元カレの今カノは聖女様

abang

文字の大きさ
上 下
39 / 56

父の決断と、愛の答え

しおりを挟む

其々が国を想って、出来る行動を探しながら過ごした。

国王からの呼び出しは決して突然ではなかった。皆が国王の決断を待ち侘びていたしこの国を率いる王族が向く方向を見極める必要があった。


そしてイブリアは国を憂い方向を見極めることは勿論、妙な言い掛かりで行動の制限をされている今にうんざりしていたのでようやく決着がつけられるのだとホッとした。


(気を引き締めなくちゃね…….)


ディートリヒにとっては国の行方など些細なことだった。

ただイブリアが安心して暮らせるように。それだけが彼の願いでその為になら国を救う為に協力だってするし、イブリアに仇をなす者は全て排除する覚悟だった。



「行きましょう、イブ」

「ええ、行きましょう。ディート」




城で一番大きな広間に集まった貴族達は、現在この国を支えている有力な家門の者ばかりで今から何か重要な話があるのだとすぐに分かった。



「皆、よく集まってくれたな」




重々しい空気の中、嬉々とした表情の王妃とセリエが不気味だった。


表情では分かりにくいが、瞳の奥に不安に揺れているルシアンはそれでも口元を綻ばせ決定に満足している様子だった。



(愛があれば大丈夫だ、私がきっとセリエを立派なら王妃にする……いずれ良き王になればいつかイブリアとて喜んで私の元に戻るだろう……)




「ルシアン、もう一度聞く。その者で良いのだな?」


「はい!父上」


「王妃よ、


「はい、陛下……セリエは良い王太子妃となるでしょう」



「セリエ、お前にとって過酷な結婚生活となるだろう。良いのだな?」


(王妃教育の事かしら?……適当にサボればいいし)


「……はい陛下!未熟者ですが、愛の力で乗り越えます。……愛があればほかには何もいりません」


「そうか。では……ここにルシアン・ランベールと聖女セリエ・ジェスランとの婚約を発表する」





会場は騒然とする。


中には喜んで祝う者も居るが、多くの貴族達は冷ややかな目をセリエとルシアンに向けた。


「皆静かに!」


「そして、もう一つ発表することがある……が、その前にバロウズ公爵から先日の事件について報告がある」



セリエは一瞬、表情を失って硬直した。


(大丈夫よ、もう王太子妃確定だし。バレる筈がないわ)



けれどもセリエはイルザの話に見る見る内に顔色を悪くした。


イルザ達の徹底的な調査により発見されたのは、焼き残したとある紙切れだった。


たった少しの切れ端だが、そこには文字が見えた。

それらをいくつか並べてから脅迫状を広げて説明する。



「……そしてこれが、この部分です。所々とはいえ文章を読むからにまるでこの脅迫状を書く




「では、練習したのですね……っ!恐ろしいわ……」


セリエが瞳を伏せて弱々しく言うと以前ならば皆セリエに見惚れて、心配そうにした筈なのに、今はセリエから見えるセオドアも、ティアードも、レイノルドも、ましてや他の紳士達の誰もがセリエではなくイブリアの様子を気にしていた。



(なんで、イブリアの方が注目を受けているの……っ!)



けれどもそんなセリエの耳にイルザの冷たい声が届く。



「本当に怖いのは、ここからです聖女殿」



「な、なんでしょう……公爵」



「この切れ端はイブリアの筆跡ではありませんでした。どうしてだか、所々とある人物の筆跡に似ているそうです」



「へ、へぇ……そうですか」



「準備したものを頼む」


イルザの合図と共に彼の部下が持ってきたものは、聖女が孤児院や病院へと送った手紙だった。


「ここをハネる癖も、少し丸い字も、そして何故か段々とイブリアの字に似せているもののここの部分……我が娘イブリアは自らの名を綴る時の字の癖があります」

段々と説明するイルザにセリエは徐々に胃が軋む。


(バレない、あんな切れ端を集めたもので誰が分かるの)



セリエが王妃をチラリと見ると、王妃はイルザの言葉を遮る。


「そんな小さな紙切れでは説明されても、よく分かりませんわ、公爵」



「そうですか……では、彼の手を借りるしかありませんね」



「ディートリヒ、手を貸してくれるか?」



「勿論です」


ディートリヒがイルザに呼ばれて前に出ると、ディートリヒは燃え残った切れ端の紙に手をかざす。



「……ほう」


「あれは!?」


国王とルシアンは段々と復元されていく紙を見てすぐに分かった。



ディートリヒが、紙切れの時間を戻したのだと。


「そんな……あれはかつて三代目魔塔主だけが使えたという!」


「あんな魔法がまだ存在したのか!?」



皆が口々に賞賛と驚嘆の声をあげている内にあっという間に元に戻った数枚の紙には脅迫状と同じ文面が書かれていた。


所々、字がイブリアのものに似せられているがイルザの指摘した通りイブリアを名を綴る文字だけは圧倒的に違った。



「あれは……どちらかというとイブリア嬢よりも……」



「そんな!!嘘よ!!誰かが私を陥れようとしているわ!ねぇ?王妃様!」



「聖女殿の字に、似ていると思いませんか?陛下」



「聖女よ、ここにイブリアの名を書いてくれぬか?」


「え……っ、その、それは……」



すると、セオドアが手を挙げる。


「書かなくても、俺がセリエからの手紙を持ってる。そこにイブリア嬢の名も書いてありましたよ」


「セオドア!いい加減になさい!!」

王妃が徐に立ち上がり、勢いよくセオドアの元へと行くと彼の手紙を奪おうと手を振り上げた時……


背後からイブリアが王妃の手首を掴み、棘の紋様を国王に見せながら問う。


「王妃殿下?この贈り物はどちらから贈られましたか?」


「な!何するの!?不敬よ!!」



「「「!!!」」」


国王はソレが何か知っていた。

文献でしか読んだ事のないその力を使える者がたった一人しか居ない事も。



「イブリア……離してやりなさい」

「はい、陛下」


セリエは国王の言葉にニヤリと口元を歪める。



「私からの報告があると言ったな」


国王のどこか怒りの含まれま低い声に、皆が静まる。



「王太子ルシアンを廃嫡し、新しくセオドア・フォラントを立太子する」



「え"!?」






「で、でも……ルシアンを廃嫡だなんて!」


「ルシアン、お前には騎士爵を与える。王宮騎士団で鍛え直す事だ」




「父上!!!これはどう言う事ですか!?!?」

「そ、そんな……」



「これでイブリアへの冤罪は晴れた。バロウズ公爵家はもう帰っても良い」



「!」

「イブ……帰ろう」


ディートリヒはふわりと微笑むとイブリアをエスコートする姿勢をとった。


立ち上がって怒る二人を無視した形でいくつかその件について国王が話すと、その場は解散となり、残されたルシアンとセリエはただ無言で床に座り込んだ。



「イブリアを……、正妃にすべきだった」


「えっ……」


「セリエ、証拠が揃えば君は罪に問われるぞ、何故……そんな事を」


「わ、私何もしていないわ!信じてルシアン……」



(まだきっとルシアンは戻れるし、私は王妃がどうにかする)











しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

初恋が綺麗に終わらない

わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。 そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。 今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。 そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。 もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。 ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

処理中です...