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しおりを挟む会場の視線が集まって、緊張で息が浅くなる。
やっぱり、出戻った癖に王太子のシドと入場するなんて良く無かったかもしれない。チラリとまだ遠い国王夫妻の表情を確認する。
「!」
「どうかした?エレノア」
「いいえ、何もないわ」
確かに王妃が片目をぱちりと瞬かせた。
そう。ウインクしたように見えたのだ。
(どう言う意味かしら)
表情からして、悪い意味ではないと安堵するものの真意が分からずにとりあえず周囲の状況を掴もうとさりげなく観察する。
そんな私にシドはそっと耳打ちした、
「エレノア、気を楽にして」
「けれど、」
「大丈夫だよ、私がいるだろ?」
「そうよね……」
何故か泣きそうになった、
クレイブンだった時はパーティーを楽しむ暇なんて無かった上に、政敵や女同士のやっかみ、貴族間のしがらみ、渦巻く全ての敵に一人で立ち向かわなければならなかった。
夫に大切にされない妻への嘲笑と、憐れみ、蔑みそういう視線に元夫は気付かない人だった。
だから余計にそう思うのかもしれない、昔は当たり前に隣にあったシドの優しさがやけに沁みて胸がいっぱいになる。
「私を見て、エレノア」
「?」
シドがそっと頬に手を添えてエレノアの頬にかかる髪をさらりと避けた。
さっきからやけにシドが知らない男の人に見えて落ち着かない。
シドの全てに安心するのに、シドの仕草や言葉の全部がエレノアの心をきゅっと縮ませてはまた早く動かせる。
自分の心臓じゃ無くなったみたいだと思いながら、ゆっくりシドを見ると蕩けるような笑顔で微笑んだシドにとうとう何とも言えない気持ちになって、どうしたらいいのかと縋るような表情になってしまった。
「エレノアの敵は居ないよ、私が守るからね」
「……っ」
「今度こそちゃんと守るから」
「シド、私大丈……」
「帰って来てくれて、ありがとう」
「ーっ」
ぐっと涙を堪えて、周りを確認するように顔を上げて驚くーー
笑う……と、言うよりはにんまり、いや、ニヤニヤとした貴族達がそこには居て「今のは俺の元にって意味かな?」なんて茶化しているではないか。
シドにも聞こえていたようで、決まりが悪そうに
「ま、そう言う意味でもあるかな」なんて呟いているシドの染まった頬、自分を見つめる優しい瞳、
流石に超が付くほど鈍感なエレノアにも分かる。
そして不思議と嫌じゃないし、困っていない自分に驚く。
「負担に思わな、い……」
シドは、エレノアの表情を見て硬直する。
未だかつて見たことのない表情をしていたからだ。
思わず上がる会場の歓声にエレノアの頬はさらに桃色に染まって、シドの袖を握った。
「負担じゃないみたい……、シド私って軽薄な人間なのかしら」
「え」
「どうしよう」
(もし、そうだとしても……嫌じゃないの)
「困ってないの……」
みるみるうちに顔を赤くしたシドはエレノアを抱きしめて、
「後で、話せる?」と大切なものを語るみたいに丁寧に囁いた。
「うん」
「じゃあ、また後で話そう」
手を差し伸べたシドの手を取った。
手首からびりびりと甘く痺れて、まるでこの時を待っていたかのように心臓の音が早く鳴り始める。
「とりあえず今は、楽しもう」
「うん……」
「皆、待ってるよ」
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