12 / 42
親友というポジション
しおりを挟む「フレイヤ、今度カシュタルに新しく出来たカフェに行かないか?」
「ごめんなさい、それはティリーとこの間……」
こんな事は初めてではない。
今度こそ自分が一番目だと思えば、必ずフレイヤの口からでる「ティリー」
彼女はどちらかと言えば協力的だしとてもいい子だと思う。
だが、どうしても嫉妬するのだ。
(ティリー、ティリー、ティリー何をやっても先回りされる)
彼女は長年の親友だと言う事もあって、流石フレイヤの事を熟知しているようだ。
好きそうな店、新作のお菓子、好きそうなブティック……何からなにまで。
ティリアは一見クールにも見えるがフレイヤをかなり甘やかしている。
また、フレイヤもティリアの事を熟知しており持てる力と金をふんだんに使っては彼女を喜ばせようと日々目論んでいる。
(時たま可笑しな事をするのにも理由があるのだろう……多分)
今日も「この間行きました」と言われてしまい手札のカードがなくなった俺はディエゴを抱いてソファに丸くなっている。
「いや、帰れ」
「不敬」
「帰りやがって下さい殿下」
「悪化!」
「何をいじけているのですか?」
「いま、小声で鬱陶しいと聞こえた」
「気のせいでは?殿下もお歳ですかね……どうぞお入り下さい」
「その棺桶どっから出した?」
相変わらず様子のおかしいフレイヤのこれは通常運転なのだと近頃慣れつつあるが、どう考えても「ティリー」に連敗している事だけはどうにかしなければならない。
「で、いつまで居座るつもりですか?」
そう言いながら、お茶を淹れてくれるようになったことは進歩と言ってもいいだろう。彼女の滑らかな手を見つめていると目の前にティーカップが差し出された。
(あ、好きな香りだ)
「フレイヤの初めてを手に入れるまで」
「え……っ」
「……誤解だ。そう言う意味じゃない」
「……」
「頼むから、その目はやめて」
「じゃあ、どういう意味ですか?」
軽蔑するようにかなり遠い壁際まで離れて言うフレイヤに、
「君の親友と行っていない場所はないのか?」と聞くと軽く目を見開いて、ふわりと微笑んだ。
「何だそんな事ですか?」と言ってくれるのかと期待の眼差しでフレイヤの言葉を待つと、彼女は弾んだ声で、可愛い笑顔で言った。
「今のところはありませんね」
「……」
「……?」
「男心がわかっていない!」
「必要がありますか?」
「俺の男心だけ分かって欲しい」
「頭を打ちましたか?」
「君には言われたくない」
すると、「うーん」と少し考える仕草をしたフレイヤは閃いたように
「ルディ様の部屋には行ったことがありませんね!」
と、笑った。
深い意味は無いのだとちゃんと分かっているが、それでも期待したい。
(あー俺、きっと顔が赤いな)
「あの……じゃ、来る?」
勇気を出して言った!
よくやった俺!と心の中でガッツポーズを決める。
「えっと……お断りします?」
「なんで、この流れで断る?」
「だって何だか……なんとなくです」
「それって意識されてると捉えても?」
「えっと、部屋はここでしたっけ?」
「それ君が用意した棺桶だわ、殺す気か」
もう興味を失ったように違う事をし始めるフレイヤの横顔を見つめながら、
「ま、いっか」と呟くと、フレイヤが
「今度近くに新しいケーキ屋さんが出来るらしいですよ」
と、どうでも良さそうに呟いた。
(これって……!)
数日後、まさにフレイヤの好きそうなケーキが並ぶ店頭で王太子自らケーキを選ぶ姿は少し騒ぎになったものの急いでフレイヤの部屋に行く。
「フレイヤ!今日が開店だったんだ、ケーキを……」
目の前には同じ箱を持った「ティリー」ことグレイモン令嬢と顔を緩ませたフレイヤ。
「あ、殿下……ご機嫌よう。私の用はすぐに済みますので」と空気を読むグレイモン令嬢だが違う。問題はその手に持つケーキなのだ。
(まるで、耳を垂らして落ち込む子犬のようね……何故かしら?)
ティリアが不思議そうにフレイヤを見ると、「はぁ」とため息を吐いてルディウスに近寄りケーキの箱を奪った。
「ルディ様のを先に受け取ったので、今日はこれが初めてですね」
「フレイヤ!やっぱり俺の事を……!」
「誤解」
「弄んだな!」
「帰って」
(いや、もうお似合いだわアンタら)
「私のいちばんはティリーだと決まっているので」
「……」
「えっ視線で殺されそうかな?」
「ルディ様、お菓子のセンスだけは最高」
「何で不敬で捕まんないの?」
「……?」
「……」
「フレイヤ、ディアゴにも食べさせてもいいかな?」
「やめてください」
(いや、なんでアンタは我が物顔で寛いでんの?)
結局、ケーキは三人で仲良く食べたもののドッと疲れたティリアであった。
「結局殿下って何にこだわってたの?」
「あの人はいつもおかしいから気にしないで!」
(うん、あんたもいつもおかしいからね)
「失礼な事考えた?」
「いや、全然」
「ふーん」
31
お気に入りに追加
1,072
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

私の完璧な婚約者
夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。
※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)


最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる