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少し酒に酔ったのか、それとも久々の夜会の雰囲気に酔ったのかエレノアはバルコニーに出て風に当たっていた。


夜会も終盤、ちらほらと抜ける者や帰る者が出始めてピークの賑やかさから少しだけ落ち着いた雰囲気へと変わった。


「エレノア、冷えるよ」

「シド……今日ね、とても楽しい」

「皆、久々に君に会えて喜んでたね」

「私も嬉しかったの……ありがとう」


振り返りざまにさぁっと風がエレノアの髪をふわりと浮かせて、舞った庭園の花弁が舞い上がって来て背景となる。


心底幸せそうな表情でエレノアが微笑む姿があまりにも綺麗で美しすぎてシドは思わず見惚れて、そのあとエレノアの肩に上着をかけて抱きしめた。



「シド……っ」

「冷えるよ、エレノア」

「なんだか今日は知らない人みたい」

「嫌かな?」

「ううん……どきどきする」



腕の中で自らの上着に包まれて自分を見上げるエレノアに必死に理性を繋ぎ止めようと頭の中で葛藤する。



「私も同じだよ」


きっとエレノアにも聞こえているだろう心臓の音は早くて、けれどお互いの少し早い心音が心地良い。



穏やかで、熱いーー


そんな気持ちを恋と言うのなら、正しくこれは恋だ。


きっとエレノアも今同じように感じている。


けれどもエレノアはまだ離縁したばかり、それは配慮すべき点だ。心の傷は外側の傷よりもずっと治りにくいから。



「エレノア、ゆっくりでいいよ」

「ん……?」

「ゆっくりでいいから、私を好きになって」

「ーっ、」

「忘れさせるから」

「シドは、私が好きなの……?」

不安そうな表情にも見えた。

鈍感でもある上に、ひどい夫婦生活を送っていたエレノアはきっと自分に向けられる好意を計りかねているのだろう。



一つ嬉しい事と言えば、アッシュの時にはしなかった表情。


「失うのが怖い」そう書いてある表情をしていることだ。


エレノアにとってシドが特別だという事だった。


それに、燃えるような熱の籠った瞳。


もう、それと恋をどうやって区別するのだろう。





「好きだよ、ずっと」


エレノアが目を丸くするのさえ可愛い。




「子供の頃からずっと、エレノアだけを好きだ」


「嘘……、」


「ほんとだよ」


「でもずっとそんな風には……」


「臆病だったんだ、モタモタしてる間に掻っ攫われた」


私の表情を無意識に真似ているのか、同じように切ない表情をするエレノアの頭を撫でる。



「だからもう、後悔したくないんだ」


けれど分かる、私達はもう大人だし同じ熱量の瞳の意味がちゃんと分かる。



それでもきっと、自分自身の気持ちにさえも鈍感だろうエレノアのペースで進んでいこう。



「愛してるよ、エレノア」


きっと君は、離縁したばかりなのに。だとかとうに愛など冷め切っていただろう夫にまで気を使う筈だし、


離縁して出戻った令嬢が、王太子であるシドと一緒になれる訳がない、迷惑がかかると遠慮もする筈だ。

だから安心して貰えるようにここ最近はずっと周囲の意見をすり合わせ、堅めてきた。


父と母ともよく話合った……と言ってもほぼ手放しで喜んでくれただけだが。念の為今後の話をしておいたのだ。


「でも、」


「この国はとっくの昔に古すぎる法律は変えてあるだろ」


「それでも私じゃシドに釣り合わないわ」


「ほんとうにそう思う?」


「……今日はたまたま皆が理解してくれただけよ」


「そっか、じゃあゆっくり私を愛してね」

「シド……、それじゃあ私まるで」

「逃がさない、だってほらエレノアも……」




無意識だったのか私のシャツを握ってしがみつくようなエレノアは赤面する。けれどもその手を離したりはしなかった。




「どうしようシド、私、離れたくない……」

「大丈夫、離してやらない」




カーテンに映る二人の影で、会場が盛り上がっているのを二人は知らない。





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