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しおりを挟むリーテンを遥かに凌ぐ豊かさと、華やかさ、そしてなによりも子供の頃には気付かなかった貴族を含めた国民達の良い雰囲気に驚かされた。
広さと人口だけで言えばリーテンの方が大きい国だといえるが、中身は全くの逆で、こんな国があるのか?と全員役者であることを疑ってしまうくらいだ。
マスクの下の猿轡の所為でその感動を声に出す事は出来ないし、
自由に行ってみたい場所もあるが、服の下で拘束されている今それは叶わない。
最低限の行動以外を全て管理される今、僕はまるで罪人のような気分だ。
エレノアはこんな国で育ったのかと思うと胸がいっぱいになった。アイリーンから何のパーティーに招待されたかは聞かされていなかったが、会場に入る前にはもう気付いてしまった。
これは、エレノアと王太子の披露宴なんだと。
アイリーンは何を考えているのだろう?
そう思いながらも、つい目で追うエレノアの姿。
王太子の視線、仕草、エスコート、彼のどこを見ても分かる。
エレノアをとても大切にしていること。
そうすると、心でも読めるのだろうか?
アイリーンは意地悪く僕に問いかけてくる。
「貴方はどうだった?」
「!」
僕は……どうだった?
身体の弱いセレンに付き添わないといけなかったから、エレノアとあのように仲睦まじくパーティーに出たことはあまりなかった。
それどころかエレノアを信じてあげることもしなかった。
守るどころか守られてばかりで、大切にするどころかしてもらってばかりだった。
それに結局、セレンは嘘つきだった……
(僕は、ひどい夫だった……)
僕に気付いた素ぶりもないエレノアは、段々と近づいて来て、アイリーンに嬉しそうに呼びかける。
エレノアは昔のように生き生きとしていて僕には向けた事の無いような愛おしくて仕方がないような目で王太子を見る。
こんな惨めな姿を知られたくない、
どうか僕に気付かないで
そう願いながらただ愛おしくて懐かしいエレノアだけをずっと見つめていた。
「エレノア、今、幸せ?」
突然そう尋ねたアイリーンに僕は耳を塞ぎたくなった。
他の男との幸せなど聞きたくも見たくもない。けれど……
ゆっくりと瞬きしたエレノアは、噛み締めるように答えた。
(ねぇ、エレノア。僕は此処にいるんだ。君に謝りたいんだ)
「とても、とても幸せ」
心臓を射抜かれたように息を吸って、止めた王太子の目を見て気付く、僕とは全然違うこと。他の誰も写ることないエレノアの為だけの瞳なんだ。
エレノアの蕩けそうな、心の底から幸せだ、愛してると伝わるような笑顔に苦しくなる。
「俺も、幸せ」
泣きそうな、嬉しそうな、言葉では言い表せられない表情の王太子は彼女への愛おしさを隠すつもりもない。
気分が悪くなって立っていられなくなった、会場の歓声が耳にやけに響いて煩い。
失ったのだと実感して、その場に蹲った。
「エレノア……」
(お願いだから、エレノアだけは返してよ)
「立ちなさい、行くわよ」
「も、もう帰るの?」
「貴方を連れてウロウロ出来ないからね」
「でもっ」
「ねぇ、気付いてる?」
「へ、」
「貴方、全部失ったってこと」
唐突に理解する、没落した両親はどうしているのか?
金も、名誉も、地位も失い
セレンも、エレノアも失った。
拾われた先でも夫として無能だと立場を失い、
そのどれも取り戻せないことを理解した。
部屋に戻った後、頭が痛くて吐き気のする僕にアイリーンはとびきり妖艶に「お疲れ様」と言って期待させたあと、
ひどい現実を突きつけた。
「貴方はこの帰りに、私の経営する貴族専用の男娼館に送るわ」
「え……」
「しっかりと仕事をなさいね」
「どうして!君は僕を買った筈だろ!」
「その価値もないのよ、もう」
幸せそうな二人、
これから訪れる最悪な毎日
目の前がチカチカして、真っ暗になった。
後悔しても、嫉妬でおかしくなりそうでも
エレノア、君はもう僕を見ないんだね……
(もう、何だっていい)
諦める気持ちって、エレノアもこんなのだったのかな
後悔だけが僕の頭を支配した。
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