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王太子妃殿下!勘弁して下さい!
しおりを挟む「王太子殿下!!妃殿下が……っ!!」
盛大な結婚式の後、王宮で住まうようになったフレイヤに刺客だったりしがらみだったりと王族としての荷重や危険を心配したが彼女は見事にルディウスのそんな不安を打ち破った。
まだ初夜以外の寝床を共にしていないものの王太子妃宮からの使いはこのような深夜に限ってよく来る。
何故ならば彼女は、護衛よりも先に刺客に気付いてしまうらしい。
そして度々、おびき寄せるように窓を開くのだ。
護衛騎士が駆けつける度に、思わず同情してしまう程ズタボロになった刺客を見つけてその度に隣の王太子宮へと遣いがすっ飛んでくる。
それでも、フレイヤに何か起こらないとも言い切れない。
どうやって叩きのめしているかは不明だが、あの華奢な腕や脚、細い腰では男にはいつか負けてしまうかもしれないと慌ててフレイヤの部屋に飛び込むとベッドに腰掛けて震えるメイドを慰める姿が見えてホッとした。
「フレイヤ、怪我は無い?」
「ルディ様、心配ないわ」
「毎度どうやってるんだ?コレ」
ふわふわのカーペットの敷かれた床で伸びている顔の原型が無い刺客の男二人を見下ろして聞くがこれにまともな返事が来たことはまだ無い。
「階段から落ちたんですって」
「その設定は無理あるね」
「……転んだようです」
「派手に転んだようだね」
何故か通用したと思っているフレイヤの横顔に癒されながらもふと考える。
(こんなに王太子妃ばかりが狙われるのはおかしいな)
そして、厳重な筈のこの王太子妃宮に何故こんなにも刺客が忍び込むのか?
まるでおびき寄せられるように……。
(まさか……っ!)
王太子や王に届かなければ王太子妃や王妃を人質に取ろうと考える者も少なくは無い。
それを利用してフレイヤはおびき寄せているのでは無いかとひとつ仮定した。
隣には王太子宮が、奥には王妃宮、本城には王が居る。
ここで食い止める事が目的ならば全て辻褄が合う。
けれど彼女一人でこれを毎晩相手するにはかなり腕が立たないと無理だろう。ルディウスも出来なくは無いが、かなり疲弊するだろう。
女性、ましてや貴族の令嬢一人には不可能だ。
(ならば、影がいるのか?)
本来高位貴族ほど私財で影を雇い護衛騎士とは別に側に置く事が多い。
大抵そういう者はかなり信頼できる関係を築けた者だけが影として雇われる事ができる。
(どんな者だろう?)
女性か、男性か、年齢はいくつくらいか……
騎士と令嬢の恋物語があるのだから信頼する影との恋物語が無いとは言えない。
(き、気になる……っ!)
「ルディ様?どうしたの……?」
(もし聞いて、影が居て男だったら……?)
「……ルディ?」
「ーっ、フレイヤ」
「ぼうっとしてどうしたのですか?」
「いや……その、これはもしかしたら」
「?」
「フレイヤには、影が居るの?」
キョトンとした顔「そんなことか」と言いたげな視線にたじろぐ。
当たり前だろうと紹介されたら、それがいい男だったら自分は寛大な夫のフリをしていられるのか……
「居るには居ますが」
「これはその影が?」
「いいえ。私の影は大抵ティリーの護衛をお願いしています」
「は?」
「ティリーの護衛です」
「それはティリア嬢の影じゃ……?」
「いえ、私の影よ?」
「影の使い方間違ってるわ」
「あ、一人だけ近くに居ますが」
どきりと胸が嫌な音を立てた。
アメノーズ公爵家から連れてきたメイドに「ミリムは寝てる?」と尋ねると首を緩く振ったメイドに苦笑して「起きてるなら呼んで来てくれる?」と伝えた。
一人だけ手元に置いている影……余程気に入っているのか……
大切にしているのが伝わる表情に嫌な汗が出る。
「フレイヤ様!」
「ミリム、ごめんなさいね。明日はゆっくり寝るのよ?」
「はい!!」
「ち、小さな子供?」
「お初にお目にかかります!ミリムです!」
「まだ十歳ですが、三番目に強いんですよ」
「そ……そうなんだ」
多大な情報量と、安堵で俺の頭はショートした。
(き、気になる点が所が多すぎる…….)
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