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崩れるのは壁じゃなく自分
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「セリエ…….?何やってるんだ?」
「ルシアン……っ!」
イブリアを出迎えに来たルシアンは、怒りで震えるセリエが恐怖で震えているように見えて、イブリアの表情もまた酷く疲れているように見えた。
「状況を説明してくれ」
ルシアンが皆の顔を見渡して言うと、カミルが前に出て成り行きを説明するとルシアンは少し考えるようにしてセリエに向き合うと、
「イブリアの登城の説明はしておいた筈だセリエ」
「そ、そうだったかしら……?」
「君が怯えるから、念の為に部屋に居るようにとも言ったぞ」
「どうしても、用事があったの」
(なんで、私を庇わないの!?)
「バロウズ公爵、カミル卿、イブリア……引き止めて悪かった。貴賓室をそれぞれ用意してある。ゆるりと過ごしてくれ」
そう言ってセリエを支えるように、連れて行ったルシアンの様子を見て思わずカミルはイブリアに耳打ちした。
「妙に大人しいな……」
「そうね、その方が静かで良いわ」
「お前達、行くぞ」
イルザに促されて一先ず用意された部屋へと向かった三人はそれぞれ少し休むと準備を整えて国王の呼び出しに応じた。
「よく来てくれた、無礼を私から謝罪する」
「いえ……ですが陛下はどうお考えですか?」
「イルザ……イブリアが無能だと私が考えている訳がなかろう。まずお前ならどうする?いつでも殺せるハエを今から殺すと予告するか?」
「ふっ、いいえ。瞬時に消してしまうでしょう……日が昇る頃にはそのハエが居たかどうかも疑ってしまう程綺麗に」
「よい、手伝って欲しいのは犯人探しではない……私はこの国の未来を憂いている。だからこそイブリアが必要だった、なのに愚息は……」
「失礼ですが、陛下。イブを囮にしようと?」
「カミル」
「お兄様、大丈夫よ」
「はっはっは!殆どの者がイブリアの仕業だと信じておらんよ!そう思っているのは本人と熱狂的な聖女の信者達だけだ」
「「!!」」
「お前達は、部屋に戻っていなさい」
イルザが表情を和らげてそう言うと、カミルとイブリアは素直に頷く。
「あぁ、詳細はイルザに聞くといい。もうすぐディートリヒが物凄い剣幕で来るだろう奴が暴走せぬよう無事をみせてやってくれ」
国王がそう言って笑ったあと、表情を変えた。
とても申し訳なさそうに見えた。
「すまないな、イブリア。少しだけ手を貸してくれんか?……カミルもだ」
「陛下、私は陛下の臣下として国の未来の為に出来る事はするつもりです」
「妹がこう言ってしまっては、俺も引けませんね」
そう言って背を向けて扉まで歩く二人は幼い頃と同じ笑顔だったが、もう大人でイルザと国王は少しだけ寂しくなった。
「子供達はもう大人になったな」
「はい、陛下。時が過ぎるのはほんの一瞬ですね」
「まだルシアンには話していないが……」
国王の話に、イルザは驚愕した。
現聖女の重要性について国王が疑問を持つこと。
ルシアンが目を覚さなければ、もしくはセリエを妻に選んだ場合……彼を廃嫡すること。
そして王妃もまた、イブリアに危害を加えるのに加担したりセリエの肩を持つ場合はそれなりの責任を問うことだった。
「その口ぶりですと、犯人が聖女殿だと聞こえますが」
「それはまだ断言できぬが……ここだけの話私は、おおよそそう考えている」
「……分かりました。私も娘の名誉の為に断る理由はないでしょう」
手を握り合った二人の気分は複雑であったが、それでももう国の為、家族の為に後には引けないのだ。
その頃イブリアは、困惑と疲労感に押しつぶされようとしていた。
「イブリア、申し訳なかった……今晩は一緒に食事でも」
「イブ、私もご一緒します。話す事が沢山あります」
「ちょっと散歩に付き合って欲しいんだ、謝りたい事が……って二人共どうしたの!?」
