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聖女から逃げたい
しおりを挟む「あ、あのっ!……先程はありがとうございましたっ」
そう言って鈴のような綺麗な声で言ったのは聖女だった。
「「……」」
「私?」
「「そうでしょ」」
兄達は興味が無いようなのが幸い、フリアは恐る恐るゆっくりと振り返るとすぐに後悔した。
キラキラとした目でフリアを見つめる聖女、
(あれ……?何て名前だったかな……?)
「リエラ・イベリスと申しますっ、まだ苗字は頂いたばかりで慣れませんのでリエラと呼んで下さい!」
「あ、いえ……気にしないで頂戴リエラ」
「なッ名前を呼んで下さったわっっ!!」
「あはは、では私もフリアと」
(なんか懐かれてる……!マズイわ)
「……フリア様、きゃーっ!!!」
「!?」
頬を染め両手で顔を覆うリエラは可愛いのだが、何かが違う。
予想外の展開と、シナリオのどこを探しても出てこないだろうこの状況。
何より、フリアと同じように固まってしまった兄達と凄く驚いた様子のソルの表情。
思っていた聖女像よりも遥かに年相応の女の子な反応と、きゃっきゃとフリアを褒めちぎるリエラのえらく高揚した様子は、リエラと面識のあるソルでさえもあまりのギャップに驚く程だった。
「君はそんなに大きな声が出たのか……」
「あっ!私ったら……はしたないわ」
「いいのよ……に、兄さん。少し話して行ってもいい?」
「「……」」
「だめ?」
「ああ、いいよ。馬車で待ってる」
「なんかあったらすぐ知らせろ?」
何故か、巻き込まれたく無さそうにそそくさと馬車に戻った兄達。
(これは、ひょっとして……)
一人になりたい時に兄さんたちを撒く秘密兵器にリエラがなるのではないかと考えたが兄達と接近させるのは危険な為ボツとした。
(二人がリエラに恋しちゃえば、断罪は免ないものね)
ニコニコと期待するようにフリアを見つめるリエラに困っていると、ソルが助け舟を出すように言葉を紡いだ。
「今更だけど、二人は初対面だったな」
「ええ……そうね」
「はい!!にも関わらず助けて下さるなんて!!」
「大した事はしてないわ」
「いや、フリア。すぐに危険に身を投じるのは止めろ、俺が行くまで待っててくれ頼むから……心配なんだ」
(私より弱い癖に……あ、リエラの前だから格好つけてるのかしら)
「そんな事ありません!」と言おうとしたリエラはあまりにも切実なソルの表情に思わず言葉を飲み込んだが、フリア本人はソルに対して失礼な事を考えていた。
なるほど、とフリアは納得するとここはソルに合わせておこうと決める。
「ごめんなさい、ソル」
「……っ、無事で良かったフリア」
「近いわ、離れて頂戴」
「まぁ!」
(ソル殿下はフリア様が好きなのね!)
(この子何か誤解してる気がするわ)
(フリア、今日は素直で可愛いな……)
いつもならば「私の方が強いでしょ」と突っぱねられる所を今日は何故か素直に「ごめんなさい」と潤んだ瞳で(妄想)言ったフリアにきゅんと鳴る胸を抑えて平常心を保つソル。
「その、平民育ちですが……な、仲良くして下さい」
「身分に偏見は無いわ、うちの部下達には平民の者が沢山居るわ。家族同然よ」
「フリア様……っ」
何故か瞳からぽろりと涙を流したリエラに「はぁ」と溜息を吐くと慌てて謝って涙を拭おうとするリエラの涙をフリアが指で拭う。
「フリアで良いわ」
「ーっ」
ソルは、フリアのこう言った不器用な優しさが好きだった。
彼女の兄達もまたそうなのだ。かなりぶっ飛んでいるが、根っから悪人ではない。ただ守る為、生きる為の手段を選ばないだけなのだ。
その過程で壊れていく心の欠損部分を三人で補うように生きていたまだ幼い頃の「災害」と呼ばれる前の彼らを思い出す。
王家とディザスターしか知らない、ディザスターの過去を考えかけて止める。
珍しく、何処となく不安気なフリアが何故か弱々しく見えて彼女の腰に手を回した。
「ソル、貴方の距離感ってどうなってるの?」
「ん?何が」
「もう良い」
「きゃぁ~っお二人は恋人なんですか!?」
「違う……同じ歳でしょう?敬語要らない」
「っっっ!私フリアにずっと付いてくね!!」
(何か変な感じで懐かれちゃった)
付かず離れず、程よく良好な関係を築きディザスターに悪い印象を持たれぬように仕向け、かつ兄達が彼女に接触するのをさりげなく避けるつもりだったフリアは頬を染めてフリアに微笑むリエラの様子に困惑した。
仲良くなりすぎて、返って兄達との接触のきっかけになったら?
兄達がシナリオ通りソルとリエラの恋を邪魔したり、リエラを監禁したら?
(死なせない、絶対に兄さん達は誰にも殺させない)
「フリア?」
「フリア、大丈夫か?」
「リエラ、ソル……大丈夫」
ソルの腰に回った腕に力が入って、引き寄せられると
珍しく低めの、真剣な声で囁かれる。
「フリア、大丈夫だよ。俺が居るよ」
「ありがとう、けれど離してよ」
「やだ、なんか不安そうだから」
「……気のせいよ」
(兄さん達を殺すのは貴方なのよ、ソル)
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