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武闘大会 3
しおりを挟む「なんで……また面倒な奴と」
「カミルさん……」
レイノルドに向かい合うカミルの表情は嬉しそうではない。
皆、対戦相手と本気で戦ったり普段対戦できないような先輩方と腕試しするのを楽しんだりとしながら優勝を目指すのだがカミルはもう、確信している。
(レベルが低すぎる、俺かディートが獲るのに問題は無いし……どうせなら楽しみたいけどレイノルドは……)
「カミルさんは何故、イブを放置するんだ!」
「……俺がイブを?」
「貴方がセリエを虐げる彼女を注意すべきだったっ!」
「ほんと、疲れるよお前達は」
「はっ!?」
珍しくその気になったそのよく通る声はある程度の階の席の者にははっきりと聞こえている。
赤々と燃えるように光る魔力は、アカデミーの実習で見た事があるイブリアのものとよく似ていて当時を思い出して身震いする。
豪快だが、ちゃんと計算された攻撃魔法は学年最強とも言われていた彼女は紛れもなくバロウズ公爵家の、彼の妹なのだと思い知らされる。
「人の本質がわからない、お前達はいくらでも知る手段があるのにだ」
「分からないのはカミルさんと、イブだろう!セリエは……っ」
「持つ才を腐らせて、その脳みそは飾りにしてる……」
「いくらカミルさんでもそれ以上は……っ」
「妹だからじゃない。贔屓目を抜いても彼女は……」
(カミルさん、怒ってる……?まずい)
チラリとセリエを見たレイノルドは驚く。
自分を心配するのではなく、カミルをキラキラとまるで恋する乙女のような瞳で頬を染めて見つめているのだ。
「え……セリエ」
「っは!気味が悪いよ。あれは一体誰の女だ?」
一瞬、近づいてレイノルドに耳打ちすると顔を顰めたまま離れたカミル。
その言葉にハッとしたようにカミルを見たレイノルド。
「俺は……マルティナ一筋なんで!」
悪戯か、魔力で赤いハートを沢山浮き上がらせるとしまいには魔力で文字を浮かび上がらせる。
『マルティナ、愛してるよ』
不安そうに見つめていたマルティナは、吃驚した様子だったがとても嬉しそうに微笑んで彼女の柔らかい淡い紫の光で「私も愛してる、カミル」と浮かび上がらせた。
高貴な二人の愛し合う様子に盛り上がる会場。
呆れるイルザ、微笑むディートリヒに愛する人を一途に愛し、自分を信じてくれる兄に胸が温かくなるイブリア。
「カミルさん、貴方は相変わらず……僕間違ってたのかな?」
「さぁ、信じたい方を信じれば?」
「でも……彼女は今貴方を見つめてるんだ」
「すぐに崩れる程度でイブリアを傷つけたのかお前達は」
「……うっ」
「お前達はずっと……ブレてんだよ」
セリエの口元は確かに凄いわっ!と嬉々とした表情で動いた。
イブリアやマルティナ達の居る方を見ると、イブリアは表情を崩さなかったが胸に手を当てて「カミルお兄様、ありがとう」と口元を動かしたような気がした。
彼の魔力で作ったハートが爆発音を立てる中、レイノルドは冷静だった。
どの道なけなしの魔力で使う防御などカミルの攻撃には意味が無いだろう。
(きっとセリエが泣きながら、治癒してくれるんだ)
カミルの攻撃を成す術なく受け入れながらもそう考えたものの浮かぶのは、昔のことだった。
"私の真似をしようとしないで、レイ"
"だって……"
"私治癒は簡単なものしか使えないのよ……手当てしてあげるわ"
(ああ、イブはいっつも僕に怒ってたなぁ)
懐かしかった、イブリアを尊敬してた。好きだった。
彼女やカミルのようになりたくて真似をしては怪我した。
その度に駆けつけてくれたのはイブリアだった。
なのにいつからだろう、
セリエを愛してしまったのは、
彼女はいつも、僕が辛い時他の男と居るのに
そう考えてハッとした。
自分の本音に驚いた。
セリエを疑ってしまってもいつも、愛そうと何故かそう考えていた。
「今回もきっと、彼女はお前の元に来ないよレイ」
「うん、もう分かってるんだ本当はずっと前から」
何故だか頭が、身体がスッキリしていく気がした。
「ごめん、イブ」
「死にはしないが、早く治癒してやれ。必要なら妹が診るだろう」
もう限界で崩れ落ちる中、そう言ったカミルの声だけが聞こえた。
(イブは苦手な治癒魔法も克服したのか、流石だなぁ……)
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