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婚約公表、未来の王妃

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「まぁ!綺麗ね……!お美しいわ!」


「どうやら祖国に婚約者候補が居たらしいぞ」

「何故、あんなに素晴らしい方を手放したのかしら!」

「さぁ、見る目が無かったんだろう!国政にも長けてらっしゃると噂だ!」

「ほんとね、そのおかげでカシージャスはまた潤うわ!」


「「王妃殿下、バンザイ!!!」」



てっきり針の筵だろうと考えていたメリーは、シエラの人気様にもやもやとしたものを抱えていた。

何故か昨晩から気落ちしているリヒトの目はどこか虚ろでメリーと目が合わない。ずっと何かを振り返るように考えては「どこで間違えたのか」の答え合わせをしている彼は痛々しい。


(なんであっち側で笑ってるわけアイツ)


リヒトと仲がいいと思っていたジェレミアは席を用意されて彼らと並んで座っている。


しまいにはヒラヒラとリヒトに手を振るジェレミアになんて呑気なんだと苛立つメリーはすっかりジェレミアがシエラを愛してやまない弟だと言うことを忘れていた。


「挨拶に行くぞメリー。無礼を働くな」


ジェレミアの手は合図だったのか、急に正気に戻ったリヒトはメリーを冷ややかに見てからそう言って前を歩いた。

(もう隣を歩かせてもくれない、我儘をきいてもくれない)

リヒトがもどかしかった。

近くに居るのにかえって遠ざかった気がした。



「カシージャスの王と我が帝国の陛下、そしてシエラ皇女殿下にご挨拶申し上げます」



「よく来てくれたな、マッケンゼン」


「こちらこらお招き頂き光栄でございます。」


相変わらず高貴な者の雰囲気に威圧されて、黙り込んでいるだけのメリーを冷ややかな笑顔で見るジェレミア。

「リヒト、遅かったね。今日は婚約者殿は来ていないのか?」


「いえ、ご挨拶が遅れて申し訳ありません……メリー」


「へっ陛下方にご挨拶申し上げますっ……!」


「あぁ居たのか、使用人でも連れているのかと思ったよ」


メリーを見ることもせずにそっぽを向いて言ったジェレミアの言葉に会場にいる者はどっと笑った。

マッケンゼン公爵と並ぶにはあまりに釣り合わないメリーの立ち振る舞いや、自信の無さから出る品のない虚勢はかなり浮いていたからだ。

派手すぎるドレスも、濃い化粧もあらゆる所についた大きな宝石のアクセサリーも全てが今日の場には似合っていなかった。

 
「そ、そんな!ひどいです!」

「酷い?君の格好の事か?ねぇ、姉様どう思う?」

「ジェレミー、おやめなさい」

ジェレミアのあまりの曲者さにリュカエルは少し目を見開いていたが、次第に可笑しそうに笑うと、会場の者達の身を凍らせた。


(笑うのが珍しくくて、かえって怖がられているのね…….)


「ははっ……。だがまぁ、祝いの席だ。楽しむが良い」



「ありがとうございます、陛下……」


チラリと見たシエラの手は、リュカエルの手と重ねられており優しく笑いかける仕草も愛していると訴えかけるような青い瞳もがリヒトの胸を抉った。


そして、壇上でメリーの方をまるで眼中にないとでもいうのか、見る事もないシエラが思っていたよりも遥かに美しくいい男であるリュカエルに熱い視線を向けられ、大切にされている上に他の者達からも王妃として受け入れられている事がメリーにとって腹立たしかった。

傷ついていて欲しかった。
リヒトに見向かれないとしても、シエラには勝っていたかった。

なにより、隣に居るリヒトはずっと切ない瞳でシエラだけを見つめていた。

そんな瞳で見つめられた事は今まで一度だって無かった。
だからメリーは余計にシエラが憎くなった。


深い憎しみを抱えるメリーの瞳に口元を歪めたのはジェレミアで、そんな表情に身を固くしたのはリヒトだった。



「リヒトは僕に合わせて滞在は長くなる、宜しく頼むよ」


「はい」


「そうか、では好きに過ごすといい。帝都に比べると狭いが、カシージャスに沢山見る所がある」



(滞在が長くなるですって……まさか!!)

勝ち誇った気分だった。これでシエラは終わりだと思った。


(きっと怒り狂ってシエラ皇女を切り殺すはず!それでなくとも、これをバラされればシエラ皇女は終わりよ!)



「では、一緒に寝られるのですか?」



「は……メリー!」

リヒトが慌ててメリーを咎めるが、ジェレミアは掛かったと言うようにふふんと笑ってリュカエルの方を見た。


(は……自分までも策に組み込むとは。末恐ろしい義弟だな)


「メリー嬢、何を仰りたいのです?」

シエラがゆっくとそう尋ねると待ってましたと言わんばかりに、


「シエラ皇女はジェレミア陛下ととても仲睦まじい姉弟でしたので……いつもまるで恋人のように」


にやける口元を隠す事もせずにメリーがそう言うと、ジェレミアはメリーにゆるやかにトドメを刺すように言った。


「僕達が一緒に?リュカエル義兄様が居るのに何故だと思う?」


リュカエルに首を傾げて問うジェレミアの意図が分かるのか、無表情でメリーを見ると淡々とメリーに尋ねる。


「義弟とシエラの仲を疑っていると?」


「い、いえっ!そういう訳では……っ」


「それでは俺とシエラの愛が真実ではないと疑っているのか?」


「そんな!……違います!」


「二人が仲睦まじいのはだが姉弟として問題ないものだと把握している、それに義弟とは気が合ってな」


取り付く一寸の隙間もないようなリュカエルの態度と、シエラのメリーなど気にも留めないような様子にメリーは奥歯をギリギリと鳴らした。


何よりも怖いのは、メリーなどまるで気にかけないリヒトと

ジェレミアが彼女を溺愛する弟だと思い出したこと、そして……



シエラこそ正義だと言わんばかりに、彼女を真っ直ぐに信用して想うリュカエルのまるで今すぐにでもメリーを斬り捨ててしまいそうなほど鋭く射抜く金色の瞳だった。


「あ……」


(針の筵なのは、私………)






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