「イブ……無事に到着したと聞いた。話したいことが……え!?」
部屋にやって来たのはルシアンを筆頭に、ティアード、レイノルド、セオドアだった。
イブリアは別に彼らを恨んではいなかったが彼に突然追い回されるようになるとかえって不気味だし、勘弁して欲しかった。
「私が!」「僕が!」とギャアギャアと騒ぎ始めた三人と何か言いたげなセオドアにとうとうイブリアの我慢は限界を迎える。
「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」
(急に怖いし、不気味なのよ!どうして今更こう構うのかしらっ)
「「「「……」」」」
「突然、構われても怖いだけなの!あなた達私を嫌っていたのではないの?私は婚約者を待ってるの。だから帰って頂戴」
魔法を使って一気に追い出され、扉を閉められた四人は呆然とイブリアの扉にかけられた大袈裟な結界魔法に早々諦めるしか無かった。
「お前達の話したいことって何だ」
「私はただ……誤解していたと謝罪を」
「僕も似たようなものだよ、真実を知りたくて」
「セオドア、お前は?」
「殿下こそ」
「わ、私はただ側妃ではなく正妃にするから戻ってくれと頼みに……」
「……追い出されてよかったよ」
四人は、自分達があまりにも情けなくて押し黙った。
「失礼ですが、何故イブはこのような結界を?」
「「「「ディートリヒ……侯爵」」」」
「ディートなの?」
気配だろうか扉の向こうからそう言ったイブリアにディートリヒは優しく問いかける。
「無事ですか?開けても?」
「待って、私が………」
イブリアの解除よりも先に静かに解除したディートリヒに四人は驚いて言葉を失う。
イブリアの結界を誰も解除できる気すらしなかったのに、最も簡単に解除して扉を開くディートリヒを見て敵わないと意気消沈した四人はトボトボとその場を去るしか出来なかった。
「何もされていませんか?」
「うん……ディート、魔力が乱れてるわ」
「イブが無実の罪で捕まったと……」
「そう言うわけでは無かったみたい、とにかくお父様を待ちましょう」
「ルシアン……っ!」
イブリアを出迎えに来たルシアンは、怒りで震えるセリエが恐怖で震えているように見えて、イブリアの表情もまた酷く疲れているように見えた。
「状況を説明してくれ」
ルシアンが皆の顔を見渡して言うと、カミルが前に出て成り行きを説明するとルシアンは少し考えるようにしてセリエに向き合うと、
「イブリアの登城の説明はしておいた筈だセリエ」
「そ、そうだったかしら……?」
「君が怯えるから、念の為に部屋に居るようにとも言ったぞ」
「どうしても、用事があったの」
(なんで、私を庇わないの!?)
「バロウズ公爵、カミル卿、イブリア……引き止めて悪かった。貴賓室をそれぞれ用意してある。ゆるりと過ごしてくれ」
そう言ってセリエを支えるように、連れて行ったルシアンの様子を見て思わずカミルはイブリアに耳打ちした。
「妙に大人しいな……」
「そうね、その方が静かで良いわ」
「お前達、行くぞ」
イルザに促されて一先ず用意された部屋へと向かった三人はそれぞれ少し休むと準備を整えて国王の呼び出しに応じた。
「よく来てくれた、無礼を私から謝罪する」
「いえ……ですが陛下はどうお考えですか?」
「イルザ……イブリアが無能だと私が考えている訳がなかろう。まずお前ならどうする?いつでも殺せるハエを今から殺すと予告するか?」
「ふっ、いいえ。瞬時に消してしまうでしょう……日が昇る頃にはそのハエが居たかどうかも疑ってしまう程綺麗に」
「よい、手伝って欲しいのは犯人探しではない……私はこの国の未来を憂いている。だからこそイブリアが必要だった、なのに愚息は……」
「失礼ですが、陛下。イブを囮にしようと?」
「カミル」
「お兄様、大丈夫よ」
「はっはっは!殆どの者がイブリアの仕業だと信じておらんよ!そう思っているのは本人と熱狂的な聖女の信者達だけだ」
