元カレの今カノは聖女様

abang

文字の大きさ
上 下
41 / 56

努力と横着は異なる

しおりを挟む
ルシアンは国王の予想とは違って大人しく新人騎士として勤めていた。


側から見れば誠実にルシアンに献身する婚約者に見えるセリエは今日も王妃とのお茶会だと王宮へと出掛けて行った。



「いつになったら謹慎の解除ができるの!?ルシアンがいつまでもただの騎士でいいと思ってるの王妃様!?」



「……」


「ほんっと、高貴な王妃さまはルシアンの為ならだから貴女に力を使ったのに、これじゃあ無駄遣いじゃないの!」


使用人達を下げさせて、虚にセリエの命令だけを待つ王妃に手を振り上げる。



「失礼します……王妃殿下、陛下がお呼びです」


外に漏れる声に聞き兼ねた侍従が方便で止めに入ると、セリエは怒ったままの表情で王妃に耳打ちする。


「可愛い孫が欲しいでしょう、ルシアンに苦労させたくないなら早く陛下を説得なさい」


逆らえないとは言え意識が全くない訳ではない。

王妃の目からは涙が一筋こぼれ落ちた。


(ルシアン……私が誤った所為で、ごめんなさいね)



けれども、そんな王妃が解放されるのは思ったよりも早かった。



「陛下、これで問題ないでしょう、イブ平気ですか?」


「ええ大丈夫です。私より王妃殿下の気力が心配です」



「大丈夫だろう、気丈な女性だ、……相手に気付かれる事は?」



「確定ではありませんが、問題ないかと……ただ、王妃殿下と聖女を会わせないように謹慎を強化し王宮への出入りを制限して下さい」




「聖女の悪事についての証言を王妃殿下がなされば、全て終わります」




ディートリヒとイブリアが国王とこの後の事を話し合っている内に王妃は目を覚ました。


「陛下……っ」


「王妃殿下……っ!」

「……」


イブリアとディートリヒは王妃の顔色を見て大丈夫そうだと安心する。



「王妃よ、辛い思いをさせたな。だが、自らが招いた事でもある」


「ええ……私は大切な事を見誤っていました。それに……」



王妃はイブリアを見つめると俯いた。


「イブリア……貴女を嫌った訳じゃない。努力できる子だと思った。どこまでも、私よりもっと登り詰める事が出来ると……勝手に期待して幼い貴女に酷い事をした上に、勝手に裏切られたと思って貴女を責めたわ」




「王妃殿下……」


「本当にごめんなさい、イブリア」


「いいんです、それに……王妃殿下のおかげでもあるかも知れません。私は愛を見逃す所でした」


まるで年相応の女の子のように微笑んだイブリアが今本当に幸せそうで、返って王妃は今までどれほど彼女を傷つけていたのだろうと後悔した。

自分自身厳しく育ち、自分でも自分を鞭打って来た。

それをイブリアに強要していたのだから。



そして、ディートリヒがどれ程素晴らしい人間が知っていた。

だからこそ、首都を追い出したのだ。

息子の妨げにならぬように。


(無駄だったわね……)



「素晴らしい愛を手に入れたのね……」



けれど、彼女は強い人だった。


「陛下……私は責任はきちんと取るつもりです。失敗は許されなかった、私は負けたのです……けれど」



「あぁ、分かってる。お前はそう言う女性ヒトだったな……」



「陛下、殿下……僕達はこれで失礼します。長居すると目につきますので」



「貴方は、相変わらず空気の読めない男ね」


「……失礼します」

「あ、ディート!……失礼します。陛下、王妃殿下」



ゲートを開いてイブリアを連れ去ったディートリヒの警戒するように王妃を見る目を思い出して国王はまた笑ったが、王妃は複雑な表情のままだった。




(セリエ……努力できる者と、そうでない者には違いが出る。薄々と気付いて来ていた、ただ間違いを信じたくなかった私は愚かだった)




「覚悟なさい、誰を敵に回したのか分からせてあげるわ」



バロウズ家や、王家の集めたセリエの悪事は些細なものを入れると数えきれぬほどであった。

その中には王妃が手を貸したものも沢山あったが、そんな事は王妃にとって些細なことだった。



内容を知らされず、王宮に呼び出されたセリエはきっと王妃が国王を説得したのだろうと嬉々としながら聖女らしからぬ派手な装いで登城した。



そこには国中の貴族達が集められ、まるで何かを待っているようだった。



「セリエ……よく来たわね、ルシアンなら先に来たわよ」


「すみません王妃殿下、少し準備に時間がかかって……」


(何か雰囲気が……気のせいかしら……)



「いいのよ、さぁ壇上に上がって」


壇上にはルシアンと、セリエの椅子が準備されており向かいの少し高い壇上には国王と王妃が並んで座っていた。


周りには貴族達が取り囲むように席を作っており三百六十度びっしりと囲まれている。


突如、壇上を覆うように結界がかけられてルシアンとの間にも見えない壁のようなもので遮られる。



「えっ!?な、何でしょうこれは……ルシアン?」



「セリエ、もう終わりにしよう。真実を教えてくれ……」






「これより、裁判を行う!罪状は宰相によって今から読み上げる!」






セリエは嫌な予感がした。

しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

目を閉じたら、別れてください。

篠原愛紀
恋愛
「私が目を閉じたら、別れていいよ。死んだら、別れてください」 「……無理なダイエットで貧血起こしただけで天国とか寝ぼけるやつが簡単に死ぬか、あほ」 ------------------- 散々嘘を吐いた。けれど、それでも彼は別れない。 「俺は、まだ桃花が好きだよ」 どうしたら別れてくれるのだろうか。 分からなくて焦った私は嘘を吐く。 「私、――なの」 彼の目は閉じなかったので、両手で隠してお別れのキスをした。 ―――― お見合い相手だった寡黙で知的な彼と、婚約中。 自分の我儘に振り回した挙句、交通事故に合う。 それは予期せず、防げなかった。 けれど彼が辛そうに自分を扱うのが悲しくて、別れを告げる。 まだ好きだという彼に大ウソを吐いて。 「嘘だったなら、別れ話も無効だ」 彼がそういのだが、――ちょっと待て。 寡黙で知的な彼は何処? 「それは、お前に惚れてもらうための嘘」 あれも嘘、これも嘘、嘘ついて、空回る恋。 それでも。 もう一度触れた手は、優しい。 「もう一度言うけど、俺は桃花が好きだよ」 ーーーーーー 性悪男×嘘つき女の、空回る恋 ーーーーーー 元銀行員ニューヨーク支社勤務 現在 神山商事不動産 本社 新事業部部長(副社長就任予定 神山進歩 29歳 × 神山商事不動産 地方事務所 事務員 都築 桃花 27歳 ーーーーーー

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

初恋が綺麗に終わらない

わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。 そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。 今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。 そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。 もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。 ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

お姉様のお下がりはもう結構です。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。 慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。 「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」 ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。 幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。 「お姉様、これはあんまりです!」 「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」 ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。 しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。 「お前には従うが、心まで許すつもりはない」 しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。 だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……? 表紙:ノーコピーライトガール様より

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

処理中です...