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恋人は世界一可愛い人
しおりを挟む「ふふん、俺の恋人……で良いんだよな?」
「多分、そうでしょうね」
隣でクスリと笑うティリア嬢は、凄く優しい目で相変わらず囲まれているフレイヤを見つめている。
今日もフレイヤの美貌は子息達の頬を赤く染め上げているが、俺には恋人としての余裕がある。
「ごきげんよう、殿下」
「あぁ大臣」
「にしても、お噂のご令嬢はとても人気があるようですね」
「俺のフレイヤは今日も美しくて聡明だからな」
「お!もうその様な御関係だったとは……!」
「流石、殿下ですな」と感心する大臣とのこのやり取りはもう今日数えきれないほどの人達とした。
冷めた目で俺を見るティリア嬢は、失礼な事に人避けとして俺を使いながらフレイヤを待っているのだ。
彼女もまた子息達の関心の矛先であるからだが、俺としてもフレイヤを待つ上で都合がいいので良くこうして壁際に並んで待っている。
「フレイヤ嬢、今日もお美しいですね!」
「あぁ自慢の恋人なんだ、俺に勿体ない人だよ」
口々におめでとうと皆が言うので気分が良い。
やっと叶った初めての片想い、もとい初恋はこんなにも幸せなのか!
「どうしよう、幸せすぎる」
「殿下が緩みすぎてて不安」
ティリア嬢の辛辣な言葉は全て受け流すことにしている。
流石、フレイヤの親友とあって王太子と言えど遠慮が無いのだ。
それでいて無礼ではない作法は完璧なのだから返って怖い。
何故ならばフレイヤに関しては、
堂々と完璧にとても無礼なのだから
非の打ち所がないティリア嬢は恐ろしいと思うと呟けば、
「いや、完璧にとても無礼な人の方が怖いわ」
って真顔で呟き返されたので、聞こえないことにした。
「また聞こえないフリ……殿下はフレイヤに甘すぎます」
「君に言われたくは無いが」
「「……」」
そうは言っても、公爵令嬢として御公務モードのフレイヤはどこからどう見ても完璧な淑女だ。
「フレイヤを傷つけないで下さいね」
突然、そう言ったティリア嬢の目は真剣だった。
「約束する。幸せにすると」
そう言うと安心したように表情を和らげて、
「フレイヤは不器用で変人だけれど何度も救われてるんです」
「うん」
「分かりにくいけどいつも守られてばかりで、私がフレイヤの世話をして居ると皆思っているけれど。本当は私は守られているんですよ」
確かに、意外だった。
けれどティリア嬢の目はやっぱり真剣で、少し離れた所にいるフレイヤを優しく見つめたままだ。
「暇つぶしに」としてくれたフレイヤの話は驚く事ばかりで、彼女は本当にただの令嬢なのか?と疑う事もあるが、笑ってしまうほど現実離れしたものばかりでパーティーだと言う事も忘れて夢中になった。
付き添いの護衛騎士も俺にバレてないつもりだが肩をずっと震わせているし、一方離れて付き添っているティリア嬢の侍女は寧ろ彼女に気を使う事なくクスクスと笑っている。
「ーそれで、私が攫われた場所をお父様より早く見つけたフレイヤは一人で乗り込んできて三十はいる暴漢を一人で倒したんです。その姿はもう人などとうに超えてゴリラのようでしたわ」
「ぶっ!」
「でもね、追ってきた彼女の護衛騎士に叱られてもケロッとしていた癖に私の手首の縄のアザを見て泣きじゃくってくれたフレイヤが優しすぎて心配になりました。自分をもっとかえりみて欲しいと」
「私も、フレイヤが大切で心配なんです」
そう言ったティリア嬢の言葉は切実に聞こえた。
「フレイヤに、怪我は無かったのか?」
「無傷だったわ」
「相手は三十人の男だったんだろう!?」
「寧ろ男達は、ボコボコでした」
「……」
それでも、やっぱりフレイヤは凄くて、素敵な、世界で可愛い恋人だと誇らしく思った。
「あ、御公務モード終わったようですわ」
「フレイヤやっと来るな」
そう、俺の大切な美しくて何でも出来る友達想いで自慢の……
素敵な……
「……」
「あれ?」
彼女はパーティーに似つかわしくない何かを引き摺っている。
「ティリア嬢あれは……」
「見知らぬ男ですわね」
「お二人とも、ごきげんよう」
「フレイヤ、ソレは何?」
「あっ……これは刺客です」
「「は?」」
「さっき殿下の元に、毒入りの飲み物を運ぼうとしていたので」
素敵な……俺の……ゴリ……恋人。
「うん、気のせいだ。愛おしい君がゴリラに見えた事なんてない」
「殿下もうそれ口に出てるので、アウトです」
「二人とも、私への感想よりも刺客に反応してくれない?」
「「あ、ごめん」」
「私の恋人……らしき人に危害を加えようとする者は許さないわ」
「うん、照れ隠しが安定に下手くそだわ」
「可愛い」
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