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ようやく、ここまで来てしまった。

クレイブン侯爵家に一人で来たエレノアに、出迎えてくれた義両親は驚いた表情をしたものの、予想通り笑顔で受け入れてくれた。

「よく来たね、エレノア」

「会えて嬉しいわ!いつまで居られるの?」


泊まっていくかと尋ねる義母に、ゆっくりと首を振ったエレノアは「お話があって来ました」と切り出した。


「そうなの……それならお茶でもしながらにしましょ?」

「そうだな」


元よりお茶の準備は整っていたようで、今から話すことに似合わないほど華やかな歓迎ムードのテーブルを神妙な顔つきの三人が囲った。


「息子と……何かあったのかな?」

「はい。実はー」

アッシュと結婚し、暫くしてから徐々にセレンが家に入り込んで来たこと。

アッシュが彼女専用の客間までも作り、しょっちゅう訪ねてくる上に、セレンに呼ばれればどんなに大切な仕事も、夫婦の行事もすっぽかして彼女を優先してしまうこと。

不安や不満を口にすれば「冷たい女」だと言われること。

三年間の全てを二人に話した。


「私はもう、アッシュとは居られません」

「そんな……っ」

「アッシュは私が何とかする。考え直してはくれないか?」

「それは、きっと無理です」


二人の悲壮感漂う表情に、申し訳なくなった。

けれどもこれは、申し訳ないからやっぱり我慢しますなんて事にはならないし、これ以上先延ばしにしても意味がないこと。

二人の目をじっと見つめて「すみません」と再度謝罪すると、義母はほろりと一筋涙を流してから義父を見て、意を決したように言った。



「あなた……やはり話しておくべきよ」

「だが……」

「大丈夫、私が話します」


そうして初めて知ったのはセレンの父がアッシュを庇って馬車の事故で亡くなったこと。


それに、セレンの母は身体が弱く彼女では家を支えきれなくて、恩義からクレイブン侯爵家が力を貸していること。

「アッシュはずっと手紙を送っていたでしょ?」

「……そうですね、沢山下さいました」

「来ない時期が無かった?」

「ありました……まさかその間に?」

「ええ……」


婚前、アッシュから手紙が途絶えた時期、その間にセレンの父はアッシュの身代わりに事故に遭い亡くなり、彼がセレンを一生守ると約束をしたこと。


そして、互いが初恋の相手でセレンは今もでもずっとアッシュを想っているかもしれないこと。


幼馴染として守ると言う言葉の筈が、もしかしたらその全てが重なってアッシュはセレンを拒絶できないのかもしれないと義母は涙ながらに話し、義夫はそのまま頭を下げた。


「どうか、アッシュを罪悪感から救ってあげて欲しいの」

「エレノア、君となら息子は幸せになれると思う……」


アッシュを罪悪感から救って欲しいと言う二人にエレノアはやはり「私には、無理です」と謝罪するしか無かった。


不貞ではなかったとはいえ、彼は婚前から守るべき女性が居た。


(それに、初恋同士だったなんて……)


「やっぱり彼といるべきは私ではありません」

「エレノア、息子はちゃんと説得する」

「考え直してくれない?」

「申し訳ありません。離縁はします」




結局離縁の件は「少し考えさせて欲しい」と言われる始末で、エレノアはとりあえず帰ることにした。


けれど、彼らの関係がやはり特別なものだと分かると案外、もう彼への未練は無いと自覚出来たし、

義両親にも離縁の意思をはっきりと伝えられた。



(もう、国に帰ってもいいわよね……)



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