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ただの私たちとして
しおりを挟む「あ……よく会いますね」
「ルージュ、今日も会えて嬉しいよ」
穏やかな深めの碧眼が緩む、まるで昔からの親友に会ったかのように当たり前に隣の席を引いたテンタシオンはその席に座るようにルージュに促した。
大公家が首都に来てからしばらく経つが、ルージュは婚約を解消してから自分の事業と公務との間に作っている自分のお楽しみの時間には必ずと言っていいほどテンタシオンに遭遇している。
(よほど気が合うのかしら?)
まぁ両親同士があれほど意気投合しているのだから自分たちも気が合ってもおかしくはないかと深く考えることはしなかったが、近頃あまりにも多くテンタシオンと時間を共有していた。
「首都にはどれほど居られるのですか?」
「両親の用事が終わり次第戻る予定ですよ」
ふわりと笑ったテンタシオンに毎日会っている所為か、少し帰る時が寂しくなって珍しくルージュの方から食事に誘った。
「よければこの後ランチしませんか?」
「えっ?」
「あ……ご迷惑でしたら」
「いや!是非、行きたい!」
珍しく砕けた口調で慌てて被せたテンタシオンももしかしたら少し寂しさを感じてくれているのかもしれないとルージュは少し嬉しそうに頷く。
「行きつけのレストランがあるんです」
いつものレストランに一人ではなく二人で来たのは初めてだと考えながら目の前で穏やかな表情で食前茶を啜るテンタシオンを眺める。
あまりにも美しい輪郭と目鼻立ちはアルベルトもかなりの美青年だがそれをはるかに凌ぐ美しさだ。
洗練された所作と穏やかな口調が彼を理知的に見せるが、上着を脱ぐと分かる鍛えられた体格は細身だがしっかりと鍛錬されたものだとひと目見れば皆気付くだろう。
今の所人柄もどこにも問題がないように見えるし、こんなにも魅力的ならば令嬢達がほっとかないはずだろうと、今ルージュは自分がテンタシオンの婚約者候補の先頭に陰ながら名を連ねている事を知らずに考えていた。
「公子様、ご令嬢達とはお話になりましたか?」
「ああ勿論。皆貴女のことを褒めちぎっていたよ」
(気になる子はいたかという意味だったのだけれど……)
何故か本人でもないのに嬉しそうなテンタシオンは今度は彼がルージュに質問する。
「恋人や、婚約をする予定は?」
「ありません」
穏やかな表情と声色でそう言ったルージュにテンタシオンはこれは手強いなと苦笑する。
「安心しました。悔しくもありますが」
(まぁすぐに靡いてはくれないよな……)
「はい?どういう意味ですか?」
「いえ、そういえば元婚約者の方からは何も?」
「ああ…別荘の件はどうなっているのか?と私的な用件だけを伝える手紙に気を引きたいなら意地をはるなと書いてありました」
くすくすと笑うルージュは「婚約が解消されたことにも気付いていないなんて」と少し自嘲するような声で呟いた。
そんな彼女を慰めるようにテンタシオンがいつもより少し小さな声で「私なら死んでも手離さないです」とルージュの瞳を見つめながら言うので、思わずルージュは気恥ずかしくなって視線を逸らした。
「所で、別荘とは?」
「あぁ私の別荘でーー」
ルージュはテンタシオンならばいいだろうと、彼にあの日のことを話した。時々見せる彼の氷のように冷たい瞳がとても恐ろしかったがそれが自分に向けられていないのはよく分かった。
「許せませんね」
テンタシオンはルージュよりも遥かに強い怒りを露わにしてくれたからだ。
「未遂でしたし、もう済んだことですので」
「ルージュがそう言うなら仕方ありませんが……」
こうして休憩時間を共に過ごして、執務にあっさりと戻ることを暫く続けている内に、二人はどうしても互いの顔を見ないと心寂しくなるようになってしまった。
かと言って約束をするわけでもなく、なのにテンタシオンはいつもルージュのいる所に現れた。
それをルージュはよほど気が合うのだろうと思っていたが、本当はテンタシオンが大公家の力で毎日彼女の休憩場所を探し当てていた事はだれも知る由がないだろう。
それと同時になかなか婚約解消を公式に発表しようという手紙に返事がこない為に、ルージュとアルベルトの婚約の解消を知らない者達によって二人の不倫の噂が立つようになっていた。
ルージュはテンタシオンと、アルベルトはメーデアと……けれど実際にはルージュ達はせいぜいお茶をしている程度の目撃情報だった。
それに比べてアルベルトとメーデアの行動はだんだんとエスカレートしていった……
まるで世間に見せつけるように白昼堂々と体を寄せ合い口づけを交わす二人の間には礼儀や上下関係など皆無で、寧ろメーデアがアルベルトを上手く扱っているようにすら見えるらしい。
婚約解消の事実とルージュの名誉を守る為にアルベルトへと何度も正式に婚約解消が済んだと手紙を送っているが無視をしているのか、見ていないのか返事が来る事はなかった。
「どうして……?」
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