64 / 69
婚約公表、未来の王妃
しおりを挟む「まぁ!綺麗ね……!お美しいわ!」
「どうやら祖国に婚約者候補が居たらしいぞ」
「何故、あんなに素晴らしい方を手放したのかしら!」
「さぁ、見る目が無かったんだろう!国政にも長けてらっしゃると噂だ!」
「ほんとね、そのおかげでカシージャスはまた潤うわ!」
「「王妃殿下、バンザイ!!!」」
てっきり針の筵だろうと考えていたメリーは、シエラの人気様にもやもやとしたものを抱えていた。
何故か昨晩から気落ちしているリヒトの目はどこか虚ろでメリーと目が合わない。ずっと何かを振り返るように考えては「どこで間違えたのか」の答え合わせをしている彼は痛々しい。
(なんであっち側で笑ってるわけアイツ)
リヒトと仲がいいと思っていたジェレミアは席を用意されて彼らと並んで座っている。
しまいにはヒラヒラとリヒトに手を振るジェレミアになんて呑気なんだと苛立つメリーはすっかりジェレミアがシエラを愛してやまない弟だと言うことを忘れていた。
「挨拶に行くぞメリー。無礼を働くな」
ジェレミアの手は合図だったのか、急に正気に戻ったリヒトはメリーを冷ややかに見てからそう言って前を歩いた。
(もう隣を歩かせてもくれない、我儘をきいてもくれない)
リヒトがもどかしかった。
近くに居るのにかえって遠ざかった気がした。
「カシージャスの王と我が帝国の陛下、そしてシエラ皇女殿下にご挨拶申し上げます」
「よく来てくれたな、マッケンゼン」
「こちらこらお招き頂き光栄でございます。」
相変わらず高貴な者の雰囲気に威圧されて、黙り込んでいるだけのメリーを冷ややかな笑顔で見るジェレミア。
「リヒト、遅かったね。今日は婚約者殿は来ていないのか?」
「いえ、ご挨拶が遅れて申し訳ありません……メリー」
「へっ陛下方にご挨拶申し上げますっ……!」
「あぁ居たのか、使用人でも連れているのかと思ったよ」
メリーを見ることもせずにそっぽを向いて言ったジェレミアの言葉に会場にいる者はどっと笑った。
マッケンゼン公爵と並ぶにはあまりに釣り合わないメリーの立ち振る舞いや、自信の無さから出る品のない虚勢はかなり浮いていたからだ。
派手すぎるドレスも、濃い化粧もあらゆる所についた大きな宝石のアクセサリーも全てが今日の場には似合っていなかった。
「そ、そんな!ひどいです!」
「酷い?君の格好の事か?ねぇ、姉様どう思う?」
「ジェレミー、おやめなさい」
ジェレミアのあまりの曲者さにリュカエルは少し目を見開いていたが、次第に可笑しそうに笑うと、会場の者達の身を凍らせた。
(笑うのが珍しくくて、かえって怖がられているのね…….)
「ははっ……噂は聞いてる。だがまぁ、祝いの席だ。楽しむが良い」
「ありがとうございます、陛下……」
チラリと見たシエラの手は、リュカエルの手と重ねられており優しく笑いかける仕草も愛していると訴えかけるような青い瞳もがリヒトの胸を抉った。
そして、壇上でメリーの方をまるで眼中にないとでもいうのか、見る事もないシエラが思っていたよりも遥かに美しくいい男であるリュカエルに熱い視線を向けられ、大切にされている上に他の者達からも王妃として受け入れられている事がメリーにとって腹立たしかった。
傷ついていて欲しかった。
リヒトに見向かれないとしても、シエラには勝っていたかった。
なにより、隣に居るリヒトはずっと切ない瞳でシエラだけを見つめていた。
そんな瞳で見つめられた事は今まで一度だって無かった。
だからメリーは余計にシエラが憎くなった。
深い憎しみを抱えるメリーの瞳に口元を歪めたのはジェレミアで、そんな表情に身を固くしたのはリヒトだった。
「リヒトは僕に合わせて滞在は長くなる、宜しく頼むよ」
「はい」
「そうか、では好きに過ごすといい。帝都に比べると狭いが、カシージャスに沢山見る所がある」
(滞在が長くなるですって……まさか!!)
勝ち誇った気分だった。これでシエラは終わりだと思った。
(きっと怒り狂ってシエラ皇女を切り殺すはず!それでなくとも、これをバラされればシエラ皇女は終わりよ!)
「では、また今日も一緒に寝られるのですか?」
「は……メリー!」
リヒトが慌ててメリーを咎めるが、ジェレミアは掛かったと言うようにふふんと笑ってリュカエルの方を見た。
(は……自分までも策に組み込むとは。末恐ろしい義弟だな)
「メリー嬢、何を仰りたいのです?」
シエラがゆっくとそう尋ねると待ってましたと言わんばかりに、
「シエラ皇女はジェレミア陛下ととても仲睦まじい姉弟でしたので……いつもまるで恋人のように」
にやける口元を隠す事もせずにメリーがそう言うと、ジェレミアはメリーにゆるやかにトドメを刺すように言った。
「僕達が一緒に?リュカエル義兄様が居るのに何故だと思う?」
リュカエルに首を傾げて問うジェレミアの意図が分かるのか、無表情でメリーを見ると淡々とメリーに尋ねる。
「義弟とシエラの仲を疑っていると?」
「い、いえっ!そういう訳では……っ」
「それでは俺とシエラの愛が真実ではないと疑っているのか?」
「そんな!……違います!」
「二人が仲睦まじいのは全て知っているだが姉弟として問題ないものだと把握している、それに義弟とは気が合ってな」
取り付く一寸の隙間もないようなリュカエルの態度と、シエラのメリーなど気にも留めないような様子にメリーは奥歯をギリギリと鳴らした。
何よりも怖いのは、メリーなどまるで気にかけないリヒトと
ジェレミアが彼女を溺愛する弟だと思い出したこと、そして……
シエラこそ正義だと言わんばかりに、彼女を真っ直ぐに信用して想うリュカエルのまるで今すぐにでもメリーを斬り捨ててしまいそうなほど鋭く射抜く金色の瞳だった。
「あ……」
(針の筵なのは、私………)
31
お気に入りに追加
1,108
あなたにおすすめの小説
お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜
湊未来
恋愛
王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。
二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。
そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。
王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。
『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』
1年後……
王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。
『王妃の間には恋のキューピッドがいる』
王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。
「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」
「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」
……あら?
この筆跡、陛下のものではなくって?
まさかね……
一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……
お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。
愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
私を拒絶した王太子をギャフンと言わせるために頑張って来たのですが…何やら雲行きが怪しいです
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、子供の頃からずっと好きだった王太子、ライムの婚約者選びの為のお茶会に意気揚々と参加した。そんな中ライムが、母親でもある王妃に
「セイラだけは嫌だ。彼女以外ならどんな女性でも構わない。だから、セイラ以外の女性を選ばせてほしい」
と必死に訴えている姿を目撃し、ショックを受ける。さらに王宮使用人たちの話を聞き、自分がいかに皆から嫌われているかを思い知らされる。
確かに私は少し我が儘で気も強い。でも、だからってそこまで嫌がらなくても…悔しくて涙を流すセイラ。
でも、セイラはそこで諦める様な軟な女性ではなかった。
「そこまで私が嫌いなら、完璧な女性になってライムをギャフンと言わせていやる!」
この日から、セイラの王太子をギャフンと言わせる大作戦が始まる。
他サイトでも投稿しています。
※少し長くなりそうなので、長編に変えました。
よろしくお願いいたしますm(__)m
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる