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実家から使いが来たのには驚いたが、意外だとは思わなかった。

かなり長い間家を空けている上にそろそろ、断れずに連れて来てしまったセレンの母が心配しているだろう。



「セレン、そろそろ国に帰ろ……っ」

「ん」



懸命に奉仕してくれているセレンの頭を撫でた。




手紙には父から戻ってくるように書かれていた、セレンの母から便りが来たこともエレノアが両親に離縁が成立したことを伝え、その上で僕に国に帰るように説得して欲しいという事もだった。



セレンを連れて来たことにひどく怒っている様子のその手紙を見てため息が出て、セレンはこんなにも不甲斐ない僕の為に頑張ってくれているのにと思った。




けれど、少しだけ不安になる。



もしエレノアがあの王太子と……そう考えると凄く嫌な気持ちになって気分が萎えた。




「セレン、やめよう」


「……なんで」


「僕たち、間違ってたんだ」


「今更よ、結婚が間違ってたのよ……」



泣きそうなセレンに胸が痛む、けれどもう分かった。




僕は王太子に嫉妬した、エレノアもずっとそうだったのかもしれないと。





けれど確かにもう、今更引き返せないのだ。


エレノアは怒って、とうとう僕は王太子の気迫に負けてサインをした。それに両親も怒っているし、セレンとの関係もとうとう幼馴染の範疇を越えたのだと、こうなって気付いた。



セレンに対しては申し訳なくて、可哀想で、可愛くて、大切で、そして少しだけ憎らしく感じる。



僕を庇って亡くなった彼女の父のことはずっと償っても償いきれないだろう。


けれど、エレノアを失ってから、この国に来てから、ときどき考える。




ーーあの時、セレンが僕を押さなかったら



(なんて、僕がセレンを傷つけた所為なのに)





セレンの気持ちには気付いていたのかもしれない、ずっと

だからこそセレンに嫌われたく無かったのもあったし、大切だから応えずに知らない顔で今まで通りいたかったのかもしれない。




エレノアを愛してるのに、セレンを手離せない。



そんな僕にずっと寄り添うセレンが突然、健気に見えて




けれどやっぱり彼女が居なければエレノアは……と憎たらしくも思えて、グッとセレンの頭を抑えたらセレンは喉から苦しそうに潰れたカエルみたいな声を出して抵抗した。




「ーうぐっ、ゔぇ」



「エレノア、ごめん」

(何で、エレノアの名前を……っ)





怒りにも似た感情と、苦しそうな表情のセレンがに何故昂ってセレンの口の中で質量が増したのが分かった。




(あの時、一緒に出かけなければっ)




(結婚をセレンに報告しなければっ)




(君が僕を押さなければっ)




(馬車がとおらなければ……)




(君を、大切に思わなければ……)





「僕たちは何処にでもいる大切な幼馴染でいられたのかな?」




「ぐっ、…げほっ、んゔ!」


(何を言ってるの、アッシュ。苦しいよ)





「エレノアとは別れなかったかな?」





「ねぇセレン、僕たちは間違ってるのかな?」





涙と鼻水で汚いセレンを不細工だとは思わなかった。

愛らしくて、可愛い、そして可哀想で、いい気味だと思った、

 


こんなのは八つ当たりだ。


なのにこの得体の知れない感情は止まる事を知らないようで、僕はその日初めてまるで魔物でも見るような怯えた瞳のセレンを手酷く抱いた。




身体も拭う事も、服を着せてやる事もしなかった。


そういう事はエレノアとの初めての夜でずっと想像していた事だったから。


それでも、セレンを憎めもせず、手離せもしない。


きっとずっと憧れのエレノアを好きなままでいる僕。


全部が嫌になった。




泣いて怒る筈のセレンが、目覚めて僕に


「アッシュ、偉いね。素敵だったわ」


なんて言うものだから違和感を覚えたけど、ほっとした。




「セレン、二人で帰ろう」

「うん!そうしましょう」

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