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しおりを挟む連行されるセレンを皆驚いたように見つめる中、アッシュの両親はエレノアへと歩み寄った。
「まだ何か?」
「殿下、私どもはエレノアに謝罪せねばなりません」
エレノアの代わりに返事をしたのはシドで、にこりと人の良い笑みを浮かべながらもバッサリとその願いを断ち切る。
「そうか、それなら必要ない」
「何故貴方が……!」
エレノアはシドの袖を少しだけ引いて大丈夫だと合図すると、二人に向き合って言い放った。
「私がそれを望んでないからです」
「エレノア……っ」
「エレノア嬢とお呼び下さい。もう他人ですので」
「しかし、それでは気が収まらない」
「もう二度と、関わらない事にしましょう。互いの為に」
アッシュの父にそう提案したエレノアに、アッシュの母は苦虫を噛み潰したような表情をした。
それもそうだろう、エレノアが手掛けた事業は一つだけじゃない。ブランド化されたものもあるし、そのおかげでお金の無かったクレイブン侯爵家は名ばかりの名家から脱する事が出来たのだから。
「ほんとに、いいのかエレノア」
「ええ、シド。けれど……そういえば一つだけ……」
エレノアは息絶え絶えに必死に謝罪するセレンの母を思い出した。どうしてもあの姿が頭から離れない。
どうしても心残りで、こんな無茶をたった一人の思いつきで通すことが可能なのかは分からなかったが、つい口から出てしまった。
「セレンのお母様を援助する権利を下さい」
「「は?」」
驚いた、と言うより意味がわからないという風なアッシュの両親の事など気にも止めず淡々と説明するエレノア。
「彼女には国を捨てて貰う事になりますが、此方で新しい身分を取得し、私が責任を持って援助します」
「ふ、エレノアは優しいね」
「シドは私を買い被りすぎよ」
「そうでもないと思うけど」
シドがあまりに優しく微笑むものだから、ついエレノアは照れ臭くなって、照れ隠しに口を尖らせてしまった。
「ただ……私と被ったの。ずっと理解されず、馬鹿にされながら無力な自分を責めていたのかもしれないと」
目の前で虚しく、守りたい人が変わり果ててしまう現実と自分の力不足をただ実感する毎日。
愛していた人が、憎い人になるなんて思いもしなかっただろう。
「エレノア……」
「そう言う事なら喜んで……あっ」
「お前は話すなと言っただろう!」
(そうよねアッシュのお母様はこう言う人よね)
「それと事業は引き上げます、二度と関わらないで下さい」
「エレノア嬢それは……っ!」
エレノアは二人に背を向けた、その背に手を添えてシドがエスコートする仕草を見せると慌ててクレイブン夫妻はエレノアを引き止めようとするが、シドの鋭い視線によって静まる。
「私達は挨拶がありますので、失礼」
「ありがとう……」
「あたりまえだよ」
「あ……」
「ああ、あれはアッシュとアイリーン嬢だね」
庭園の目立たない場所でアイリーンの前に跪くアッシュ。
冷ややかな表情のアイリーンはアッシュに扇子を向けて低い声で言う。
「勝手に喋らないで頂戴」
「でも……!エレノアが居たんだ」
「そう、貴方の価値はエレノアさんが作ったの」
「じゃあ、やっぱ僕には必要なんだ……!」
「貴方にはね、でもエレノアさんには要らない」
「え"っ」
「エレノアさんの夫だった貴方を買ったのよ」
「だから何が言いたいんだよ!!」
「意味は無いわ、ただあの人が好きなだけよ」
そう言ってアッシュを足蹴にすると、眉を顰めてアッシュを見下ろした。
「ほんとにがっかりだわアッシュ」
「は?」
「貴方ほんと、どうやってエレノアさんに取り入ったの?」
「ぼ、僕は……!」
「僕は、から話し始めるばかりねつまらないわ」
はたまた足蹴にされるアッシュを目撃した二人は微妙な表情でそっと通り過ぎたものの、あまりの惨めさにエレノアは「ふ」と少し離れた所で吹き出してしまった。
「あれは、ひどいな」
「アッシュがでしょ?」
「ああ……」
「噂より素敵な人だったわね、アイリーン嬢」
「……そうかもね」
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