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しおりを挟む今度の交流会はラルジュ側の提案で、近隣各国を招待した大規模なものになった。
そして、開催国の王太子でありその美貌で誰よりも目立っているのがシド・ラルジュだった。
そしてその隣に並ぶのは、エレノア・ヴァロア侯爵令嬢だ。
この国にある公爵家に女性がいない為に、幼い頃よりずっと王太子妃になるだろうと噂されていたのがエレノアだったが、その予想とは反してパッとしない子息と結婚して国を出たものだから、
それならば!と、令嬢達は王太子争奪戦を始めた。
が、やはりそれこそパッとしないのだ。
国が大きい割に争いごとも少なく、貴族同士も王族も上手く仲を保っているラルジュでは、シドを巡って競争するうちにやはり彼の隣には「あの人」が似合うよね。
と、言う雰囲気になっていたところだった。
国王夫妻も適齢期の王太子に気を揉んでいたが、エレノアの帰国の知らせと一連の流れを聞いて正直、ほっとしていた。
だからと言ってリーテン国で身内同然のエレノアが受けた扱いを軽視する訳ではない。
交流会を盛大にしたのは決してリーテン国と手を握り合うのではなくあくまで近隣国との親交であるとアピールする意があった。
「エレノア、段差があるよ」
「ありがとう」
「緊張してる?」
「こんな大切な場所に私……」
「言ったろ?私はエレノアがいいんだ」
「あのね、シド……」
「ーっ!」
口元に手を添えたエレノアに耳を貸すと、エレノアは控えめな声だったけれど確かにシドに囁いた。
「私も、シドが好き」
「エレノアっ、今……」
「うん、大好き」
「それは私をちゃんと男として見てくれてるってこと?」
こくりと真っ赤なくせにまるで決戦でもするかのような表情で頷いたエレノアに我慢できずに抱擁する。
「「あ」」
二人とも我に返って照れ笑いして、仕切り直すと堂々たる所作で会場に入場した。
「あら、お二人とも仲が良いのですね」
「アイリーンっ、二人はただの幼馴染だよ!」
「何故あなたがムキになるの、アッシュ?」
「そ、それは……っ」
意図せず鉢合わせたのはアイリーンとアッシュだった。
エレノアは特に表情を変える事はなく伏し目がちに微笑んでいるだけだが、アッシュは一心にエレノアを見つめている。
「ただの幼馴染……か」
「そうね、関係が変わった事は言う必要ないものね」
意味深に目を合わせたシドとエレノアにアッシュはギョッとしたように「どう言う意味なの、エレノア?」と迫るがそれを制止したのは以外にもアイリーンだった。
「アッシュ、ほら見て」
「アイリーン嬢、僕は今……」
「貴方はもう私のモノで、無様な幼馴染もこのエレノア嬢もただの知り合いでしょう」
「お願いだから黙っ……」
扇子でアッシュの顎を持ち上げて見上げるその表情は異様で、途端に顔を青くするアッシュは段々と勢いを失った。
「後で楽しみね、アッシュ」
「ひっ……僕たちは失礼する!!」
一体何だったんだというように顔を見合わせた。
暫くの挨拶回りのあと、またもや予想外の人が二人に声をかける。
「あの……エレノア嬢、少し話せませんか?」
「貴女は……っ」
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