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隠れた壁はあまりにも美麗
しおりを挟む「セリエ、その手紙を少し貸してくれないか?」
「え……えぇ、いいわ」
戸惑った素振りを見せながらも、内心では狙い通り見覚えのある文字に気付いたルシアンにニヤリとしながらも表面上は怯える聖女を装った。
「大丈夫だ。私の思う通りなら心配する必要はない」
「わかったわ、お願いルシアン……」
「あぁ……」
動揺した様子だったが、セリエを守るように抱きしめ、背中を子供を宥めるみたいに二回ほど優しく叩くと早足で出て行った。
久々にルシアンから優しくされた気がしてセリエはもうそれだけで満足していたが、かえって自分を心配して守ろうとするルシアンの様子が懐かしくてもっと優しさが欲しくなった。
"セリエ、泣いているのか!?どうしたんだ……"
"イブに靴を捨てられたって!"
"皆セリエを無視して、誰も探してくれないらしい"
"レイ、ティアード。新しい靴と拭くものを用意してくれないか?"
"セリエ……私からも謝るよ、すまない。君は私が守るから"
(あの時は皆居て、私はお姫様みたいだった)
イブリアの筆跡に似ていると言う事はすぐに判明されて、バロウズ城に騎士達が送られた。
それを聞きつけたセオドア、ティアード、レイノルドはすぐにルシアン元を訪ねた。
「殿下、本当にイブを疑ってるのか?」
「セオドア……私もわからないんだ」
「お言葉ですが殿下、イブは私達の誰にも、殿下にも興味などありません、勿論セリエにもです!疑う理由が無いではありませんか」
「だが、王妃に興味があるかもしれん。側妃ということにヘソを曲げているだけで王妃の地位を欲してセリエを殺害しようと……」
「そんな訳ないよ!イブが本気ならもうセリエは死んでる!!!」
「レイ、やめないか」
「でも、ティアード。セリエは僕達を騙してただろ」
「どう言う事だ?お前達が私と距離を置いている理由に関係があるのか?」
「「「……」」」
「お前達の言葉を信じる。だから話してくれ……」
三人はルシアンにセリエとセオドアにこの間起きた出来事、彼女の聖女の力についてを話した。
ルシアンは机の上で頭を抱え、弱々しく「全て誓って事実か」と何度目かの問いかけをしたが、皆の沈黙が答えだった。
「では、今回も嘘を言っていると?」
「あぁ分からないけど、イブがセリエを殺す理由は無いよ。レイノルドの言った通りイブならばこんなやり方はしない筈だ」
「真犯人を探す」
三人は頷いた。
イブリアへの疑惑を晴らしたかったのだ。
ルシアンもまた真実を知る為に真犯人を探す事を誓った。
念の為にセリエには護衛が付いた。
国唯一の聖女だと言うこともあり、王妃より送られた優秀な騎士達だ。
「ジョン、マイルズ。よろしくお願いしますね」
「「はい、聖女様」」
バロウズ家は召集に応じたらしく王宮に向かっていると連絡が入った。
「明日には……イブリア様が来るのよね」
「大丈夫です聖女様!」
「我々がお守りします」
「本当に?頼りにしているわ……」
そう言って二人に儚げに微笑んむセリエを誰が疑うのだろうか?
二人の話を聞いた騎士達の噂によってセリエは瞬く間に悲劇のヒロインとして同情を集めた。
けれども、セオドアやティアード、レイノルドがセリエを訪ねてくる事は無く、その代わりに多くの子息達がセリエを尋ね見舞いの贈り物をした。
セリエは始終上機嫌だったが、王妃もまたセリエを尋ねぬ理由があった。
「これは、イブリアではないわ」
王妃こそ、イブリアの指導をする上で沢山彼女の字を見てきた。
どう見てもちがう所々の文字の癖が王妃に違和感を抱かせていた。
「けれども、確かに見たことがあるのでも彼女じゃないわ」
「ほう、では他に犯人がいるという事だな」
「陛下……この件はしっかり調査しませんと。イブリアならば感情的になっただけだと思いましたが、恨みを持つ他の者ならばセリエは命の危機にあります」
「……そうだな。では調査を早くする為に人員を増やそう。それと、彼に連絡を」
「彼?」
「彼ならば、名を語られた婚約者の為にすぐに真犯人を見つけるだろう」
「まさか、陛下……ディートリヒですか?」
「ああ、他に適任は居ないだろう」
「ですがそれではイブリアが犯人だった場合……」
「そんな事があると思うか?妻ではなく王妃として答えよ」
「……ありませんわ。イブリアが犯人ならばこんな事よりも今頃は葬儀の話をしているでしょう」
「ならば、余計な事を考えずお気に入りの聖女から目を離さぬことだ王妃」
「ーっ、はい」
イブリアの登城は皆が思っていたよりも早く、イルザやカミルの態度はさっさと済ませて帰りたいと言うようなものだった。
「嫌でももうすぐ王都で住むのに……俺の僅かな休暇が……」
「カミル、表情を引き締めろ。さっさと済ませるぞ」
「お父様、お兄様……ごめんなさい余計な事に巻き込んでしまって」
「イブは関係ないだろ、謝らなくていい!」
「そうだ。すぐに我々で真相を突き止めて帰ろう」
「ディートもすぐに来るらしいぞ!」
「……ええ、ありがとう!」
三人の会話などつゆ知らず、目撃した貴族達は噂話に花を咲かせる
「イブリア様、相変わらずお美しいわ……」
「でも聖女様を殺そうとしたって」
「本当だったら、大変な事よね……!」
そんな中、甲高い悲鳴が聞こえる。
「ごめんなさ……っ、イブリア様、どうして」
「ご機嫌よう。陛下に呼び出されただけよ」
それ以上は無視して進もうとしたイブリアにセリエは言葉を投げつけた。
「どうして!私を殺そうとするんですか……っ!?」
「……そのような事は考えた事がありませんが」
「でも、脅迫の手紙は貴女の筆跡だったって……!」
「私なら……脅迫はしません。魔法を使っても、剣を使っても……権力を使っても一瞬で終わらせる事ができるからよ」
「ほら!やっぱり!!!」
「話を聞いていましたか?遊びたいなら他を当たって下さい、私は忙しいのです聖女様」
怒りを含んだイブリアの瞳と呆れたような声に、屈辱で顔を赤くしたセリエ。
クスクスと笑う婦人たちの声と「そりゃそうだよな」と納得する紳士たち。
「セリエ……?何やってるんだ?」
「ルシアン……っ!!」
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