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しおりを挟む窓越しに見えるエレノアの表情からやっと陰が消えて、楽しそうに侍女と庭園で何かを話している姿をエタンセルの執務室の窓から見る。
初めて会った時からずっと好きだった、しっかりしているのに抜けている所のあるエレノアを守ってやるのがずっと私の役目だった。
ただの幼馴染という関係性でも、エレノアに親しい異性は私以外には居なかったしその特別な幼馴染の関係が壊れるのが怖くて、やっと告白する決心がついたときにはもうアッシュがエレノアに一目惚れしていた。
この程度の男じゃ釣り合わない。
なんて安心していたし、エレノアも相手にしていない様子だったのに「あまりに熱心で可愛く思えてきちゃって」なんて相談された時には頭を鈍器で殴られたような気分だった。
それでもエレノアの幸せが一番大切だから、兄と父以外の異性の知り合いは私しか居ない彼女の良き相談相手として支えてやりたかった。
私を好きにならないとしても、
相手が誰だとしても幸せになって欲しい。
そう願っていた。
彼女が国を出てからも、何となくリーテン国を見渡せるあの森にはよく馬を走らせていた。
エレノアは幸せだろうか?
どの辺にいるだろうか、
泣いていないだろうか?
そんな事を考えながら暇が出来ればあそこに足を運んでエレノアを想うのが癖になっていて、
別に私を好きになってくれなくてもいい、だから笑顔でいて欲しい、困った時は一番に力になりたい。
なんていつも通り、彼女の住むリーテン国を見ながら祈っていたそんなある日だった。
とうとう幻覚まで見えたのかと思った。
妻を、せめて婚約者をそろそろ立てなければならない私はずっとエレノアを忘れられない気がしてこんな気持ちではたとえ政略でも妻を娶ることを躊躇したあげく、結局そこに足が向いていた私の前に、何処にいても分かる。
私の最愛の人が居た。
(いやまさか、とうとう私もおかしくなったか)
何となくエレノアに似たその女性を放っておけなくて
とにかくこんな所に居ては危険だと声をかける。
(やっぱりどう見てもエレノアだ)
嬉しくて、泣きたいような気分になって、
それよりも何故こんな所で一人なのかが気になった。
時々様子見に通って、辺りの警備代わりに彼女の邸の周りをうろつく族や不審者は一掃した。
彼女から聞いたひどい話は腹立たしいものだが、人の良い所を探すエレノアだからちゃんと自分で区切りをつけさせてやりたいと思ってこっそり人を付けて見守っていた。
別荘で段々と顔色が明るくなるエレノアの姿にほっとしていた所、エレノアが国に戻ると聞いて安堵した。
これで目の届く所で守ってやれる。
誰にも、もう傷はつけさせない。
なのにエレノアの元夫は驚くほどの、理解不可能なほどの馬鹿で愚かだった。
だからちょっと、最後は強引になったが……
「シド」
エタンセルに呼ばれて巡らせていた思考を止める。
目線で窓を指されてつられて窓の外を見ると、
此方に手を振るエレノアが見えて胸を締め付けられる。
「シドなら良かったんだが」
「え?ごめん何だって?エタンセル」
「いや何も」
(誰にも気付かれていないと思ってるな、シド)
「エレノア、上がってくるって」
「何でわかったんだ?」
「待っててって口が動いたから」
エタンセルの眉間の皺を見てから、エレノアのさっきの笑顔を思い出す。
(エレノアが笑っていたら、それで良いか)
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