「「!!」」
「お前達は、部屋に戻っていなさい」
イルザが表情を和らげてそう言うと、カミルとイブリアは素直に頷く。
「あぁ、詳細はイルザに聞くといい。もうすぐディートリヒが物凄い剣幕で来るだろう奴が暴走せぬよう無事をみせてやってくれ」
国王がそう言って笑ったあと、表情を変えた。
とても申し訳なさそうに見えた。
「すまないな、イブリア。少しだけ手を貸してくれんか?……カミルもだ」
「陛下、私は陛下の臣下として国の未来の為に出来る事はするつもりです」
「妹がこう言ってしまっては、俺も引けませんね」
そう言って背を向けて扉まで歩く二人は幼い頃と同じ笑顔だったが、もう大人でイルザと国王は少しだけ寂しくなった。
「子供達はもう大人になったな」
「はい、陛下。時が過ぎるのはほんの一瞬ですね」
「まだルシアンには話していないが……」
国王の話に、イルザは驚愕した。
現聖女の重要性について国王が疑問を持つこと。
ルシアンが目を覚さなければ、もしくはセリエを妻に選んだ場合……彼を廃嫡すること。
そして王妃もまた、イブリアに危害を加えるのに加担したりセリエの肩を持つ場合はそれなりの責任を問うことだった。
「その口ぶりですと、犯人が聖女殿だと聞こえますが」
「それはまだ断言できぬが……ここだけの話私は、おおよそそう考えている」
「……分かりました。私も娘の名誉の為に断る理由はないでしょう」
手を握り合った二人の気分は複雑であったが、それでももう国の為、家族の為に後には引けないのだ。
その頃イブリアは、困惑と疲労感に押しつぶされようとしていた。
「イブリア、申し訳なかった……今晩は一緒に食事でも」
「イブ、私もご一緒します。話す事が沢山あります」
「ちょっと散歩に付き合って欲しいんだ、謝りたい事が……って二人共どうしたの!?」
「イブ……無事に到着したと聞いた。話したいことが……え!?」
部屋にやって来たのはルシアンを筆頭に、ティアード、レイノルド、セオドアだった。
イブリアは別に彼らを恨んではいなかったが彼に突然追い回されるようになるとかえって不気味だし、勘弁して欲しかった。
「私が!」「僕が!」とギャアギャアと騒ぎ始めた三人と何か言いたげなセオドアにとうとうイブリアの我慢は限界を迎える。
「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」
(急に怖いし、不気味なのよ!どうして今更こう構うのかしらっ)
「「「「……」」」」
「突然、構われても怖いだけなの!あなた達私を嫌っていたのではないの?私は婚約者を待ってるの。だから帰って頂戴」
魔法を使って一気に追い出され、扉を閉められた四人は呆然とイブリアの扉にかけられた大袈裟な結界魔法に早々諦めるしか無かった。
「お前達の話したいことって何だ」
「私はただ……誤解していたと謝罪を」
「僕も似たようなものだよ、真実を知りたくて」
「セオドア、お前は?」
「殿下こそ」
「わ、私はただ側妃ではなく正妃にするから戻ってくれと頼みに……」
「……追い出されてよかったよ」
四人は、自分達があまりにも情けなくて押し黙った。
「失礼ですが、何故イブはこのような結界を?」
「「「「ディートリヒ……侯爵」」」」
「ディートなの?」
気配だろうか扉の向こうからそう言ったイブリアにディートリヒは優しく問いかける。
「無事ですか?開けても?」
「待って、私が………」
イブリアの解除よりも先に静かに解除したディートリヒに四人は驚いて言葉を失う。
イブリアの結界を誰も解除できる気すらしなかったのに、最も簡単に解除して扉を開くディートリヒを見て敵わないと意気消沈した四人はトボトボとその場を去るしか出来なかった。
「何もされていませんか?」
「うん……ディート、魔力が乱れてるわ」
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