上 下
58 / 69

悲劇のヒロインメリー

しおりを挟む


「リヒトは帰ってないの!?」


ヒステリックな声をあげて門の前で叫ぶメリー。



突然、門が開いてマッケンゼン邸に招き入れられるとメリーは満足そうに、「ほらね」と言わんばかりに偉そうに入って行く。



(やっぱり!リヒトも私と仲直りしたいのね!)


そんなメリーをさらにつけ上がらせるように、侍女達が部屋に入ってきてメリーの支度を始める。


「メリー様、お召し替えを。リヒト様がお待ちです」


メリーは疑う事なく支度を済ませると、ちょうど夕食の時間という事もあり食堂へと案内された。


(まぁ、こんな手の込んだ事してリヒトったら)


嬉々とした表情で席に着くと、思っていた雰囲気とは違うリヒトが後から来て席に着いた。

重々しい空気を変えようとメリーは口を開く。


「リヒト、今日は素敵なドレスをありがとう」


「ああ」


「ねぇ仲直り……したいのよね?」


「……話がある」


「ーっ!いやよ!別れないわ!!!」


「まだ何も言っていないだろう」


「だって、リヒト怒った顔をしているもの!」



「じゃあ、俺の両親まで持ち出して嘘ばかり吐いていた者に微笑んで愛を囁けというのか?愛してもいないのに」


「ーっシエラ皇女なの?」


「何がいいたい」


「シエラ皇女が消えてもまだ、愛しているのね!?」



「……俺にその資格はない」


リヒトはまるで、メリーなどその瞳に写っていないかのようだった。


癇癪を起こしたメリーは少し声を荒げて「リヒト!」と呼ぶが返ってきたのは冷ややかに細められたリヒトの視線だけだった。



「残念ながら、別れ話ではない」



「……なら、早く言ってよ」


「皇宮からの呼び出しに同行してほしい。……婚約者としてだ」


全くもって婚約者に向けるような視線ではないが、メリーはリヒトの口からという言葉が聞けるだけでも満足だった。




「ええ……分かったわ!」





皇宮へ登城する日まで、しっかりと準備した。

父や母に言って無理をして、未来のマッケンゼン公爵夫人に相応しいドレスや靴も用意したし全身ピカピカに磨き上げた。


淡い色味のシンプルかつ、キラキラと光るドレスは着る者を選ぶと反対されたが今日の自分ならば充分着こなせていると満足できた。


(シエラ皇女はいつもこのようなドレスを着ていたもの)


シエラに勝ろうと思えば思うほど、彼女を真似ている事に気付かないメリーはまるで似合って居ないドレスを自慢げに着て、いつもより薄い化粧を施した。


馬車が来ると、リヒトはメリーを見るなり眉を顰めて黙り込んだが、メリーはそれを「照れている」のだと受け取った。




「良く来てくれたね。リヒト、メリー嬢」




「皇帝陛下にご挨拶を申し上げます。光栄でございます陛下」


「あっ……皇帝陛下にご挨拶を申仕上げますっ」


メリーの家門の身分では余程の事がない限り直接謁見をすることなど無く、作法が分からずオロオロと辺りを見渡しながら慌てて礼をした。


その瞬間に、皇帝ジェレミアが鼻で笑ったのが分かって羞恥で顔が熱くなった。


「ほう……それはウェヌスのドレスだねメリー嬢」


「はい。近頃令嬢の間での流行でございます」


よく着ていると聞いて、僕も嬉しく思っていたんだけどまさか君も……光栄だなぁ」


クスクスと笑う侍女達もまた貴族令嬢であり、メリーがシエラの真似事をしてまでリヒトの隣にしがみついていると晒したようなものだった。


「ーっ別に憧れてる訳じゃ….」

「陛下」



「あぁ、すまないね。今日はリヒトと大切な約束があってね。良ければ一緖にどうだろうか?」


「え……いいんですか!?」


「あぁ、姉様はよくそうしていたよ」


けれどもメリーの思っているよりもそのスケジュールは過酷で小難しい話ばかりで疲れる上に、全くもって意味も分からない。


「それで、防衛についてだが兼ねてより問題視していた……」


(な、何言ってるの?意味わからないわ……)


リヒトだけでなく大臣や他の官僚達が揃って真剣な眼差しで悩む。


「メリー嬢はどう思う?」


「え"っ!?あ……えっと、その……」


「すみません、彼女には難しいようです」


「そうだったねいつも姉様は素晴らしい案を出してくれたから……リヒトの婚約者ならばと、つい


「そうですね、シエラ皇女はとてもご聡明でした!」

口々にそう称え始める皆と、呆れた様にメリーを流し見るリヒト。



「今日まで何を準備していたんだ?」

基礎的な政治の知識や、皇宮でリヒトと共に働く者達の名前、誰もが習ったはずの教養すらもままならないメリーが想像よりも遥かに出来が悪い事に驚いていた。


(これは陛下が、考えたちょっとした遊び。何も、普通の令嬢がシエラ皇女のように陛下の頭脳として振る舞える訳がないが……あまりに……)




「だって!手入れやドレス選びと準備に大変だったの…….」


「まぁまぁリヒト。会議が終わったらこの間の約束通り、面白いものを見せてあげる、メリー嬢も気を落とさずにおいで?」



ジェレミアはシエラの件でメリーに怒っていないのか?


メリーは一番恐れていたジェレミアが一番優しく見える事に驚きながらも、どこか狂気的な雰囲気を持つ、愛らしくも美しい皇帝の笑顔に思わず見惚れた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜

湊未来
恋愛
 王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。  二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。  そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。  王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。 『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』  1年後……  王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。 『王妃の間には恋のキューピッドがいる』  王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。 「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」 「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」 ……あら?   この筆跡、陛下のものではなくって?  まさかね……  一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……  お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。  愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

私を拒絶した王太子をギャフンと言わせるために頑張って来たのですが…何やら雲行きが怪しいです

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、子供の頃からずっと好きだった王太子、ライムの婚約者選びの為のお茶会に意気揚々と参加した。そんな中ライムが、母親でもある王妃に 「セイラだけは嫌だ。彼女以外ならどんな女性でも構わない。だから、セイラ以外の女性を選ばせてほしい」 と必死に訴えている姿を目撃し、ショックを受ける。さらに王宮使用人たちの話を聞き、自分がいかに皆から嫌われているかを思い知らされる。 確かに私は少し我が儘で気も強い。でも、だからってそこまで嫌がらなくても…悔しくて涙を流すセイラ。 でも、セイラはそこで諦める様な軟な女性ではなかった。 「そこまで私が嫌いなら、完璧な女性になってライムをギャフンと言わせていやる!」 この日から、セイラの王太子をギャフンと言わせる大作戦が始まる。 他サイトでも投稿しています。 ※少し長くなりそうなので、長編に変えました。 よろしくお願いいたしますm(__)m

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】 王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。 しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。 「君は俺と結婚したんだ」 「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」 目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。 どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...