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横取りを味わうなんて
しおりを挟む「リヒト……結婚したですって!?そんなの嘘よ!!」
リヒトはメリーをできる限りすぐに訪ねた。
律儀な性格なのは相変わらずで、きちんと説明するべきだと不運な目に遭ったメリーに罪悪感を少なからず感じすぐに訪問したのだが、
リヒトは自分がすっかり忘れていたことに驚いた。
メリーがどんな人間だったのか。
すっかり辛い目にあって苦しんでいるだろうとさえ考えていたリヒトが目にしたのは使用人に跨るメリーで、案内した侍女も知らなかったのか悲鳴をあげて扉を閉めた。
「もっ申し訳ありません!つい先程公爵様の訪問をお伝えしたのですが……」
「俺には関係のない事だ」
「で、ですが……」
犯人を捕まえた際に、どのような経緯でメリーが攫われたのかは知った。
だからこそ、こんな事が無くとも決して身持ちの固い女性ではない事はもう知っていた。
「いや……ずっと前から知っているな」
「何か仰りましたか?」
「何でもない。別の部屋で待つ。どうしても今日伝えておきたい事があるんでな」
そう言って応接室に座ったリヒトを聞きつけてやってきたメリーの両親は酷く老け込んだように感じた。
「貴方に、謝らなければならない……」
メリーの父親が言ったのは衝撃的な言葉だった。
「メリーとの婚約がご両親の意志だというのは娘の嘘だった……私達も一方的に娘の話だけを信じて君を追い詰めてしまった……」
「ごめんなさい……ご夫妻は娘を気に入って下さっていたから、疑わなかったの……」
「ーっもう、良いんです。父と母が俺に言わずにそんな約束を取り付ける訳がないと思いながらも無下にできなかった責任は俺にありますので」
「実は、貴方の結婚が決まった時はホッとしたの……愛する人と引き離されて傷ついてしまった貴方がやっと伴侶を見つけたのだと」
「それが、私達の娘出ない事にも。……本当に申し訳無かった」
「……貴方達を責める理由はありません。それに今日、俺はメリーに結婚した事を伝えに来ました。酷く傷付けるでしょう……」
メリーの両親はふっと哀しそうに笑った。
「貴方はやはり、優しいんですね。娘のした事の責任はできる限り私共がとります」
「はい、あの子は私と夫で一生面倒見るつもりです」
すると、ドタバタと令嬢らしからぬ足音が聞こえて湯浴みしていたのか少し髪が湿ったままのメリーが部屋に飛び込んで来た。
久々に見るメリーの明るい笑顔に両親は涙したが、現実は残酷だった。
「リヒト……っ!!!やっぱり来てくれたのね!会いたかったわ!!!」
リヒトはメリーを素早く避けると、感情の無い声で伝えた。
「メリー、俺は結婚した。もうお前の婚約者ではない」
「え……っ」
リヒトの言っている事が飲み込めずに、放心状態になったメリーを置いてリヒトは席を立った。
「なので、もう会う事もない。」
去っていくリヒトの背中はずっと変わらないのに、
彼の声はまるで別人のように冷ややかだった。
「リヒト……結婚したですって!?そんなの嘘よ!!」
邸を酷く散らかしてしまう程に暴れたメリーは、その日から毎日マッケンゼン邸を訪ねたが門前払いだった。
「リヒト様と奥様より、お通しする事は禁じられています」
「なんでよ!!!通しなさいよ!!!!私が来たのよ!」
「また来たのね」
「ああ、そのようだな」
「貴方はいつまでソレを眺めているつもり?」
リヒトに眉を顰めて言うのは、元ミリエーヌ・シェメロン伯爵令嬢であり今はミリアーヌ・マッケンゼン夫人である艶やかな黒髪の女性だ。
彼女もまた、数少ないシエラを支持する令嬢だった。
寧ろ、支持というよりは隠れたファンのような存在だった。
彼女は伯爵位では行き詰まった実家の栄光の為にと、国を出たシエラの無念を果たす為に利害の一致でジェレミアと手を組み、リヒトと契約結婚した。
リヒトがシエラとの手紙の数々や些細な贈り物をを眺めている間も特に嫉妬する訳でもなく、壊れたものを見るような目でリヒトを見るだけだった。
「すまない」
「いいのよ、愛なんて無いんだから。で?あれが例の令嬢ね?」
ミリアーヌは伯爵位と今まではそう簡単にシエラらリヒトに近づける立ち位置では無かった為に弁えていたが、中々頭のキレる令嬢だった。
そして、シエラへの無礼な振る舞いを許して居なかった。
「私は皇女殿下が悪女であろうが、何でも良かった。ただ直接会ったあの人の人柄が好きだった、憧れだったの。だからここに立てて光栄よ」
「……」
「私は皇女殿下ほど、優しくないの」
そう言って降りていったミリアーヌはメリーのいる門へと向かった。
「な、何よアンタ!」
「あら……下品な娼婦だこと。夫とは間に合ってるのお帰りなさって?」
(勿論嘘だけれど、仮にも夫だし良いわよね)
「なっ!?」
「もう、貴女の居場所はないのよ。それに……身持ちの緩さが災いして慰み者になったのですってね?恥ずかしく無いのかしら……大人しく身を潜めてなさいな」
「…….っ!!」
メリーは言い返す事が出来なかった。
けれどとても屈辱的な気分だった。
自分がシエラから横取りしたと思っていたリヒトは
ミリアーヌに横取りされてしまったのだ。
そして、ずっと痛感していた。
気品も、聡明さも、全てがシエラには敵わないのだと。
そして……
(この女にすら、私は敵わない……)
「どうせ、アンタもシエラ皇女には敵わない」
「ふふっ、そうね。けれど私は幸せよ?貴女と違って」
ミリアーヌの不敵な笑みに、もうメリーは返す言葉が無かった。
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