2 / 42
みんなの王太子殿下
しおりを挟む「王太子殿下!今日も素敵だわぁ!」
「はぁ~殿下に選ばれたい!」
「殿下~っ!ごぎげんよう~っ」
「ご令嬢方、ご機嫌よう。今日も皆麗しいね」
「「「キャーー!!!」」」
華やかなパーティー会場をさらにその容姿で飾り付けたのは王太子、ルディウス・セレイネだった。
「ルディウス殿下、今日も素敵ねぇ~!!」
「そうだね、ねぇこれって全部食べてもいいのかしら?」
「ちょっと……はぁ、良いんじゃない?」
皆の視線の先の王太子よりも目の前のピンク色のマカロンをジッと見つめる彼女は絶世の美女であるが滅多にパーティーには顔を出さない。
アメノーズ公爵家の愛娘フレイヤ・アメノーズは恵まれた容姿を存分に無駄遣いしている。
「あ、アメノーズのご令嬢っ。僕はニックレイと申します!良ければ……少しお話を……」
「あ、どうぞ。ちゃんと聞いておりますので」
(フレイヤ、きっと二人でという意味よ)
彼女の親友であるティリア・グレイモン侯爵令嬢はフレイヤの相変わらず鈍感で、斜め上をいく返答に呆れる顔を隠す為に扇子を開いた。
ニコリと微笑んだ顔の美しさと、彼女から出る言葉は何ともミスマッチでその所作は完璧な筈なのに、絶妙な無礼さが彼女のガードの堅さとなっていてとても不思議である。
掴みどころのないとはまさに彼女の事をいうのだろう。
「あの、できれば二人きりで……」
「……すみません、今は少し忙しくって」
「え……」
(マカロン食べるからと言う意味かな?)
(マカロン食べるから?)
お皿の上に見事芸術的なほど美しく盛られたマカロンを隠す事なく、美しい顔を申し訳無さそうにシュンとさせるフレイヤは確かに可愛い。
可愛いのだが、残念だ。
「……よければ、お詫びに差し上げますわ」
(いや、それ元々このパーティーのお菓子でしょうが)
ティリアの心の叫びなどつゆ知らずそう言ってマカロンを芸術的に積み上げた皿をニックレイに差し出すフレイヤ。
「えっと、あの……遠慮せずにご令嬢がお召し上がり下さい」
「まぁ……貴方とても良い人ですね!ありがとうございます」
「そ、そんなっ……!あの、マカロンがお好きなのですね!」
(いや、アンタも照れるんかい)
「ええ……好きです」
そう言ってマカロンを眺めてから顔を上げて言ったフレイヤの笑顔に卒倒したのは目の前のニックレイだけではなかった。
フレイヤの「好きです」はあくまでマカロンに向けられたものであったが、周囲の者達は勝手に連想、妄想して卒倒したのだ。
「見事、排除したわねフレイヤ」
「何が?ねぇティリー、さっきから嫌な予感がするのよ……場所を変え……」
フレイヤの嫌な予感とはこの事なのだろうか?
ふわりと美しいご尊顔を微笑ませて、歩み寄ってくる王太子。
女性に優しく、常に囲まれているが浮いた話は聞かない……誰のものにもならない誰にでも優しい男。
それがルディウス・セレイネ王太子殿下である。
そして、軽薄な男はフレイヤの苦手なタイプであくまで軽薄そうなだけではあるが既に表情の抜け落ちているフレイヤを見ると「無理だ」と悟った。
「……美しいご令嬢、名前を聞いても?」
王太子であり、容姿にも恵まれた彼に声をかけられて嬉しくない女など存在するのだろうか?
国中の女性にはモテているし、男性達からの人望も厚い。
そして、小細工無しの真っ直ぐな褒め言葉と熱い視線。
流石のフレイヤでも彼を袖にする事など出来ないだろ……
「申し訳ありません、先程落としてしまって」
((んな訳あるかぁーーー!!!))
「あはは、面白い冗談だね。俺の事を知ってる?」
「はい、多分王太子殿下ではないかと……」
「……うん、あたりだね」
(多分……)
「じゃあ、落とし物を探して参りますので……さようなら」
「え"っ!?無礼とか、王太子殿下だ、とか考えない?」
「ワーオウタイシサマダ、ステキ……では失礼致します」
((悪気のない棒読み……早く離れたそう!?))
「……決めた、俺は彼女を妻にする」
「お断りします」
「「「えーー!!」」」
呟くように宣言したルディウス殿下の言葉に食い気味に断りを入れたフレイヤの完璧なまでの満面の笑みに思わず皆が心の声を露見させた。
42
お気に入りに追加
1,072
あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる