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許されると思ったの?
しおりを挟む「ジ、ジェレミア!悪かった!頼む、話を聞くんだっ」
ジェレミアは、父が収集していたシエラやシエラの実母への執着の塊を自らの手で処分した。
保存されているものには、ジェレミアとシエラのものもありそんなものを見ながら一人昂っていたのかと思うと気分が悪かったが、
それよりももっと気分が悪かったのは、父のコレクションに映るまるで父と同じようにシエラに執着の視線を向け服従させようとする狂気に満ちた当時の自分の姿だった。
何度も、身体が空になるまで嘔吐した。
皇宮では肩身が狭く常に命を握られ、世間を知らずに恐怖に震えながらもジェレミアだけが家族だと従うシエラのその時の様子を見て酷い罪悪感と、胸糞の悪さに夢の自分と重なり、こみあげてくるものを抑えきれなかった。
せめて他の誰にも穢されぬように、自分の手で一つ残らず処分しようと決めたものの、シエラを監視する材料の多さに父親への怒りが湧いた。
(姉様は、幸せになるべきだ。だからせめて僕が全部消すんだ)
気がつけば冷たい地下牢だった。
どこを整理しても汚職、汚職、汚職……
どの道、父上は刑が執行されるまでのもうないに等しい命なのだ。
牢を開け、入ると入るなり僕の顔を見て命乞いをする父上。
「僕が許すと思うの?それに、姉様を売ったのは驚いたよ」
結果的に幸せであるのなら、もう良かった。
いつか姉様が僕を許してくれるのならまた会いたいと思った。
けれども、監視し、覗き見ては散々慰みものにしていた上に実の両親まで殺した癖に最後は下らない理由でまるで物のように簡単に売ってしまった父をジェレミアは許す事が出来なかった。
父と母から感じる圧倒的にシエラの尊厳を無視した様子はいつもジェレミアを苛立たせていたからだった。
自分が愛故の狂気だとすれば
父は欲望と前皇后への叶わなかった想いへの八つ当たり。
母は、自分の息子を傀儡にして自分が頂点に立つ為の駒とし、シエラを前皇后への嫉妬の捌け口にしていたのだった。
「それはっ、仕方なかったんだ!!」
「屈辱と痛みを父上達も知った方がいいね……」
「ジェレミア、よく考えるんだ…….っ」
「命が惜しいの?」
「……っ」
「安心してよ、父上から殺してくれと縋るはずだよ」
「ジェレミア!!!」
「父上は、姉上に情けをかけたの?」
「シエラなら必ず買い戻す!!」
「買い戻す?」
(父上にとってあくまで姉様はモノと同じ……きっと変わらない)
「あ、違う!連れもどす!」
「もういいよ、僕は暇じゃないんだ皇帝だからね」
怒りに満ちた皇帝の表情、幼い頃はあんなにも恐ろしくシエラと震えた手を握り合ったというのに今はとても滑稽に見えて鼻で笑った。
かつての自分達のように小さく震えて、縋る父の姿が小気味よく感じた。
「ホットワインを持ってきてくれ」
「姉様…….」
(償う方法が分からないよ……)
「父上の食事を暫く抜いて」
(かつて姉様が反抗した際に母がよくそうさせていた、父は飢えに苦しみ泣く姉上の表情にさえも恍惚とした表情を浮かべていたな)
「同じ苦しみと、相応の罰を……」
「受けるべきは僕も同じ……か」
その場で蹲って膝に顔を埋めた。
子供のころは、そうしているとシエラがおそるおそる覗き込んできては抱きしめてくれたものだった。
「姉様……会いたいよ」
ジェレミアの声を拾うものは誰も居なかった。
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