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悲劇のヒロインメリー2

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「ひっ……!!」



目の前で起きている事が理解出来ずに、乾いた喉から出た声はあまりにも僅かなだった。


白が似合うシエラとそっくりな美しい容姿は今時たま飛び跳ねて彼を彩る赤い血に飾り付けられている。


(いや、このイカれた二人の容姿なら何色を着ても似合う……)



ガクガクと震えて、整わない息とは裏腹に脳内は冷静で世界で一番嫌いなあの女のことを考えている。



隣を覗き見ると、表情を変えないままジェレミア陛下の異常な行動を眺めているリヒトは感情が読み取れない複雑な瞳をしていて少し怖い。


彼が蹴り上げたのは、皇帝陛下でその隣でジェレミア陛下に謝り続け、泣き喚きながら看守とまじわってるのが皇后陛下だった人。


異常な光景にゾッとした、ジェレミア陛下は気でも触れたのだろうか。


「父上は見るのが好きでしょう?」

「そして母上は、男が好きだ」




「ジェレミア……っもう殺してくれっ」


「嫌よっ死にたくなんてない!許してジェレミア!貴方を皇帝にする為だったのよ!」



「じゃあ……どうして姉様はよくぶたれていたの母上?」


「そ、それは……」




「僕はね……今から全部正していこうと思うんだ」



決して変な台詞ではない。

だが、目を見開いたリヒトも気を失った元皇后も、項垂れる元皇帝も誰を見ても気持ちが落ち着かなかった。


ふと、ジェレミア陛下と目があって足先から頭の先まで冷たくなるような、ゾワリと力が抜けるような、恐怖の波に呑まれたような感覚がした。


ゆっくり開く形のいい唇が、シエラのように勝気に吊り上がると



「姉様を傷つけたモノ、侮辱するモノは僕がゆっくり正すよ」



「どう、リヒトは気に入った?」と恐ろしい笑顔で言ったジェレミアが怖くて、まるでと言われた気がして腰が抜けて太もも辺りに生暖かい感触がした。



「それなら、俺もそうするべきです」



「お前は……間抜けだったけど姉様を守ろうとしたし、愛してた。勿論いっ時は姉様もお前を愛してたから……だからこれから姉様から与えられる苦しみに耐えて姉様が望んだ通り僕に尽くすことだね」


(僕も姉様の罰に苦しんでいる癖にね……愛する女の他の男との幸せなんて、あんなに優しく消えるなんて。忘れさせてもくれない残酷な人)



きっとリヒトもシエラを忘れる事はできないだろう。



ジェレミアの汚いものを見るような視線と、リヒトの無表情に我にかえると自分で作った水たまりの上に座りこみ涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっているだろう自分がリヒトの瞳ごしに写って見えて凍りつく。



「汚いなぁ……汚したのが地下牢の床でよかったよ……」


少し考えてから元皇后の身体を拭く看守に声をかける。



。僕達はまだ仕事があるんだ」


「陛下、いいんですか?」


ニヤリとイヤらしく歪んだ看守の口元を見てハッとする。

けれど腰は抜けて立てない上に、身体の震えは止まらない。


やっと出た声は縋る様に呼ぶ情けない声だった。


「り…リヒトっ」


「一応、連れなんだ……」

(やっぱりリヒトは……!)



「だから……


「やだ!リヒトっ……っ!」


「時間が無いね、リヒト行こうか」



「そうですね」



叫びたくても、頼りなくリヒトを呼ぶのが精一杯で恐怖で声は出ない。


「では、行きましょう」と濡れたドレスごと抱き上げられて一体どこに連れて行かれるのか恐怖で気持ちが悪くなった。




難しそうな話を始めながら、背を向ける二人の姿が涙で霞んだ視界に写るがもう振り向いてもくれなかった。



(やめて!離してよ!私は初めてはリヒトにだけって決めてるのにっ)


心の中の悲痛な叫びは誰にも聞こえない


ジェレミアとシエラが似てると思った自分が馬鹿に感じた。


シエラとリヒトを引き離して。排除できたのだと思っていた。



(二人が良く似てるって?違う……あの女の、シエラの瞳はもっと広い空のようだったっ!ジェレミアの瞳は狂気の悪魔だと思った)



だれかがジェレミアを「碧い悪魔」だと言っていた。


悪魔は策士で生意気なシエラだとおもっていたが…それは違った。


(寧ろ、ストッパーだった。シエラは寛大だった!野放しにしたんだ、引き離してはいけなかった、姉弟を!)


先程まで皇后だった女を弄っていた舌が自分の身体を這いずり回る。


自分が誰に手を出したのか、誰を貶めようとしていたのか今になって理解した。






「よかったの、リヒト?」


「何がでしょう」


「こういうの嫌いでしょ」


「全部、メリーの所業でした。シエラ皇女を貶めていた噂も、俺やマッケンゼンの名で好き勝手していたようでした……これで婚約は破棄を……」


「まだだよリヒト、近いうちに姉様は幸せな姿を皆に見せるはずだ。姉様じゃなくてカシージャス王がきっとそうする」


相手が帝国であっても、シエラを侮らせたまま放っておかない。


誇りを大切にするカシージャスの人々は大切な人も大切にする。



吐き気すらするが、姉様はカシージャス王の婚約者になった。



「必ず、馬鹿みたいな正攻法で誇りを取り戻しに来る」



(だから、カシージャス。思い通りになってあげるよ)




「どん底に落として、落として、見せつけてやるんだ」




「ジェレミア陛下……」



「全員に分からせてやるんだ。姉様がどれほど高貴で美しい人なのか」





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