悪役皇女は二度目の人生死にたくない〜義弟と婚約者にはもう放っておいて欲しい〜

abang

文字の大きさ
上 下
63 / 69

愛した貴女はカシージャス王妃

しおりを挟む


カシージャスに来てます驚いたのは、帝都よりもはるかに豊かである事だった。

隣ではしゃぐメリーにうんざりとするが、確かにこの小さなはずの国の豊かさには目を見張るものがある。


「見てリヒト!凄いわ!あんな乗り物は初めて見た!」

「はしたない行動は慎め」

「……わかったわよ」



ジェレミアは一足先に到着し王宮にてシエラに迎え入れられているだろう。

彼女に会いたいと願えど、状況に現実を突きつけられる。

更には隣で大声を出してやっぱり騒ぐメリーに気分は下がるばかりだった。



ジェレミアはある意味とても、効率的な罰をリヒトに与えたのかもしれない。


彼はとても現実的な人だと思った。


家臣として政治的な意味でリヒト・マッケンゼンを信用しているが、シエラの元婚約者としてのリヒトを許しては居ないのだ。


例の夢を見てからジェレミアによってシエラが傷つくのではないかと、ずっとそう思っていた。

けれど実際にシエラを傷つけたのは自分自身だった。


「メリー、公爵家は王宮に招待されている。粗相のないようにしてくれ」


「ええ、私だって貴族令嬢よ?安心して頂戴」


それらしく返事をするが、リヒトにとっては不安だった。

その不安は、王宮に到着するなり見事的中する。




リヒトだけでなくメリーがシエラとどう言う関係性の人間なのかは、もてなす上で聞いているだろう使用人達は見事に表面上は完璧にこなしてくれた。


実際ならばメリーや自分に対しての扱いが他と違ってもおかしくはないにも関わらず、他国のとしてきちんともてなしてくれるのだ。



メリーはすっかり調子に乗ったようで、偉そうに部屋のカーテンが気に入らないとケチをつけている。


「やめろ、メリー」

「だってこんなに派手な柄じゃ休まらないわ!」

「カシージャスの伝統的な織物だ」

「えっ……そうなの?」


「そうだ、このような上等なものは初めて見たが……礼儀だけでなく学までもないとバレる。やめておくんだ、これは有名な品だ」


「り、リヒトっ!貴方ひどいわっ!!」

布団に潜り込んで啜り泣くメリーを放って、明日の婚約パーティーの準備を連れてきた使用人に淡々と伝えた。


(妹として見れば目を瞑れる幼稚な所も、女性としては……)

日に日に悪化するメリーの素行に頭を抱える。


そして夜は性懲りも無くリヒトを誘うメリーのせいで眠れずに、部屋を出て少し歩く事にした。


(こんな所もあるのか……)


美しい花が丁寧に手入れされた庭園は夜でもその美しさが分かる。

所々、照明で飾られた花と、殆どが海に囲まれるカシージャスならではの景色と波の音は安らぎを得るにはとっておきだった。




ふと、淡い光に照らされる金髪が目に入る。


(妖精、もしくは女神か……)



人の気配を感じたのか少し驚いたようすで振り返った彼女が、立ち上がりおそるおそる自分の名を呼んだ声に身体中に急に血が巡ったような感覚がして、熱くなる。


丸くした碧眼はたしかにリヒトを捉えており、動けなかった。


「リヒト・マッケンゼン……」



「シエラ皇女っ」



「貴方も来たのね……何故此処に……」



「眠れなくて……邪魔したようで申し訳ない」


「そう、早く戻って」


「シエラ皇女……ほんとうに此処で生きるのか?なぜ何も言わずに……」


「私と貴方はあくまで皇帝ジェレミーを支える同志。私の恋愛に口を出す仲ではないでしょう」


「俺と貴女は婚約者……」


「解消すると言ったはずよ」


「……せめて貴女を幸せに出来なかった事を謝りたい」


「なら早く戻ってリヒト……明日私におめでとうと言うの」


何故かリヒトは動けなかった、シエラを抱きしめたくて仕方なかった。

メリーの元へ戻るのだと思うとゾッとしたし、もうこのようにシエラと会える事はないのだと思うと苦しくなった。


「……やはり」

リヒトが一歩踏み出そうとした瞬間、背後から声がする。


背丈はそう変わらないが何故か大きく見える彼の情熱的な赤い髪が夜でも燃えているように目立って目を引く。


金色の瞳もまた爛々としていて、端正な容姿は冷たを感じるが何故か太陽のような男だと思った。


「やはり、美しいだろう?


「リュカ」

目を細めて、まるで愛おしい人を見るかのようなシエラの瞳にギクリとする。このように安心し、相手を信頼したような笑顔をリヒトは見た事が無かった。



「……婚約者ではなく?」



「あぁまずは順序を踏んで発表しようと言う事になったんだ」



「私はリュカと結婚するわ、マッケンゼン公爵」


「それと申し訳ないが此処はシエラの庭園なんだ。許可なく入ることは禁止している」





(目が笑っていないな。けれどもこの余裕……)


カシージャスの王とはこれほどまでに壮大なのかと、帝国で生まれ育ち公爵として立つはずのリヒトはそう感じた。


そして、あまりにも……


(シエラ皇女に彼の隣は似合っている)



「失礼しました」


「ああ、入り口に人を立たせた。案内してもらてくれ」


「お気遣いありがとうございます」



背を向ける最中に見えた、シエラがリュカエルの胸に抱かれる光景は、現実を突きつけリヒトの心をズタズタに引き裂いた。



「遅かったわね、リュカ」


「義弟が我が儘でな」


「仲良くなったようね」


「ああ、中々面白い」

しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

蕾令嬢は運命の相手に早く会いたくて待ち遠しくて、やや不貞腐れていました

しろねこ。
恋愛
ヴィオラは花も恥じらう16歳の乙女なのだが、外見は10歳で止まっている。 成長するきっかけは愛する人と共に、花の女神像の前に立ち、愛を誓う事。 妹のパメラはもう最愛の者を見つけて誓い合い、無事に成長して可憐な花の乙女になった。 一方ヴィオラはまだ相手の目処すら立っていない。 いや、昔告白を受け、その子と女神様の前で誓いを立てようとしたのだけれど……結果は残念な事に。 そうして少女の姿のまま大きくなり、ついたあだ名は『蕾令嬢』 このまま蕾のままの人生なのか、花が咲くのはいつの日になるのか。 早く大きくなりたいのだけど、王子様はまだですか? ハッピーエンドとご都合主義と両想い溺愛が大好きです(n*´ω`*n) カクヨムさんでも投稿中!

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

処理中です...