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フレイヤは人気者?
しおりを挟む「突然来て視察に着いてこいだなんて……」
「ははは、すまないねぇ」
侍女はフレイヤがこうして突然現れたルディウスに呼ばれて出て来ている時点で珍しいことなので、フレイヤは実はルディウスを……
(なんて、気のせいかな?)
まぁルディウスは王太子という立場でもあるし、旦那様と奥様から信頼を得ていて門をすぐに通過できるとはいえ、ああも部屋の前で子供のように叫ばれては流石のフレイヤ様も出ざるを得ないかもしれない。
「フレイヤァーあーそーぼー!!」
「……」
「おーい!フーレーイーヤーあーそーぼっ」
「……帰って下さい」
「フーレイヤちゃん、あーそー……」
「もう分かりました!上がって待ちやがって下さい」
「え……まぁいっか」
と、朝から騒々しい様子を微笑ましく見護るフレイヤの両親ことアメノーズ公爵夫妻は流石というべきかフレイヤ様のご両親だと納得する。
なんとなく、頭のネジが一本抜け……これは不敬になるので控えておきましょう。
けれども、皆フレイヤ様が大好きだ。
勿論旦那様のことも、奥様のことも。
準備を終えて部屋に戻ってきたフレイヤ様に「美しい」と目尻を下げたルデウス殿下のお顔が優しすぎるほどでフレイヤ様は何故こんなにも素敵な人の求愛を受け入れないのだろうかと思ってしまう時があるほどだ。
「お嬢様、日傘はどちらにしますか?」
「右のをお願い、ミイありがとう」
そう言ってひとつひとつ使用人にも「ありがとう」「ごめんね」と声をかけて下さるフレイヤ様の優しさを感じる度に皆大好きになっていく。
名前だって一人一人覚えて下さっているし、変な感じで絡んでくるけれど誕生日プレゼントだってお嬢様付きの使用人は皆毎年頂いてる。
(ぶっ飛んでいるようだけれど、凄くお優しいのよね)
そんなフレイヤは馬車の中で見えない線を日傘で引いている。
「ルディ様は此処から入って来ないで下さい」
「何で」
「此処からは私の陣地ですので」
「じ、じんち……っ」
「……」
「はみ出たら罰金二千万ゴールド」
「ぼったくりだな」
そんな二人の会話に馬丁がクスクスと笑う声が少し聞こえて、ルディウスとフレイヤは顔を見合わせて笑った。
視察は思いの外ハードだった、フレイヤが心配になってチラチラと確認してしまうルディウスに「どうしたんですか?」と平気な顔で首を傾げるフレイヤはもうすっかりこの街の人気者だ。
「フレイヤ様ー!さっきはありがとうございます!」
「フレイヤ様はほんとうに美しい!!!」
口々にフレイヤ、フレイヤと皆が言うのを初めこそ「未来の王太子妃だから仕方ないな」と自慢げにしていたが徐々にいつもの子供じみた独占欲が滲み出てくる。
休憩しようと招かれた領主の屋敷に着くと、フレイヤは膨れたルディウスの頬をツンとつついた、というよりぶすりと刺した。
「いった!」
「あ……勢いを間違えたわ」
「フレイヤ……」
「何を膨れているのですか?」
「俺のフレイヤが皆に取られた気がしたんだ」
「まず、貴方のではありませんが」
「う"」
「でも、民に向き合うルディ様は格好良かったです」
微かに頬を染めてふわりと微笑んだフレイヤのその表情は確かに今、ルデウスだけに向けられているもので思わずルディウスもカァっと赤くなってからフレイヤをぎゅっと抱きしめた。
「フレイヤ、やっぱり俺と……」
「ルディ様」
遮るように囁かれた名前、その優しい声が心地よくて「なに?」と抱きしめたまま聞く。
「陣地、越えてます。罰金」
「えっ」
「もう越えてるっていうより侵入してるの、ルディ様」
「じ、んち……?はっ!?まだそれ有効だったの!?」
「男はオオカミだと母が言っていたので」
(抱きしめた手前、否定できない……)
けれどもやっぱり侍女は、いつものフレイヤならば男性ひとりくらいなら得意の蹴りと身軽さで回避できるのにルディウスの腕の中で大人しく無表情でいるフレイヤを見てやっぱり満更でもないのかもしれないと思った。
後ろ姿から見える彼女の耳が赤くなっていてドキドキした。
「罰金は今日の有意義な視察デートで許しておきます」
「えっ、し視察デート……」
「違いましたか?」
「違わない!フレイヤやっぱり俺の妻に……」
感動のままガバッとフレイヤに飛び付く勢いで抱きしめようとしたルディウスをゲシッと似つかわしくない音が歓迎する。
(あっ蹴った)
(えっ蹴った?)
どうやらルディウスの護衛達も驚いているようで、へらりと笑ったルディウスにホッとしたようだ。
「へへ、ごめん調子乗った」
「な、何で笑っているんですか……」
「フレイヤが可愛くって」
「……節穴?」
「違うな」
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