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しおりを挟む忙しない日々が少し落ち着いた頃、市井の視察に出かけたエレノアに付き添う形で歩くシドはエレノアを気遣うように歩いている。
まだ平らなお腹に手を当てるエレノアは「大丈夫よ」と少し笑うがシドは「だめだ」と眉間に皺を寄せた。
「足元に気を付けて」
「そんなに心配するとかえって目立つわ、ふふっ」
国王が王位をシドに譲ると公言した後からかなり多忙が続いた二人は久々の二人での時間を過ごしている……と、言っても視察ではあるが。
平民の子供達が無償で通える学校を作ろうと言うシドとエレノアの提案に頷いた国王はこの件を二人に完璧に委ねた。
その為に市井で子供達が学びを得ている場所や、遊んでいる場所、どのような生活をしているかを視察する事にした。
アッシュとセレンのこともあって、教育や環境といったものがどれほど人格に影響を及ぼすのか、それを特に身に染みているエレノアとシドは子供達の未来の為に子供達の現在を整える事をしたいと踏み込んだ。
大人達の心のケアや、労働者の為のカウンセリングなど、さまざまな事案について改革しようと二人は奔走している。
「きっと皆、生き方を選べれば未来が変わる筈よ」
「そうだな。自分と向き合って、友と切磋琢磨する場所があれば視野も広がるだろう」
一先ずは金銭面での負担を考え、貴族と平民の学園を分けて建てたがそれもいつか変わるだろうと思っている。
エタンセルとオーリアもまた仲睦まじい様子を見れば、直ぐに世継ぎとなる子を産むだろう。
一足先にエレノアのお腹に宿った愛の結晶を慈しみながエレノアのお腹に手を添えるシドは今度こそきっと守ると誓って、手を握り直した。
エスコートとは違う、まるで平民の恋人達のように手を繋ぐ二人を貴族達は初め微妙な目で見たが今となっては流行にすらなりつつある。
変装など意味を成さず、皆に微笑ましく見守られた二人は新しく建った学校を見つめて「行こう」と顔を見合わせていた。
踏み出そうとした二人の前を横切った髪色に思わず足を止める。
エレノアにとっては苦しくて苦い、悲しい思い出。
シドにとってもまた良い思い出とは言えないものが過ぎって無意識に足を止めたままその髪色を目で追う二人は、あまりにも似すぎた二人の子供に目を見開いた。
「アッシュ!こっちよ!」
「待ってよセレン~!」
「授業が始まっちゃうわ、もう!しっかりしてよ」
「僕の方が成績いいんだからねっ!!」
「「!!」」
アッシュとセレン、互いをそう呼び合う子供達は髪と瞳の色、名前以外の顔立ちや背格好などは似て居ない。
平民の子のようで、出来たばかりのこの学園の生徒なのだろう。
競い合うように走って行ってしまった。
二人の記憶に残るあの、仄暗い瞳ではなくキラキラと輝く純粋な瞳に安堵して、シドはエレノアに思わず問いかけた。
「生まれ変わりって信じるか?」
「ふふ、恨まれてはいなかったみたいね」
「何かが違えば、救えたかもしれないとエレノアが言った時からずっと頭から離れなかった」
「ありがとう、ここまで来られたのはシドのおかげよ……」
「いや、エレノアが居たからだ」
"誰も傷つけなくても、ちゃんと生きられる世にしよう"
二人の願いがちゃんと届くような気がした。
「この子の為にも、良い国にする」
「ええ……シドならきっと良い王になるわ」
「おにーさん、おねーさん!」
「セレン……」
「これ、あげるっ!!」
彼女が手渡したスターチスの花の栞。
それを見てエレノアとシドは息を呑んだ。
花言葉は「永久不変、途絶えぬ記憶」
きっと意味など知らないだろう。幼いセレンの背を眺めながら波打つ心臓を押さえた。
シドもまた握る手を少し強めた。
「ありがとう……」
(まさかね……)
「セレン!ずるいよ!僕も!!!」
「これは?」
「カエデって言うんだよ!異国の珍しい葉なんだって」
「これには、何か意味があるのか?」
杞憂であって欲しい、そう願いながらシドがアッシュに尋ねると彼はまだあどけない顔でやけに大人びた笑みを浮かべた。
「大切な思い出、美しい変化、だよ」
「!」
「大丈夫だよ、今度はきっと」
そう言って「待ってよセレン~」と駆けて行った彼の背を呆然と見送る二人は言葉の意味を遅れて理解するとほっと息を吐いた。
振り返ったアッシュが「お幸せに」そう叫んで、不服そうなセレンの手を握った。
「アッシュのばか」
「僕、ちゃんとセレンが好きだよ」
「許さないんだから」
「今度は初めからずっと君が好きだ」
「嘘つき」
「ほんとだよ」
「エレノアに花を渡した!」
「うん、幸せになってねって言ったんだ」
「仕方ないわね。今日だけ許してあげる」
あるべき形になったんだよって笑ったアッシュがあの頃の大人のアッシュとは違って心強く見えたセレンは熱くなった頬を隠す為に先に歩いた。
「……お似合いね、あの二人」
「きっと僕たちもお似合いだよ」
(きっと憧れでもあったんだよな……)
エレノアとシドはもう見えなくなった二人の方を見たまま、改めて幸せを誓った。
「こうなればきっと、私達もまた来世は一緒だな」
「きっと、ずっと一緒ね」
ーーfinーー
長い間、ご愛読ありがとうございました。
各カップルサイドの番外編では幸せなエピソードを書こうと思っております。
読者様の温かさに支えられながら無事、完結できました。
ありがとうございます。
今後共、宜しくお願い致します。 abang
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完結お疲れ様でしたm(__)m。最後まで楽しみに読ませて頂きました。
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最後まで楽しみにしていました。ありがとうございました。