元カレの今カノは聖女様

abang

文字の大きさ
上 下
38 / 56

白が黒になるとき

しおりを挟む

イブリアは一晩の間力尽きたように眠ると、彼女の性分なのか朝にはきちんと目を覚ましていた。


「イブリアお嬢様…...っ!」


「アメリア……私……」


「ご心労の所為です。もう少し眠っていた方が……」


 
「もう大丈夫よ、ありがとう」




「「イブ!!!!」」


「イブ……良かった!」


メアリが扉の前で待つ三人に伝えると、勢いよく入ってきたカミルとディートリヒは酷く動揺して眠っていなかったせいで昨日よりも少し疲れて見えた。


イルザはホッとした様子だった。

公爵として人目のある所では堂々と振る舞ったものの、妻亡くし、娘まで居なくなったらと気が気ではなかった。



涙と鼻水でイブリアのシーツを汚してしがみつくカミルと、カミルの勢いに完璧に出遅れてそわそわとベッドの傍に立つディートリヒのそのような姿を見るのは初めてだったので、思わずイブリアは笑った。


「なんで笑うんだ?イブが倒れるなんて初めてだから驚いたんだからな!!生きててよかった~っ」


「カミル、泣くな。全くお前は感情が隠せんで困る!」


「ふふっ、お父様……お兄様の良い所ですよ」


半ばイルザに引きずられるように部屋を出たカミルを見送ってから、イブリアはディートリヒに少し恥ずかしそうに言った。


「ディート、こんな姿でごめんなさい」


「長い付き合いで、倒れたのも寝起き姿も初めてですね」


「少し怒ってるのね」


「無理をしないで下さい。何の為に僕がいるのですか」


「もう、護衛騎士じゃないもの……貴方は侯爵なのよ」


「それでも僕は……貴女の男です!」


そう言ったディートリヒは「あっ」と声を漏らすとカァッと顔を赤くして背けた。


イブリアもまた顔を赤くして俯いたが、ディートリヒの手を遠慮がちに握って「そうね、ごめんなさい」と言った。





「謝る必要など……」

「貴方にもっと頼ってもいいのよね、私のディートだもの」


「……! ええそうですよ、私のイブ」


「なんだか照れてしまうわね」



そんな和やかな朝も、朝食の席では新たな嵐によってかき消される事となる。



「婚前交渉……だと」


「はい、お怒りになった陛下はルシアンと聖女に謹慎を申し渡したらしいです」


「これは、本格的に王太子の交代もあり得るだろうな」


「お父様、お兄様……この国は大丈夫でしょうか?」


イブリアは国を憂いた。


どうやら聖女の肩を不自然なほどに持っているという王妃を訪ねることにしたイブリアは、国王に呼ばれたディートリヒ達とは別行動となった。


ディートリヒはかなり反対したが、イブリアは自領の国民達の為に少しでも状況を良くしたいのだと彼を説得した。




「イブリア……よく来たわね」




「王妃殿下にご挨拶申し上げます」

(今日は妙に落ち着いて感じるわ……)




「丁度良かったわ、協力して頂戴。セリエが閉じ込められているの」



どこか朧げな王妃はそう言ってイブリアにセリエの謹慎を解く協力を求めてきたがイブリアにはどこか不自然に感じた。


(何かがおかしいわ……王妃であって別人ようにも感じる……)



「それは出来ません、陛下の決定を一介の公爵令嬢である私がどうにかすることなど不可能なのです」



「……困ったわね」

そう言った王妃の手首にチラリと見えたのは棘の紋様、手首を巻くようにして浮かび上がっているソレは今まで王妃の手首に見たことのないものだった。



「殿下、それは……」


「あぁ、気に入っているのよ」


「少し失礼しても?」


王妃の手を取ったイブリアが紋様に触れると、魔力とは事なる力の気配が感じられる。


(王妃殿下のものとも違う……何故か知っているような感覚)



何らかの力が王妃にかけられているというのは間違いなかった。


そして、その相手は王妃に近づける者の内の誰か……

自ずと犯人は絞られてくるが、何らかの制約があり王妃を傷つけてしまう場合もあるので下手な質問は出来ない。


「何かしら?」

「いいえ……素敵ですね」


そう言って王妃の手を離した時だった。


「いけません、セリエ様!!」

「お願い、王妃様に会わないといけないのっ」



半ば強引に入ってきたセリエに驚いて扉の方向に顔を向けるイブリアと王妃。


「セリエ……」

「王妃殿下……謹慎だなんてあんまりです!」


「けれど、それは陛下の決定なの……」


「私はルシアンの子を宿しているかもしれないのですよ?早く、正式に婚約しなければなりません」


「……そうね、私が陛下にかけ合うわ」


「王妃殿下!?」


「あら、イブリア様……何か?」


「イブリア、悪いけれど帰って頂戴」

どう考えても不自然だった。


まるで上下関係が逆転したような、奇妙な感覚だった。


「王妃、殿下……?」


「イブリア様?王妃殿下の言う通りにした方が良いかと」


そう言って口元を吊り上げたセリエの笑みはとても不気味で、イブリアはなぜかセリエが関係していると確信した。



(確かめてみないといけないわね)


















しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

初恋が綺麗に終わらない

わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。 そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。 今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。 そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。 もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。 ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

処理中です...