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隠した色は真っ黒
しおりを挟む私の知るリエラは天真爛漫で、少し臆病で、清純な普通の女の子だと思う。
もう意識をどこかにやってしまわないのが精一杯で、私が感じている違和感が正解なのかも分からない。
兄様達とは違う、どこかうっとりしたような表情を浮かべるリエラはソルが部屋に戻るまでに私を助けると優しく囁いたがその目はまるでいつもの彼女とは違う。
「フリア、辛そう……」
「ふ、ぁ……リエラっ」
「あぁ、可愛い……っ!」
もう立ち上がる事もままならないフリアの頭を胸に押し付けて恍惚とするリエラにゾクリと背中に悪寒が走る。
きっともう本人には分かっているのだろう、私達が唯一勝てないのはリエラにだけだ。
逆を言えば、聖女が居なくなるとディザスターへの抑止力は皆無。特に国家や王家に害を及ぼす程の事を起こさなければ国は聖女を失う選択をしないと言うこと。
ディザスターが存在する限り、リエラも生かされるのだ。
「それちゃんと解除してあげるからね?」
私に深く口づけたリエラは熱っぽい瞳でまるでうわ言のように愛の言葉を囁き続ける。
「好きよ、貴方のその自由さも無邪気な悪も、案外優しい所も、まっすぐで鈍感な所も……」
「リエ……っん!」
「助けてくれたでしょ?本当は一度じゃない、私に偏見を持たずに接してくれたのはフリアが初めてだった」
啄むように口付けを繰り返しながら快感に震える私の体を抱きしめて何度も、何度も甘えるように告白するリエラ。
「美しくて、気高くて、綺麗で、邪悪で、可愛い……」
「好き、好き、好き……」
短く呼吸を繰り返しながらリエラを睨むとリエラはゾクリと身震いさせて「きゃあ」と歓声を上げた。
「そして、強い。きっと成長すれば貴女のお兄様達よりも……私以外には、あはっ!」
「リエラ……っ今日おかしいわ」
「私ずっと皆に隠してるの、この衝動。フリアなら理解してくれるよね?」
「衝動?」
「屈服させたいの、ゾクゾクするの」
「あなた……どうかしてるわ」
「そう?きっと理解してくれる筈……」
唐突に腹部をなぞって何かを指で描き始めるリエラはこちらの話など聞くつもりも無いのか、何やら聖力を込めた人差し指で腹部をなぞっている。
「リエラ……何を?」
「直接描かないといけないのが不便なの、私が編み出したの……」
いつの間にか外れている兄達の魔道具に気付いて、なんとか身をリエラから離したものの、リエラの言葉に絶望したーー。
「それは隷紋、淫紋でもあるかな?フリアにプレゼント!」
「は……?何で、私に?」
「好きだからだよ、踏みつけて屈服させたいの」
(てっきり、兄様達に危険が迫っているのだと思っていた。何で私なの?どういう未来になる予定だったっけ?)
私に飽きれば、兄達に矛先が向くかもしれない。
私が存在しなかった理由が兄達の監禁では無く、リエラだったなら?
(ここで、終わる訳にはいかない……)
「分かったわ、けど兄様達には干渉しないで」
「妬けるわ、でも素直で助かったわ」
リエラの瞳が輝くと同時に身体が見えない何かに捕らわれたように動かなくなる。
「膝をついて服をまくって咥えて、お腹の隷紋を見せて?」
身体がリエラの言葉に従ってしまう。
「両手は頭の後ろね?」
嬉しそうなリエラの表情はお茶をしている時と何ら変わりはないのに、どこか不気味だと思った。
屈辱的な格好をうっとりと見つめられ、リエラの瞳と同じ色の紋が自分の腹部で光っているのが分かる。
悔しいのと恥ずかしいのとで視界が回る。
手を前で組んで祈るような仕草で上品に笑うリエラは聖女そのものだが、その後の猟奇的な目と舌舐めずりには鳥肌が立った。
「怪しまれないように、いつも通りにしよう?」
「わかったわ」
「でも、お兄様方より私を優先するのよ?」
「……わかったわ」
「じゃあ、今日はソルに怪しまれないようにここまでにしましょう?あ……それは他言しようとすると淫紋が発動するから気を付けてね」
やっと解放されたものの、動く気にはなれなかった。
リエラが呼んだのだろう慌てて戻ったソルが私を抱きしめると何故かほっとして涙がこぼれた。
「フリア、辛かったな」
「ううん、平気」
「聖女が近くに居てよかったな」
「……そうだね」
早く帰って兄様達に会いたくて、けどソルが温かくて、そのまま動けずだるい瞼を閉じたーー。
(あんな一方的な愛は要らない。兄様、早く会いたいよ)
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