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あれからずっと言い争う二人。

結論の出ない話し合いにエレノアは疲弊していた。

アッシュは気付いていない様だが、荷造りは今の間にも着々と進んでいる。



「エレノア、話は終わったか?」



兄から声がかると、アッシュは扉を睨みつけて「誰が居るの?」とまるで嫉妬でもしているかのように低い声で責めた。


「お兄様よ、何度も会ったでしょう?」


不穏な空気を読み取ってくれたのか、兄は扉を開けて部屋に入ると私の背後から肩に手を置いて心配する素振りを見せた。



「疲れているんじゃないか?」

「お兄様こそ、任せきりでごめんなさい」

「いいや……話が滞っているのか?」



兄がアッシュを冷ややかに見下ろすと、アッシュがひゅっと空気を吸う音が聞こえた。



「お義兄様……!いや、別に滞りなんて……」

「妹は疲れているようだが?」

「その、僕は夫婦の仲を修正しようとっ」

「修正?おかしいな……」

「え?」




「私は離縁すると聞いているんだが?」




何か言いたげに口を開いたまま硬直したアッシュが可哀想にも思えないくらいには不毛な話し合いに疲れ果てていたエレノアはただ兄に感謝した。



「けど、僕は……離縁なんて」

「エレノアから、理由を聞いた事は本当に無いか?」

「え……」

「心あたりは本当に無いのかと聞いているんだが?」



アッシュはぐっと押し黙ると、消えてしまいそうなほど小さな声で「セレン」と呟いた。



「なら理由はそれだな」

「でも!お義兄様……」

「おっと、もう義兄じゃない」

「……エタンセルさん、僕はエレノアを愛しています」



真剣な眼差し、真っ直ぐに立ち上がったアッシュの姿を先に笑ったのはエレノアだった。


「ごめんなさい、可笑しくなってしまったの」

「エレノア……」

「アッシュ、セレンは貴方の何?」

「大切な幼馴染だよ」

「誰がどう見ても大切な、愛人よ」

「あ、愛人!?セレンにそんな言い方……!」

「それよ。本当に分からないのなら尚更、終わりましょう私達」



エレノアが兄のエスコートで席を立つと、あとを追いかけようと踏み出したアッシュを兄のエタンセルが牽制した。


「妹は主張を変えるつもりは無い」

「エタンセルさん!僕はエレノアの夫です!」

「……サインしてねアッシュ」

「終わらせるつもりは無いから!!」


アッシュに返事はせずに、エレノアは騎士に申し訳なさそうに頼んだ。


「お客様をお見送りしてくれますか?」


「エレノア!僕を追い出すのか!?」


「貴方は大切な人セレンを大切になさい」


「また来るから!!」


「どうぞご勝手に」



アッシュは数日後、再びこの別荘を訪ねるがそこにはもうエレノアの姿は無かった。


それどころか綺麗に誰も居なくなった別荘には「売却」そう書かれていた。


「本当に、国に帰ったのか……?」


執事から連絡が取れない事、両親からエレノアが国に帰ったと連絡があったことを聞いたアッシュは執務机の上で頭を抱えた。


「アッシュ……私も悲しいわ、姉のように慕っていたのに」

「セレン……来てたのか」

「二人で乗り越えましょう……あの時みたいに」


そう囁いてアッシュの頭を抱きしめたセレンの醜悪な笑顔を見た執事は自分の犯した過ちに初めて気付いた。


そして、エレノアがもう自分達を見放したことを悟った。


「侯爵家はもう、終わる……」







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