルシアン……私が誤った所為で、ごめんなさいね)
けれども、そんな王妃が解放されるのは思ったよりも早かった。
「陛下、これで問題ないでしょう、イブ平気ですか?」
「ええ大丈夫です。私より王妃殿下の気力が心配です」
「大丈夫だろう、気丈な女性だ、……相手に気付かれる事は?」
「確定ではありませんが、問題ないかと……ただ、王妃殿下と聖女を会わせないように謹慎を強化し王宮への出入りを制限して下さい」
「聖女の悪事についての証言を王妃殿下がなされば、全て終わります」
ディートリヒとイブリアが国王とこの後の事を話し合っている内に王妃は目を覚ました。
「陛下……っ」
「王妃殿下……っ!」
「……」
イブリアとディートリヒは王妃の顔色を見て大丈夫そうだと安心する。
「王妃よ、辛い思いをさせたな。だが、自らが招いた事でもある」
「ええ……私は大切な事を見誤っていました。それに……」
王妃はイブリアを見つめると俯いた。
「イブリア……貴女を嫌った訳じゃない。努力できる子だと思った。どこまでも、私よりもっと登り詰める事が出来ると……勝手に期待して幼い貴女に酷い事をした上に、勝手に裏切られたと思って貴女を責めたわ」
「王妃殿下……」
「本当にごめんなさい、イブリア」
「いいんです、それに……王妃殿下のおかげでもあるかも知れません。私は愛を見逃す所でした」
まるで年相応の女の子のように微笑んだイブリアが今本当に幸せそうで、返って王妃は今までどれほど彼女を傷つけていたのだろうと後悔した。
自分自身厳しく育ち、自分でも自分を鞭打って来た。
それをイブリアに強要していたのだから。
そして、ディートリヒがどれ程素晴らしい人間が知っていた。
だからこそ、首都を追い出したのだ。
息子の妨げにならぬように。
(無駄だったわね……)
「素晴らしい愛を手に入れたのね……」
けれど、彼女は強い人だった。
「陛下……私は責任はきちんと取るつもりです。失敗は許されなかった、私は負けたのです……けれど」
「あぁ、分かってる。お前はそう言う女性だったな……」
「陛下、殿下……僕達はこれで失礼します。長居すると目につきますので」
「貴方は、相変わらず空気の読めない男ね」
「……失礼します」
「あ、ディート!……失礼します。陛下、王妃殿下」
ゲートを開いてイブリアを連れ去ったディートリヒの警戒するように王妃を見る目を思い出して国王はまた笑ったが、王妃は複雑な表情のままだった。
(セリエ……努力できる者と、そうでない者には違いが出る。薄々と気付いて来ていた、ただ間違いを信じたくなかった私は愚かだった)
「覚悟なさい、誰を敵に回したのか分からせてあげるわ」
バロウズ家や、王家の集めたセリエの悪事は些細なものを入れると数えきれぬほどであった。
その中には王妃が手を貸したものも沢山あったが、そんな事は王妃にとって些細なことだった。
内容を知らされず、王宮に呼び出されたセリエはきっと王妃が国王を説得したのだろうと嬉々としながら聖女らしからぬ派手な装いで登城した。
そこには国中の貴族達が集められ、まるで何かを待っているようだった。
「セリエ……よく来たわね、ルシアンなら先に来たわよ」
「すみません王妃殿下、少し準備に時間がかかって……」
(何か雰囲気が……気のせいかしら……)
「いいのよ、さぁ壇上に上がって」
壇上にはルシアンと、セリエの椅子が準備されており向かいの少し高い壇上には国王と王妃が並んで座っていた。
周りには貴族達が取り囲むように席を作っており三百六十度びっしりと囲まれている。
突如、壇上を覆うように結界がかけられてルシアンとの間にも見えない壁のようなもので遮られる。
「えっ!?な、何でしょうこれは……ルシアン?」
「セリエ、もう終わりにしよう。真実を教えてくれ……」
「これより、裁判を行う!罪状は宰相によって今から読み上げる!」
セリエは嫌な予感がした。
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