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好きな人は重症だから
しおりを挟む「フリアと兄達が?」
「ええ、そういう噂が流れております」
フリアと兄達の禁断の恋、美しい禁忌など面白可笑しく語られている噂話は長らく彼女に片想いをしている俺に取ってはかなり残酷だ。
強ちありえないことも無い。そう思えるほどフリアの二人の兄達の異常な愛情は目の前で見てきたしディザスターの過去の事もあってかなり重い愛情とそれを当たり前とする教育を受けてきたのだろう事も理解してる。
それでもやはり聞こえてしまうと落ち込むもので、好きな人の初めては全て欲しいと願ってしまうのが男というものだ。それも幼い頃から片想いしていてずっと側にいる子なら尚更夢見るはず。
(まさか、最大のライバルが兄だなんて思わないだろう。それに二人も居る)
「とびきり狂った奴らがな」
「殿下?」
「あ……すまない。独り言だ」
最後は思わず声に出してしまっていたらしい従者に聞き返されて慌てて訂正するが、内心はあの狂った双子の事で一杯だった。
王家の中で国王と王太子と一部の腹心しか知らないディザスターの過去は壮絶なものだった。
彼等の生みの母親は、三人をとても愛していたが夫は愛して居なかった。
それもそうだ、その魔力の質と強さそして何より美しさに惚れ込まれて半ば無理矢理婚約させられたのだから。
そんな事を知らない周囲は仲睦まじい美男美女夫婦だと持て囃したが、実際は夫に怯えて支配されて暮らす妻と、狂気なまでに妻を愛する公爵の恐怖による主従関係で結ばれた仮面夫婦だった。
精神的な疲労と、公爵の無理な行為によってとうとう身体を壊してすぐに亡くなった公爵夫人。
それからの公爵は、元々跡取りとして大切にしていたファルズフだけじゃ無くベリアルにも仕事を教え二人の留守の間にはまだ幼いフリアを妻の代わりと言わんばかりに可愛がったり暴力を振るった。
とある時、そんな違和感に気付いた兄達は出かけたフリをして隠れて父親を監視していた。
フリアに手を上げた挙げ句、脅して母の代わりに襲おうとした。
「兄達を殺してもいいんだぞ」確かに父親はフリアにそう言って彼女のドレスに手をかけたのだという。
けれどまだ幼い兄達では到底敵わない程の力が邸を覆った。
泣き叫び、抵抗しその時開花した破壊の力の暴走で父親を殺めたのはフリアの方だった。
防御するのが精一杯だった二人は一瞬何が起きたのか分からなかった。
見るも無惨に飛び散った父の破片を呆然と見るフリアはもう何もかも全てが抜け落ちたようで、今にも消えそうだった。
「わ、たしが殺した……父親だったのに……」
元々ディザスターは血縁にこだわる家系だし、まだ数歳の女の子だ。
いくら憎い上に事故とはいえ血の繋がった父親を殺めてしまったのだ。
精神的なショックは計り知れないだろう。
泣きじゃくった末に、呆然と座り込んだフリアをただ動けずに見ていたが、
二人の兄達は、ハッと我に返ると父親だった肉の破片を踏み潰している事も気にせずにフリアの方へと歩いて行ったと言う。
「「フリア、怖かったね」」
「兄さん……私、仕事じゃないのに、父なのに……っ」
事情聴取を受けた使用人の話を聞いたのは、国王夫妻だけだったと言う。
不憫なフリアの為にこの事は、事故と処理して詳細を伏せた。
まだ幼いファルズフが家長を継ぐ形で収まった。
「フリア、大丈夫だよ」
「泣くなコレは元々ただの老害だ」
「「強くなったなぁ、フリア」」
「ファルズフにいさっ、ベリアルにいさんっ」
「大丈夫だよ、ほーら見てな?」
「フリアを泣かせるモノは」
「「兄さん達が消してやろうなぁ」」
そう言って魔力を使うと、笑顔で父親だったモノを跡形もなく燃やしたと言う。
三人は、笑顔で涙を流していた。
「陛下、父が妹を犯そうとして」
「俺たちには暴力を奮いました」
そして、「三人の魔力が暴走して」父は事故によって跡形もなく消えてしまいました。
そう言った三人の小さな手が堅く握られているのを見て、国王はもう何も言えなかったと言う。
けれど、使用人は肉片の散る悪臭立ち込める中
小鳥のようにキスを交わして、
兄達の赤々しい炎に安心したように笑ったフリアと
子供とは思えない三人の会話にゾクリとしたが、フリアを想って口を閉ざした。
「頑張ったねぇ」
「これからはやっと三人だよ」
「でも……」
「大丈夫、」
「「どの道消すつもりだったから」」
「ねぇベリアル」
「おー兄さん」
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