元カレの今カノは聖女様

abang

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どう足掻いたってもう

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「ディート、何処かしら……」


会場からやっと逃げて出てこられたイブリアはディートリヒを探すが、王宮は広い。


薄暗い渡り廊下は会場の賑やかさとは打って変わって静かだ。



(演武場かしら……)




「イブリア……っ」


背後から聞き慣れた声がして、振り返らぬまま立ち止まる。


(聞こえないフリをしようかしら?ほんと次から次へと……)


返事をしないイブリアに痺れを切らしたルシアンは駆け寄って、イブリアの細い手首を取るともう一度彼女の名を呼んだ。


「イブリア、お願いだ……返事をしてくれ」


「申し訳ありません考え事をしていましたわ……離して下さる?」


「すまない……君とは、別れても良好な関係で居たいんだ。今までのように」


「それは、どう受け取ればいいのでしょうか?」


「その……私はイブリアに傍にいて欲しい」


(この台詞をもう少し昔の私が聞けば、喜んだでしょう……けれど)



「貴方にはセリエ様が居るのではないのですか?」



「セリエは……その、彼女を正妃にするには少し周りから不安視する声が多い。だが私にはイブリア、君が居ると皆は考えているんだ」


(何て身勝手なの、皆……早く婚約破棄を公表しなければならないわ)


「では、私をお飾りの正妃にしてセリエ様を側妃にしようと?」


「いや、セリエには耐えられないだろう。君には側妃として支えて欲しいんだ。勿論君をずっと大切にする」



「お断りします、殿下」



「それに…….君を他の誰にも渡したくないんだ、幼い頃から君は私のイブリアだっただろう?君は、私のものだ」



(馬鹿にしているのね……私はまるでモノののようね)




「いいえ、違います。私は私だけのものです」


「イブリア!もう私を愛していないのか!?」


「私を物として扱うような人をどうして愛せるのでしょう。それと……」



「??」


「貴方は私を愛しているの?ルシアン……」


「!!」

ルシアンは鈍器で頭を殴られたような気がした。


「愛している」かと問われれば愛しているのだが、イブリアとセリエに対する気持ちは違う。


どちらが正しい「愛している」なのかは分からないのだ。


イブリアがルシアンに対して愛していたのは殆ど刷り込みのようなものだっただろう。


けれども彼女は確かにずっとルシアンを大切にしてくれた。


なのに自分は二人を天秤にかけ、どちらも選べずにいる。



「イブリア、私に少し時間を……」


「私達を競わせて、貴方に選ばせる時間?あのね……ルシアン」


「イブリア、口が過ぎるぞ」


「きっと、皆が心配しているのはセリエ嬢ではなく貴方のことです」


「なっ!?」


「一度捨てた婚約者に構う暇があるのなら、貴方の新しい恋人を正妃に相応しい人になるよう支えてあげて。それが貴方の行動の責任でしょう?私に助けを求めるべきじゃありません」



「イブリア、だが……っ」


「貴方の婚約者だったイブリアはもう居ません」


イブリアがそう言い切った所で、ゆっくりと近づく気配に気付いたルシアンは段々と近づくその人物の瞳が見えた瞬間に思わず一歩後ずさった。


暗闇に溶け込む黒髪に、暗闇でも耀く星空のような瞳。


そして離れていてもわかる刺すような魔力。



「ディートっ!」


いつも高貴な雰囲気を崩さないイブリアが安心したように目元を和らげ、ふわりと微笑んだ。


その表情に、ぎゅっと心臓を掴まれるような身体が痺れるようか感覚がしてルシアンはイブリアに手を伸ばしたくなった。


(行かないでくれ…….)


「ーっ!」


ルシアンよりも先にディートリヒの腕は彼に飛び込んだイブリアを閉じ込めた。


「イブリアお嬢様、申し訳ありません」

「いいの、……帰りましょう」

「宜しいのですか?」

「ええ。貴方も明日は武闘大会でしょう?」


「問題ありません」



(アイツも出場するのか?)


目の前で仲睦まじ気な二人に苛立ちと焦りを感じつつもディートリヒが明日の大会に出ると言うことにニヤリとした。


「ディートリヒ」



「……殿下」



「前回の優勝は私だ」


「そうですか」



「願いは今決めた。せいぜい頑張るんだな」


「……」


「殿下、失礼しますわ」


「イブリア、待っていてくれ。きっと明日君に勝利を捧げよう」


(結構よ……)



「優勝出来ればですが殿下。では……さようなら」


ディートリヒや、カミル、そしてセオドアまでもが王妃によって遠ざけられルシアンの栄光の妨げにならぬよう仕組まれたことだったと言う事を知らぬルシアンは、自分が優勝すると信じて疑わない。


彼の頭の中では、勝利しイブリアを傍に置くその瞬間に生意気なディートリヒが悔しがる姿が想像されていた。



「そうだ、今までのずっと私が一番だった。心配する事ない」






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